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95話 狐と竜の付き合い方

今回はエレンの視点です

 一緒に住む、ですか。

 ユキさんからの提案は非常に魅力的です。


 ですがそれを受けてしまったら、わたくしはアリサさんと敵対する気がします。

 だってアリサさんとしては、きっとユキさんと二人だけのほうが幸せなはずですもの、それを邪魔するようなことは避けたいですわ……。


 わたくしにとってユキさんは初めてできたお友達、そしてアリサさんは二番目にできたお友達ですもの、不快に思わせる原因をわたくしが作るなど言語道断、絶対にできないですわ!


「エレン様、考えすぎじゃないですかねー」

「どういうことですの?」


 お風呂から上がり、髪をノエルさんに乾かしてもらっていたのですが、どうやら顔に出ていたみたいですわ。

 ふふっ、これじゃユキさんと同じですわね。


「確かに先輩にとってお嬢様は特別なんです。でも特別だからって独占したいわけじゃないんですよ? というか、先輩のほうがお嬢様に求められたい、独占されたいって感じですかね」

「そう言われてみれば……」


 メイドだからと思っていましたが、確かにわたくしたちがユキさんと話していても、特に不愉快な顔はされなかったですわね。

 それに、ユキさんがアリサさんに対して何かをお願いをしたとき、非常にうれしそうなお顔をされてたような。


 お二人のスキンシップが過激なのも関係あるのでしょうか?

 若干羨ましいような、わたくしもやってみたいと思ったりかったり思わなかったりしますが……。


「なら先輩と話してみますか? ちょっと代わってもらいますねー」


 そう言ってノエルさんは、少し離れたところにいるユキさんたちの方に向かいました。

 本当はわたくしも近くで乾かす予定でしたが、恥ずかしいので少し離れさせてもらったのがよかったですわ。考えをまとめたり、冷静になる時間が少し作れましたもの。


「ちなみに、レイジはどう思いますの?」


 こういう時は一人で悩まず、近くで本を読んで待っているレイジの意見も聞くに限りますわ。


「僕としては受けちゃった方がいいと思うかな。それにエレン様、お屋敷に帰っても居場所が無いですよね。弟君のせいというわけじゃないけど」


 レイジが言うように、屋敷にはわたくしの居場所がないですわね。弟を当主にするための重要な時期なのはわかっていますが、少しだけ寂しいのは事実ですわ。


 わたくしと同じ年に生まれた、もう一人の生まれつき天魔に進化していた竜族の子。腹違いとはいえ、正真正銘わたくしの弟。わたくしも弟も、まさかこんなことになるとは考えもしなかったですわ。


「それに、今週はノエルが一緒だけど、来週は居ないんですよ? 今よりももっと疎外感を感じるんじゃないかな」

「かも、しれませんわね……」


 確かに、昨日はノエルさんが居たので気が紛れました。たった一人増えただけなのですが、わたくしにとっては大きな違いでした。でも来週は居ないのですね……。





「深く悩んでいますね。ノエルから代わってくれと言われたので何事かと思いましたが、なんとなく察しました」

「アリサさん……」

「とりあえず髪を乾かしながらにしましょうか。それで、先ほど少し聞こえましたが、居場所が無いとはどうしたのですか? 最近現れたという、エレン様と同じく天魔に進化した竜族の弟殿の影響でしょうか?」

「そこまでご存じですのね。実は――」


 そもそもこうなったのはあの愚かで馬鹿な父親のせいですわね。


 勘当した後、お爺さまが身辺を調査したらいろいろ出てきましたわ。不正なことはしてなかったのが幸いですが、女性関係がともかく酷く、子供までいる始末。

 いくら天魔となる竜族の子供を欲していたからとはいえ、何人もの女性と関係を持ち、望みの子供でなければお金で解決という、ほんと屑なトカゲですわ。屑トカゲの血がわたくしの中に流れてると思うと、心底嫌になりますわ。


 弟もそんな屑トカゲの犠牲者。

 ただ、弟の母親もわたくしのお母さま同様、弟が生まれると間もなくお亡くなりに。そのため、あの屑トカゲは弟の存在を知ることができなかったと。

 皮肉なのは、弟は屑トカゲが心から望んでいた、天魔に進化した状態で生まれた竜族だったことですわね。


 そんな弟は現在、お爺さまの下で心技体のすべてを学んでます。これは弟を次期当主にするため、わたくしは当主にはなりたくないので良かったことではあるのですが。

 弟の教育には外部の意見も積極に取り入れているので、当主としても頼りになる存在へ成長できるはず。


 だからでしょうか、屋敷で勤めている者たちは弟への関心がとても強く、対応が少々手厚くなっています。そのため、わたくしへの対応がずさんとまではいかないものの、以前よりもだいぶ簡素になりました。

 あれだけ次期最強の一族実現のためなどと言って、わたくしの行動をすべて制限し縛り付けていたのに、今ではすっかりですもの。あまりの変わりようで、笑ってしまうほどですわ。


 以前、お爺さまもわたくしへの対応が変わりましたが、縛り付けるのではなく、普通の家族として接してくれるようになっただけ、今回とは少し違います。

 それに、お爺さまは弟の教育もある忙しいお体ですが、わたくしのことをしっかり見てくれます。嬉しいのですが、お忙しいので逆に申し訳ないですわ。





「なるほど。少し極端ですが、エレン様はお屋敷に居なくてもいい存在になった、ということですね」

「ですわ。そしてその寂しさの捌け口をユキさんに求めてしまってる気がするのですわ」


 ひょっとしたらわたくしは、自分を癒すためにユキさんを利用してるのでは? と考えてしまうのです。違うと否定しても、心のどこかではそう思ってるのではないか、という不安もあるのです。


「求めても良いのでは?」

「え?」


 さも当然のごとくアリサさんがとんでもないことを言うのですが。茶化したようなお顔ではなく、真剣な感じですし。


「自分の弱さをぶつけても、それを癒してくれる存在というのは必要だと思います。もちろんお嬢様にもそういう存在は居ます。サユリ様やタツミ様といったご家族はもちろんですが、シエラ様たち王族の方も、そして私たちメイドもですね。お嬢様は人一倍寂しがりやなので、相手も自然と多くなった結果です」

「そうなのですね。それにしても寂しがりや、ですか……」


 少し意外ですわね。一人で何でもできるお方なのに、内面は寂しがりやですか。

 それはつまり、普段は精いっぱい頑張って立派な淑女であろうとしてると。なんでしょう、そう考えると可愛らしさのあまり庇護欲が沸いてきますわ。


「正直に申し上げれば、お嬢様と二人きりでなくなるのは少しだけ残念です。ですがそれ以上に、お嬢様がエレン様と仲良く毎日過ごせるという方が嬉しいので、私も歓迎ですよ」

「アリサさんってお強いですわね。わたくしだと嫉妬しそうですもの」

「そこはメイドですので、ある程度の自制はできるのですよ」


 そう言って笑みを浮かべられるのですが、それはつまり嫉妬はあるということですわね?

 嫉妬するということは、アリサさんにとってわたくしはライバルになりえると。ふふふ、面白くなってきましたわ!


「決心も固まったようですね。では、お嬢様へご返事をお願いしますね」

「ありがとうですわ」


 いざユキさんのもとへ。

 なんでしょう、告白するみたいでちょっとドキドキしてしまいますわ。

 た、たしかに一緒に住むというのは、その、つまり、あぁぁぁぁぁぁ。だ、ダメですわ、落ち着くのですよ。





「ノエルの尻尾もふわふわだよねー」

「お嬢様の尻尾には負けますよー。あー、そこ、そこが気持ちいいです」


 ユキさんは今、ノエルさんの尻尾にブラシをかけてますわね。若干ノエルさんがだらしない感じになってますわ。

 でもそのお姿の効果か、少し気が落ち着きましたわ。


 さてと


「ユキさん、少しお話がありますわ」

「いいよー」

「先ほどのご提案なのですが――」


 一緒に住むというご提案を受け入れると返事したところ、ユキさんが満面の笑みで抱きついてきました。とても喜んでくださったのは分かるのですが、もしもわたくしが断ったら真逆の反応をされたのでしょうか?


 まぁそのような〝もしもの結果〟はどうでもいいですわ。これでひと段落……あっ! わたくし、ユキさんと一緒に寝るというお約束をしてましたわ。だ、大丈夫かしら……。

弟君の出番は当分先の予定です

ちなみにどこかで書くとは思いますが、弟君との仲は悪くないです(ドロドロなお家騒動はない)

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