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96話 勇者防衛網

今回はレイジの視点です

「予想通りなんだけど、ここまでするかなぁ」


 僕の目の前には意識を失った冒険者が40名近くいる。いわゆる夜襲を仕掛けられた結果だけど、さすがに多すぎじゃないかな?





 遡ること1時間前


「あーそうだ、ねーねーレイジ、ちょっとこっちきて」


 あとは寝るだけの状態で、突如ユキ様に呼ばれた。

 ニコニコしてるけど、なんとなく真面目そうな雰囲気。しかもわざわざ呼ぶということは、何かこっそり話したいことがありそうだね。


 ユキ様の傍に行き、話を聞く。

 って、ユキ様? エレン様たちに聞こえないように耳打ちしたいのか、ちょっと近すぎませんかね?

 しかも爪先立ちになって、さらにバランスをとるため僕の肩に手をのせるとか、わざとやってる……わけじゃないか。この仕草はカイルでなくとも誤解するなぁ。


 まぁ僕の中では絶対にユキ様に対して恋愛感情は持たないと決めているから、少し揺らぐけど何とか耐えられる。

 これはアリサが怖いってのもあるけど、恋愛感情よりも尊敬しなきゃいけない気持ちが強いから。僕の勘ではユキ様の前世って〝彼〟なんじゃないかって思うからだけど。


「えっとね、たぶん敵が1時間くらいしたら来ると思うの。あのハーレムパーティのリーダーが雇った冒険者か傭兵が多くても40人くらいだと思うけど」

「そこまでしますかね? 明日戦うのにわざわざ襲うとか、意味が分からないよ」

「んー、おそらくわたしとエレンを攫って脅すためじゃないかな? わたしたちのパーティのリーダーはレイジだと勘違いしてるようだったし。なによりあの男、パーティの女連中にカッコつけないと気が済まない感じだったから、万が一の事態を回避するためには必要なんだと思うよ」


 ユキ様が言うように、おそらく二人のお嬢様が大事ならば負けろとかそんな状態に持っていこうって考えかな。

 実力があろうとなかろうと、脅してまで勝とうとするのは駄目だろうに。


 ただなぁ、僕よりもお姫様二人のほうが強いんだけどなぁ。攫う相手の情報を下調べするとかしなかったのかな。


「ということは、僕がそれを退治すればいいんだね?」

「そゆことー。たぶんわたしはアリサとエレンに抱きつかれて動けない、ノエルも敵が中に入ってくるまで目が覚めないと思うの。まぁ結界があるから入ってこられないんだけど、せっかくなら捕まえちゃおうかなぁって。雑魚を捕まえたら情報を聞き出して真犯人を捕まえる、みたいな?」

「了解ですよ。捕まえたら教えてもらった地下室に詰め込んでおくよ」

「そこらにある魔道具は好きに使っていいからね。睡眠調整のもあるし、拷問用のもあるからね!」


 拷問用って……、この人、可愛い顔して危険な魔道具を作ってるんだけど。


 拷問の魔道具ってどういう物か聞いたけど、正直聞くんじゃなかった……。

 拷問というのには生易しい感じで、受けた側はおそらく殺してくれって叫ぶ代物。尊厳を奪う代物まであるとか、徹底しすぎじゃないですかね。

 何度も言うけど、可愛い顔してなんて危険な物を作ってるんですかね。


「成功報酬は何か考えておくね。それじゃお願いね~」


 そう言ってユキ様は僕から離れ、寝室の方に向かった。

 拷問はさておき、番人としてお姫様たちの睡眠を守るよう少し頑張りますか。





 夜襲を待つ間、用意された魔道具を操作して分かったけど、どれもこれも民生品とはレベルが違うなぁ。ユキ様が作ったんだろうけど、相変わらず規格外の才能を持ってるね。


 それに息抜き用に各種ゲーム機まであるとか、至れり尽くせり。

 しかもどう見ても日本にあったゲーム機と同じ、僕が知ってるゲームソフトまで置いてある。知識からの再現なのかな? ほんと規格外なお人だ。


「おっと、来たようだね」


 設置されている魔道具のディスプレイには敵と思われる集団が映し出され、そこには人数と装備、ある程度の能力まで表示されている。

 っていうか、これってちょっと反則じゃない? 相対する前に敵の能力も規模も把握とか、屋敷に付けるレベルの魔道具じゃない気がするなぁ。


 気を取り直して外に向かう。


 数は40、どれも冒険者としては鉄級止まりの実力だったか。

 僕一人で十分の規模だけど、念には念を。油断のせいで傷を負ったりしたら、間違いなくお姫様たちからいろいろ言われるのが分かってる。それは絶対に避けないとまずい。お姫様たちはそういうところ容赦ないからなぁ。


「出迎えは一人だけか? 坊主、悪いことは言わねぇ、屋敷にいる娘をオレ達に渡しな。そうすれば痛い目を見なくて済むぜ。なんたって俺達は〝A級冒険者〟だからな!」

「おっと、前の世界でも聞くことが無かったテンプレをここで聞くとは思わなかった」


 お約束過ぎてちょっと嬉しくなる。まだ日本に居た時、漫画や小説、ゲームの世界に憧れてたからなぁ。

 でも実際に召喚された最初の異世界は憧れとは真逆、夢も希望もない最悪な世界だったけど。


 しかしお約束でワクワクするとか、僕もまだまだ少年ってことだね。

 まぁ日本からの累計だと僕ってアラサー世代になるから、もうちょっと落ち着いた大人になった方がいい気もするが。


 さてと、せっかくのお膳立てだ


「僕もお約束のことを言うけど、ここから先に進ませることはできない。どうしても進みたいのなら、僕を倒していくことだね」


 もしも負けたら、僕は四天王最弱とかなんとか言われそうだ。さすがにそれは避けたいかな。


「ガキのくせに口だけは一人前だな。いいだろう、お前を倒してから進んでやるよ!」


 男の一言により全員が武器を構え一斉にかかってくる。

 装備の良し悪しは僕にはわからないけど、魔剣の類なのは分かる。切りあうのは危険、ここは避けるのが無難かな。


 なにより囲まれるとまずそうだ、手早く終わらせよう。

 だけど殺しはまずいし、木刀にしておこうか。まぁ木刀でも力を込めれば立派な武器になるから、多少は手を抜いたほうがいいか。


 ポーチから木刀を取り出し、そのまま一気に


「一閃!」


 木刀を横に薙ぎ払う。

 だいぶ力を抜いたから、半分くらい倒せれば上々か……って、え?


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」

「し、しぬぅぅぅぅぅぅ、しんじまうぅぅぅ」

「おらの、おらの手がぁぁぁぁぁぁ!!!」

「だ、だずけでぇ」


 地獄絵図になったんだけど、どういうことだこれ。

 あるものは泣き叫び、あるものは全身から血を流し、手足がもげてるものまでいる。無傷どころか立っている者が一人も居ないとか……。


 今の力加減は絶妙で、オークが致命傷を負うギリギリに抑えての一閃だったけど、その結果がこれかい?

 そもそもオークなら鉄級冒険者でも倒せるのに、こいつら鉄級未満ってことなのかい?

 まさかこんな低レベルの冒険者が襲ってくるとは思わなかった……。


 これ以上騒ぎが広まるのも近所迷惑だし、用意されていた魔道具を使い全員眠らせるか。

 魔道具を起動してと。


 ……いやまぁ製作者を知ってるから納得の効果なんだけど、何人か強制睡眠をレジストするための魔道具持ってたのに、それを完全無効化して眠らせるのはどうなんだ?

 普通の魔道具じゃなく、伝説のアーティファクトとかそういう物な気がするんだけど、そんなのを簡単に貸し出していいのかな……。





 さて、回想するのはここまでにして、さっさと運ぼうか。

 それにしても、本当にユキ様が言った通りの人数で襲ってくるんだもんなぁ。相変わらず勘が鋭いというか、まるで未来を見ているというか……。


「ふふっ、言った通りでびっくりした?」

「そりゃそうですよ。というかユキ様は起きてきてだいじょう……ぶ?」


 声のする方を見たら、ユキ様が起きてきた。

 でもおかしい。まず身長が普段よりも少し高く体も成長している。顔には幼さがあるけど、大人に近づいたような色気がある。一体何が起こったんだ?


「えっとユキ様、だよね? その姿は?」

「んっと、ここはわたしにとって〝過去〟なの。簡単に言っちゃうと未来から来たってやつだね。今からだいたい8年か9年先かなぁ、そんなに遠い未来じゃないよ」


 はい?

 いやまぁ異世界召喚なり転生があるから、時間を移動する人だっていると思う。でもそれが身近の人で、さらにそんなに遠い未来からじゃないとか。

 これじゃファンタジーだと思ってたらSFになった感じだよ。しかもサイエンスじゃなく〝すこし・ふしぎ〟の方のSFに。

自称A級冒険者は、鉄級冒険者未満だったという真実

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