97話 勇者と未来の狐さん
今回もレイジの視点です
それと少し長いです
「とりあえずこいつらをみんな転送しちゃうわ」
そう言ってユキ様が胸元から一枚の術札を取り出し、それを上空に投げたと思ったら、倒れてた40名近くのものが一瞬で光って消えた。
転送の術は凄い難しいらしく、ユキ様もエレン様も使えないって言ってたのに、目の前に居るユキ様はあっさりと使った。たった数年だけど、相当成長したってことかな。
「これでよしっと。それじゃ少し説明する?」
「そうして貰えると有り難いかな。僕だけなのも変だし、みんなを起こしてこようか?」
「んー、時間もあまりないからそれはいいかな。とりあえず座って座って」
そう言ってユキ様に手招きされ、庭にあるベンチに並んで座る。なんだろ、妙な違和感が……、気のせいかな?
「まずは人数を言い当てた理由だけど、簡単に言っちゃうと狐族の力だよ。狐族は危険に対する勘が優れていてね、ほとんど未来予知に近い能力があるの。だから人数や時間がある程度予想できたってとこよ」
「未来を予知する術でも開発したのかと思ったけど、なるほどそういう力ね」わ
「常時発動もしないし万能でもないから、今回は能力が発動して運がよかっただけなんだけどね~。さぁさぁ他にも聞きたいこともあるようだし、遠慮なくどーぞ」
ユキ様が笑顔でそんなことを言ってくる。正直言ってその笑顔は反則じゃないかな? 本人は意図してないと思うけど、可愛すぎてナチュラルに魅了されそうになる。たった数年でここまで魅力を上げてくるとか、カイルだけでなく他の貴族も青年前であろうが必死になるのがよくわかったよ。
「それじゃ遠慮なく。えっと、どうして未来から来たのかな?」
「真相を探るため、かな。今から8年後かなぁ、ちょっとした争いが起こるの」
「争いですか、ちょっと物騒だね」
「まぁねぇ。んで、その首謀者の中に今日相対するパーティのリーダーが居たんだ。その時は何が原因かからなかったけど、こうやって過去に来てわかった。どうやら今日の結果を受けての復讐が理由だったみたい。もっと壮大な裏事情があるかと思ったけど、気にしすぎて損したわ」
復讐、か。おそらく今日の対決でプライドを完全にへし折って、さらにパーティの女性陣との仲まで終わらせたんだろうなぁ。お姫様たち、売られた喧嘩は何千倍にもして返す性格だし。
「それだけのために過去に来たのかい? 言ってはなんだけど、多少策を練られたところで負けるどころか返り討ちにしてると思うのだけど」
「まぁ普通ならねぇ……今回は普通じゃなかったんだ。わたしとエレンを倒す専用の兵器なんか持ち込まれちゃって、どうにもならなかったの。油断してたわけじゃないんだけど、予想を超える兵器だったわけ」
「えっと、それってつまり?」
「つまりね、わたしたち負けちゃったんだぁ。それも完膚なきまでにやられちゃってね、ほんと笑えないよね~」
負けた? いやいやそんな馬鹿なことがあるわけ……。でも現実にユキ様がここにいるということは、そういうことなのか……。
油断はしてなかったということは、その専用の兵器の効果で負けたということになる。兵器についてはまったく予想がつかないけど、ユキ様がこの時代に来たということは、この時代にヒントがあるってことかな。なら僕はそれを手伝えばいいのかもしれないね。
そう思い手伝いを提案したけど、すごい苦笑いしてはぐらかされた。
「ありがたいけど無理なんだ。なんとなく違和感あるでしょ?」
「確かに。なにが引っかかっているのかは不明だけど」
「えっとね、白状すると今のわたしって魂だけの状態なの」
「はい!?」
いやいやいや、ちょっとまってくれ。魂だけって一体全体どういう状態なんだ?
そもそも目の前にこうして……あぁそうか、違和感の正体がわかった。今のユキ様、〝呼吸〟してないんだ。精霊に近い存在とはいえ、普段は呼吸している。でも今は呼吸の必要が無いということは、そういうことか……。
「わたしは精霊に近いから、一応魂だけの状態でもこうして存在できるの。でもみんなは無理。あ、誤解しないでもらいたいけど、死んでいないからね」
「死んでいないのに魂だけって……」
「えっと、死んではいないけど封印されてる状態なの。なんとか封印される直前に魂を分割したのが今の状態なの。厳密に言うなら、未来のわたしが一時的だけど二人に増えたみたいな?」
魂を分割とか、ほんと規格外すぎるよこの人。
その後、ユキ様が詳しく説明してくれたけど、内容が予想外過ぎた。
僕たちを襲ったのは神聖王国の勇者部隊だったそうな。大勢の勇者を一度に召喚し、一つの部隊としてまとめたものらしい。正確な人数は不明だけど、前世界の勇者まで含まれていたとのこと。
しかも厄介なことに勇者の一人が僕の知り合いみたいだ。僕はその勇者を説得しようとしたが失敗、最初に倒された。少し情けないなぁ。
でも、この事実からわかることが二つある。
前世界での勇者を召喚する手立てを神聖王国は持っていることと、その勇者は僕よりも強いということ。
前世界で僕以上に強い勇者は数人だったから、その誰かが召喚されたということになる。
僕がやられて最悪な状況が迫ってると判断、すぐに逃走を図った。
しかし包囲されており逃走が困難、そのためユキ様とエレン様だけでも逃すためにアリサとノエルの二人は強引に突破口を開こうとしたけど敵わず討たれた。
アリサが討たれたことでユキ様の理性が崩壊、しかしそれは大きな隙となった。
敵はその隙を逃さず兵器を使用したが、ユキ様に当たる直前にエレン様が身を挺してその攻撃を庇った。
だが敵はそれを予想していたようで、攻撃はもともと対エレン様用の兵器から放たれたものだった。
直撃を受けたエレン様は瞬く間に巨大な結晶に閉じ込められる状態になったらしい。しかもそれが直撃から1分も経たずに起こったと。
厄介なのはその封印がユキ様はおろか、サユリ様たちでも解除できないとんでもない封印らしい。
結晶で覆うのは見せしめの意味を兼ねだそうで、殺すよりもたちが悪い。
しかも生きてはいるけれど、決して目覚めることができない状態とのこと。これはおそらく『解除できれば元通り』という希望をちらつかせるため、胸糞悪いな。
それにしても結晶で封印するとか、なんとなく日本の創作物の定番っぽいシチュエーションだなぁ。僕と同じ日本からの転生者が力を貸してそうだ。
「エレンまでやられちゃったせいで、わたしってば完全にキレて暴走しちゃったの。だけど感情に流された暴走じゃ敵の脅威にはならなくて、それどころか逆に攻撃を何度も受けることになり、あっという間に負けちゃったんだ~」
正直言って信じられない。
だってあのユキ様だよ? 敗北とは無縁としか思えない人なのに負けたって、嘘だろ……。
話を聞く限り、過去の虐殺事件の恨みを晴らすためにやられたみたいだね。
神聖王国の自業自得な事件だったはずなんだけど、向こうはそうは思っていなかったと。
恨みを晴らすため勇者を、それも一人二人ではなく数百人召喚したようで、その中にユキ様たちがやられる原因となった兵器の開発者もいたらしい。
そこまでして恨みを晴らしたいとか、腐ってるなあの国……。
「まぁ、わたしたちが弱かったってことだね~。ただね、それで終わりじゃなく、ひとつ問題が起きちゃったの。わたしまで封印されちゃったから、お母様が完全にキレちゃってね。レグラスの民とお母様と縁のある人以外、みんなお母様が殺しちゃったの」
サユリ様はユキ様を激愛してるからなぁ、無理もないか。
問題なのはただ殺すのではなく、呪いながら殺していったことらしい。
使われた呪いは禁術に属し、内容は死ぬまでの一瞬が何万年にも感じるようになり、同時に耐えがたい痛みと苦しみを味わい続ける。そして魂は輪廻転生どころかあの世にも行けず、完全に消滅させるというもの。
呪いなので反作用があるらしく、どうやら未来のサユリ様は反作用で精神が完全に崩壊。記憶も感情も何もない、ただ生きているだけの状態になっているそうな。
ユキ様があっけらかんとして話してくれたけど、これはそんな態度で話す内容じゃないよ……。
「さすがにそんな未来ってちょっと悲惨でしょ? だったら変えちゃおっかなぁって思ったわけよ。運が良いことに魂だけでも術が使えたから、ダメもとで過去に飛んできたってわけ」
未来を変えるとか、また壮大だなぁ。
だけど気持ちはわかる、僕だってそんな未来はごめんだよ。
ユキ様の予想では、おそらく過去を変えたらユキ様が居た未来は完全に消える、そもそも存在しない未来になる可能性が高いらしい。別の未来が派生するのではなく、完全に無かったことになる、と。
過去を変えたら別の未来が派生するのが本来のようだけど、精霊として過去を変えた場合は異なるらしい。
未来が派生せず、未来はリセットされやり直しになるとか。精霊とそうでないかで時間への干渉が変わるとか、なかなか興味深い。
だけど、今ここに居るユキ様はどうなるんだ?
未来がそのままなら元の時代の体に戻るとは思うけど、その未来が無くなったら消えてしまうのでは? より良い未来にするために頑張ったのに消えるとか、ちょっと残酷すぎないかな。
「未来で起こる内容と対策、それとわたしが調べた内容はこのノートにまとめてあるから、レイジはこれをこの時代のわたしに見せてあげて。それと補足とかもお願いしたいかな。たぶん今の時代のわたし、読んでもなんのこっちゃって感じで流すかもしれないから」
ユキ様から1冊のノートを受け取る。
魂だけなのに物を触ることができるとか、ほんと規格外な人だよ。
「あとは、もしかしたらお母様が朝一に押しかけてきちゃうかも。ここに来る前、お屋敷で寝ているお母様の枕元に立って『ごめんなさい』って挨拶してきちゃったから」
「了解ですよ、その場合も僕がフォローしておく」
「おねがいね~。さてと、そろそろかなぁ」
なんの事だろって思ったら、ユキ様の輪郭が少し薄くなってきてる。時間が無いって言ってたし、そういうことか。おそらくユキ様がいた未来が不確定なものとなり、消えかかってるんだろうな。
そして、これが未来のユキ様の最後、ってことになるのか。
「変なこと聞くけど、ユキ様って未練とかないのかな?」
「そりゃいっぱいあるよ! もっとおいしいもの食べたかったし、みんなとももっと遊びたかったし、ちゃんとしたデートとかもしてみたかったなぁ。それにそれに――」
明るく振舞ってるけど、やっぱそうだよね。未来の僕にも未練があったと思うし、後悔だってあったと思う。
でもそれを叶えることはできない。
だけど
「ユキ様、消える前に少し付き合ってくれないかな?」
「いいけど、何かな? 残念かもだけど、未来でもわたしとレイジは恋仲じゃないからね!」
「はは、だと思った。まぁそれは置いといて、付き合ってもらいたい内容なんだけど――」
僕も勇者の端くれ、目の前に救えそうな人が居るのなら全力で救いたいんだ。
簡単にまとめると
精霊以外が過去を変える→未来が分岐する(パラレルワールド発生)
精霊自身が過去を変える→未来がリセット(やり直し)
という、ちょっとご都合展開です
魂だけなので人ではなく、ほぼ精霊な状態だからできた裏技でもあります(通常状態では無理)




