22:焼き肉
〇前回のあらすじです。
『家事をまかされたユノが料理をする』
がたんッ。椅子の脚が鳴る。テノンが姿勢を変えたのだ。
「なあ。あんまそうは見えないけど、ユノって冒険者なんだろ?」
ちょこん。とテーブルにひらいた手のうえに、ちいさい顔を載せている。
負けん気のつよそうな灰色の瞳には、好奇の光が灯っていた。
「いろんなとこ旅したんだろ? その話し、聞かせてよ」
「えーと」
旅先で起こったことがらはさまざまだ。その全てを話してしまっていいものか。ユノは言葉に詰まった。
(魔王のこととか。巫女のこととか。どこまで話していいのかな)
調理台に立ったままユノは考える。
(王都での処刑は……。あんまり言いたくないな。【コルタ】でのことも、あまり言いふらすようなものじゃないし)
思いあぐねていると、テノンがしびれを切らした。
「なあんだ。なんにも無いのか」
「うん。ごめんね」
また退屈そうにテノンはテーブルに突っ伏す。
埋めあわせるように、ユノは訊いた。
「あのさ。テノンは【パンドラの箱】って知ってる?」
「はこ?」
「知らないならいいんだけど」
「うーん」
腕組みをしてテノンは考えた。
(こんな小さい子に訊くボクもどうかしてるよな)
どうしてそんな気になったのかはユノにもわからない。ミースの村に【箱】の手がかりがあるという期待がそうさせたのかもしれない。
あるいは。こんな『小さな子ども』だったからこそなのかもしれない。
大人にとって、仮に禁忌だったとしても、子どもだったら「よくわからない」くらいの反応で済むだろうというあまえ。
「箱なんかどこにでもあるけどさ。欲しいの?」
用意していた大皿に、ユノは鹿の焼き肉を盛りつけた。
「……いや。いいや。忘れて」
井戸水と根菜。牛のミルクで作ったスープも、ナベから陶磁の器によそう。
「めしだっ。いい匂い!」
テーブルの中央には、常備している果物と、テノンが台所からまっさきに移動したパンの皿があった。
湯気に顔をつっこんで鼻をひくつかせるテノンのまえに、昼食を置いていく。
丸太の席にユノは座った。
「いっただっきまあす」
ちょっと椅子に座りなおして手をあわせて、テノンはスプーンとフォークを取った。
「あ。そうそう。箱ってのはよくわかんないけどさ」
勢いよくスープにがっついて、そのあと肉をゴッソリ自分の取り皿にわける。
「精霊さまに会ったことあるんだぜ。オレ。村のみんなは信じてくれないけど」
肉を刺したフォークをくちに運んだままユノは固まった。
がつがつ食べながら、テノンは話しをする。
「今年の二土用の月だったかな。兄ちゃんと泉に水あびに行って、オレ帰り道に迷っちゃったんだ。だって暗いんだもん。そしたらキレイな女のひとが出てきて、助けてくれたんだ。【魔法】みたいなの使って。気がついたら、オレは家のふとんで寝てた」
「それ。夢だったんじゃないの?」
肩すかしをくらった気分でユノはテーブルに突っ伏した。
「ほら、みんなそう言うんだ。でも証拠だってあるんだぜ。あとで見せてやるよ」
「うん……」
気分を悪くしたかな。
とユノはテノンの表情をうかがった。テノンはまだ虎の子を見せていない者の余裕で、むしゃむしゃ肉とパンを食べている。
「ねえ。スープおかわりしていい?」
「いいよ。よそったげるよ」
「へへー。ありがと」
席から立ちあがって、ユノは鍋のまえに行く。
おたまでミルクのスープをすくいながら、少年の言葉を反芻した。
(精霊に会ったことがある――?)




