20:村へ
〇前回のあらすじです。
『森で出会ったバリトとテノンの兄弟に、ユノがついていく』
〇
「ほら。ここがミースの村だよ」
門のまえからバリトは手で示した。
木材とクギで造った囲いが、ちいさな敷地をぐるりとめぐっている。
柵にはペンキで模様が描かれていた。赤や白、黄色。極彩色の色使いは、どこかトーテムポールを思わせる。
村の門をバリトとテノンはくぐって入っていった。ユノは【ミース】の村のようすを横目にながめる。
森を開墾した土地に、地下水を汲む井戸を中心として家々が建っていた。
いちばん奥の一段と高くなった岩棚に、大きな屋敷がある。
ほかは丸太づくりのちいさな建物で、民家というよりは『小屋』というおもむきだった。
そのひとつ。屋敷の近くに兄弟の家はあった。
近くと言っても、住民の集落と屋敷とは、芝生をはさんでいくらか距離がある。
ぎぃ。
丸太小屋の戸をバリトがあけた。
背の高い矩形から、中天の陽が注ぎ込む。
屋内を照らす。
「どーぞ」
戸口のわきからバリトがユノをなかに促した。テノンが駆けてきて「オレいっちばーあん!」に帰宅を果たし、ユノはおずおずとお邪魔する。
「きみには今日一日、うちの家事をしてもらうよ。ユノ」
バリトは手短に話した。
鹿の死体を持っているため、彼は戸のそとに立ったままだ。
「掃除に薪割り。飯の仕度……。それらをやってくれ」
「それくらいなら……」
「えー!」
不満の声をあげたのはテノンだった。
木のテーブルから、テノンは身を乗りだす。皿に盛っていた果実をかじりつつ、兄に抗議した。
「そんだけかよお。一週間くらい肩がわりしてくれなきゃ」
腹の虫がおさまらない。
弟がつづけようとした言葉をバリトがさえぎった。
(一週間はこまるなあ)
小屋のなかで、ユノは座ることもできず、戸口のバリトとテーブルのテノンの板ばさみ。
彼ら兄弟を、目をおよがせて交互に見る。
このミース村をユノがを訪れたのには、わけがある。
【教会】からたのまれた、【パンドラの箱】なるものを得る手がかりをつかむため。
そしてなにより、精霊【ビビアン】と会うためである。
一日や二日ならいざ知らず、あまり長々とここで油を売るつもりはない。
「配膳係も代わってもらうんだぜ?」
ぴんと人差し指を立ててバリトはテノンに言った。
ぴた。とテノンの動きがと止まる。
「えっと。配膳係ですか?」
青年のほうにユノは訊いた。
「ごはんの仕度となにが違うんです?」
がりがり。バリトはうなじを掻く。
「うーん。それが……。俺たちのお膳を用意するってのとは、またべつなんだよなあ」
「牢にいるひとに持ってくんだよ。夜に」
ぶっきらぼうにテノンが説明した。丸太のダイニングチェアに座りなおしてリンゴをかじっている。
きれいに芯だけを残す。
(そっか。罪人の食事番か)
ちらっとユノはテノンを盗み見た。テノンのほうはユノを無視して、むしゃむしゃほかの果物を食べている。
「村の者で朝、昼、晩と交代で食事を運んでるんだけどな」
簡単な事情をバリトが話す。
「今日の夜は俺たちの家の当番。でも、俺は警備の仕事がはいってるから、テノンに運び役をたのんだんだ。そしたらこいつ、『怖いからヤダ』ってごねてごねて」
「はは……」
ゆるゆるとユノの肩からちからが抜けた。乾いた笑いをもらす。
威勢がよくっても、テノンはまだ小さな子どもなのだ。
牢屋に入れられた犯罪者に近づくのを嫌がるのも無理はない。
ばんッ。
乱暴にテーブルをなぐってテノンが立ちあがった。顔を火のようにまっ赤にして怒っている。
「罪人ならワケないさッ。そう。ただの人間ならなっ。でもさ――」
ぱたぱたとバリトは手を振ってテノンをなだめた。
「わかってるよ。だからよそもの――。しかも冒険者に代わってもらえて、俺もほっとしてるんだ」
そう言ってバリトはユノを見た。
それから鹿の解体をしに、バリトは屋外へと出ていく。
うしろ手に、戸が閉められた。




