15:神の道具
・前回のあらすじです。
『司祭のマールータが、パンドラの箱についてはなす』
【箱】の説明をマールータは終えた。
礼拝堂がシン……。とする。
静けさはユノが来たときからだったが、いまはそのとき以上に閑古としていた。
肝心なことをユノは聞いた。
「それで。そのパンドラの箱は、どのへんにあるんですか?」
ゆっくりとマールータは首を振るう。心底無念そうに。
「それはわかりません。わからないからこそ。我々はあなたたち冒険者に、たよらざるを得ないのです」
――と。いうことは。
絶望的な発想に、ユノはぎょっとした。
「世界中を探しまわれってことですかッ?」
マールータは鈍くうなずく。
むちゃだ。ユノはと落胆する。
しかし――。
「神具については、妖精や精霊もまた深く関わっているといいます。くだんの『箱』にしても、妖精のなげきを神が封じ込め、浄化し創りだしたものだとか」
(うーん。神様かどうかはともかく。マーリンさんならやりかねないな)
老司祭マールータが神具とあがめる【カルブリヌス】に、【神託の銅板】。それらは魔女【マーリン】がつくったものだ。
ならパンドラの箱も、その可能性は高かった。
(なら。マーリンさんに訊きにもどるって手もあるけど。……もうあの森は、結界で隠されちゃってるだろうしなあ)
――伝説級の魔法使いマーリンのすむ森に、ユノは旅の都合でおとずれたことがあった。
もちろん。マーリン本人との面識もある。
だが。彼女は無類の人間嫌いで、普段は森と、それを抱える小島【シチリ島】を、幻惑の魔法で本来とはちがうすがたに変えていた。
そうして元の奇態な景色を隠し、かつ奥にはいれないようにして、冒険者たちを門前ばらいしているのだ。
彼女のもとへユノが行けたのは、単なる幸運にすぎない。
そしてその運は、もうしばらくめぐってくることはなさそうだった。
ちらっ。とマールータをみあげる。
「お話し、ありがとうございました。そのー。最後に、その神具と関係があるっていう精霊のいるところって……。わかりますか?」
言いわけがましいな。と自分でも思いつつ、ユノは訊いた。
ついでの用事というていで、精霊の手がかりもつかんでおきたかったのだ。
それがビビアンにつながるかどうかは不明だが。
「もっとも名が通っているのは、パペルの塔でしょうな。ここいらあたりでは……。やはり、更に東でしょうか。しかし野蛮なものどものすむ地ゆえ、行くのでしたら、お気をつけて」
ごくり。とユノは固唾をのんだ。
ふいにマールータの声が殺気めいたのだ。
妖精と精霊については、教会のバイブルでもあつかいが明確化されていない。
神の『道具』として妖精らを語るのはかまわないが、それらを『神』と同格にまつりあげる風俗については、教会関係者はおだやかではいられなかった。
とはいえ。ユノには彼らの線引きはよくわからない。
「町か村があるんですか。名前がわかるなら、教えてほしいんですけれど」
より詳細をもとめてユノは食い下がった。
この町のように、精霊に対してある種のプレッシャーのある土地は、早目に去っておきたかった。
「名は……。ミース」
マールータはみじかく告げた。
「気術なんぞというあやしい術にたよりっきりの、原始人のすむところですよ」
言って、マールータはゆるくかぶりを振った。
それから教典をひらき、くちなおしでもするように、祈りの言葉をくちずさむ。
お礼を言って、ユノはマールータに背を向けた。
(『第1話:少女のおつかい』 END)
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