75話 お風呂で分かる可愛さの再認識
入学式は終わった終わった。
トラブルも無く、いやまぁ初っ端からモフモフされたり、カイルが来たりとトラブルっぽいのはあったけど、でも大事は無かったので一安心。
あとは帰るだけだけど
「それではユキさん、アリサさん、また明日ですわ」
「またねー」
エレンとレイジは学園併設の転移門へ向かったわ。転移門の使用許可出たそうで、ちょっとうらやましいなぁ。できるならわたしも毎日お家に帰りたいし。
でもエレンは逆に寮に泊まりたかったぽい。相変わらず好奇心旺盛だねぇ。
わたしとアリサは馬車に乗り、寮へと向かう。
乗るときにちょっと騒ぎになったけど気にしない。そのうち見慣れるだろうから、それまでの辛抱。騒ぎがずっと続いたらその時に考えよう。
馬車を走らせること30分、結構時間がかかったわ。距離もあるけど道路には他の馬車も走っているので、思ったよりスピードが出せなかったからしょうがない。
ただこれ、馬車による渋滞とかもありえるってことだよね。雪の日とか気を付けた方がよさそうだわ。
「寮もおっきいなぁ」
「貴族向けとは言え、学生が大勢いますからね。同じような寮がこの区画だけでも5戸もあるそうです」
5戸って、生徒数がとんでもないな。この寮もぱっと見、大きなホテルって感じで1000人くらいは泊まれそう。
しかも貴族以外の人用は別にあるわけでしょ。ほんとすごいなぁ。
まずは部屋に向かうけど、学園と同じで案内板が無いから迷子になりそう。
これはお国柄が出てるってことかな。わたしたちの国だと案内板が用意されてる施設がほとんどだけど、この国だとそういうのが無い。道は覚えているのが当たり前ってことなんだろうね。
寮なので通路ではいろんな人にすれ違う。
それで分かったけど、同い年くらいの子がほとんどいない。寮で年の近い友達作ろうとしてただけに、これはすごくがっかり。
そんなこんなで到着。
「お嬢様、この部屋になります」
「ほーい、それじゃ失礼しまーすっと。ほほー」
そこそこの広さがある綺麗な部屋、窓からの景色も良い感じだね。わたしとアリサだけって考えたら十分の広さなのかな?
残念なのはお風呂やトイレが備え付けでないのと、台所も無いってとこだね。どれも共用の設備を使うしかないと。
それに
「う~ん、普通のベッドが二つ、かぁ」
「普通の一人用ベッドですね」
「一人用じゃ一緒に寝られないし、これは手持ちのと交換だね。となると狭いから、空間拡張の術式も使っちゃうかなぁ」
「やっぱりそうなるんですねぇ……」
呆れてるけどすごい納得してるね。だって快適性は重要だもの!
というわけで、まずは空間拡張の術式を使い、部屋の大きさを10倍に拡張。これで何でも置けるようになったわ。
次に必要な家具などをポーチから取り出していく。この日のためにいろいろ作った甲斐があった。
まずは防犯性を高めるためにドアの鍵を術式を使って交換。普通のピッキングでは開錠できない優れものです!
次に下駄箱を設置。やっぱね、土足のままって嫌なんです。
出入り口の手直しが済んだら次は床。備え付けのカーペットは土足用なので、手持ちの素足で歩ける綺麗で柔らかいのに交換。
床が出来たら家具の設置。本棚にクローゼットやタンスはもちろんのこと、テーブルや椅子も全部取り換え。観葉植物や絵画、時計なんかも設置。オマケで簡易キッチンも出して水回りを術式で構築。
最後にベッドをキングサイズの大きな物に入れ替える。これなら二人でも余裕で寝れます!
とりあえずはこんなとこかな?
「お風呂やトイレもつけたいけど、大掛かりすぎるからちょっと諦めたわ」
「すでに大掛かりな気もしますが……」
「きにしなーいきにしない。あとは必要なものはちょくちょく追加していくってとこかな」
しかしなんというか、アパートを借りてそこに住むみたいだなぁ。
そう考えると、もうちょっとこだわりたくなるかも。まだご飯にしなくてもいいし、手持ちの小物とかをアリサと一緒に飾り付けて行こうかな。
「お嬢様、そろそろお風呂の時間ですよ」
「あーそっか、ここって時間決まってるんだっけ」
「その通りです。男女交代で入るそうなので、時間を厳守しないと入れなくなってしまいます」
生徒数が多いのでお風呂自体は複数ある。でもそのすべてを男女に分けるほど敷地は広くない。管理する側もこれ以上増やすと管理しきれなくなるからだっけ。各部屋に無いのも管理の都合だったかな。
交代制なのは女性の方が少ないから。女性陣が入ってる間に残りのお風呂も準備し、全部のお風呂が準備できたところで男性陣が入るそうな。
なお、混浴時間はない。あっても困るけどね。
ただなぁ、広さは空間拡張を、お掃除用は専用のゴーレムを、あとは一括管理できるように術式構築すれば全部解決すると思うんだけど、この国だと難しいのかな? まぁ膨大な維持費がかかるから無理ってのがありそうだけど。
着替えなどを持ち、アリサの案内でお風呂に向かう。
学園内じゃないから術式で脳内地図表示できるけど、アリサに手を引いてもらう方を選ぶわたし。こんな些細な事でも、頼られるとアリサって喜んでくれるんだよね。ほんと可愛い奴め。
しばらく歩き脱衣所に入る。
へぇ、ここも結構広いんだね、50人くらいが一気に入っても大丈夫なのかな。
しかも女性だけだからか、皆さん大胆。脱いだらタオルで隠すことすらしないで浴室に入っていくよ。体つきも大きい人もいれば小さい人もいて多種多様、これはちょっと刺激が強いわ……。
「おー中も広い。それに温泉なのかな? ちょっと硫黄のにおいがする」
浴室に入って真っ先に気が付いたけど、においからしてうちのお風呂とは成分が違うみたいだね。どんな湯触りなのか、効能も気になるなぁ。
次に気になったのはお風呂の数。温度が分かれてるようで、大きなお風呂が複数ある。これは好きな温度で入ってくださいってことだね。
でも、あの一番熱いのは誰も入らないでしょう。冗談抜きに沸騰してるよ……。
お風呂だけでなくサウナもあるね。
だけどさぁ、いくらサウナには水風呂が必須だからと言っても、氷が浮かぶほどの冷たさにしなくてもいいと思うんだけど。しかもよく見ると、表面にうっすら氷の膜が張ってあるくらいだし。加減というものを知らないのかね……。
お風呂へのツッコミはさておき、まずはいつものようにアリサに洗ってもらい、わたしがアリサを洗う。でもその光景が珍しいのか、周りから結構見られてる。
他の貴族の人はメイドさんに洗ってもらうだけで、わたしたちみたいに洗いあうことはしない。あくまで主人と従者って関係なのね。
うちはちょっと違うからなぁ。
メイドさんや執事さんは従者ではあるけど、同時に家族だからねぇ。一緒にご飯食べたりお風呂入ったりするのは当たり前な事だし。それにアリサはわたしの一番でもあるからなおさらだね。
洗い終わったところでお湯につかる。とうぜん熱すぎるのは回避、そんなチャレンジ魂はもってません!
「はふー、やっぱ温泉は気持ちいい」
「ですね~。少し周りの視線とかが気になりますが」
目立たない箇所でお湯につかっても、やはりわたしが狐族なせいでどうしても視線を集めちゃう。
んー、やっぱり家を買って二人で住むようにした方が良いかなぁ。そうすれば視線も気にならな……、二人で住むための家!?
自然と思いついたことではあるけど、これはちょっと難しい。二人で住むために買うとか、それじゃ恋人とか夫婦とかの境地だもの。
いやまぁきっとアリサは照れながら喜ぶのはわかってるけど、この歳でそれをやったら周囲の目がすごいまずい気がする。買うとしても青年期になってからのがよさそう。
「あ、みてみてアリサ、獣寄りの獣人だよ」
「ほんとですね。虎族の方でしょうか? 初めて見ました」
わたしも初めて見たので、つい指さしちゃった。
獣人は二種類いて、わたしのように人に獣耳と尻尾を付けた人寄りの獣人と、あの虎族の人のように獣が二足歩行しているような獣寄りの獣人が存在する。
たしか獣寄りだと魔力が低い代わりに身体能力が高くなるんだっけ。この人も身体能力が高いのか、ちょっと筋肉多めだね。マッチョってほどじゃないけど、結構引き締まってる。
顔は普通、身長は高めで手足も長い。近接職に向いた体つきだわ。
まじまじと見てたら、なんかアリサが不安な顔になったような。何かあったのかな?
「ねーアリサ、何か不安でもあるの?」
「えっと、お嬢様はあのような体の方が好みなのですか?」
「はい?」
「すごい見てますし……」
そんなに熱心に見てたかなぁ? たしかに魔力探ったり、筋肉量とかを測ったりしてはいたけど。
しかし好みを聞かれるあたり、無意識に下心でも出たのかな?
「ハッキリ言っちゃうと、女の人としては好みじゃないよー。好みはお母様やママ様、お姉様やシズクさんたちのような女性らしい体型だね。ちなみに男の人はお父様やお兄様、パパ様のようなカッコイイ体型がいいです!」
「よかったぁ。あ、えっと、わかりました!」
おやまぁ喜んじゃって、ほんと可愛い。
わたしは知っている、アリサがお母様たちみたいなナイスバディを目指して日々努力しているということを! そしてその成果が確実に出ているということも知っているのだ!
その結果、だんだんわたしの方が意識しちゃって、逆に恥ずかしくなったり、ちょっと下心が出ちゃうけど。こんなわたしの心情もバレバレなんだろうなぁ……。
補足:
人寄りの獣人と獣寄りの獣人は、国や地域で割合が異なる設定です
どちらか一方が絶滅しかけてるということはないです




