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76話 料理するだけで一苦労

「ぷはぁー。やっぱお風呂あがりはコーヒー牛乳に限るわ!」

「ですね~。まさか寮の方で用意されているとは思いませんでしたが」


 牛乳、コーヒー牛乳、サイダーやコーラなどが備え付けであるとは思ってもいなかったわ。

 でも備え付けだからと言って不味い物ではなく、むしろ美味しい物。この寮、なかなかやりますね。欲を言えばイチゴ牛乳も欲しいとこだね。


「それではお嬢様、食堂へ向かいましょう」

「ほーい。今日のご飯はな~に?」

「それはできてからのお楽しみなので、今は秘密です」


 口に人差し指を当てちゃって、ちょっと可愛いんですけどー。

 アリサってば日に日に可愛くなってるから、男どもに狙われないかわたしはひじょーに心配です。何よりこの世界の人は育ちが早いからなおさらだし。わたしがしっかり守らないとだめだね!





 アリサと一緒に食堂へ向かうけど、やっぱり視線が気になるなぁ。

 最初は浴衣のせいかなって思ったけど、他にも浴衣の人いるからこれは違う。となると、やっぱわたしが狐族だからなんだろなぁ。希少種に生まれた宿命だからしょうがないけど、学園だけでなく寮でも視線が多いとなんか疲れるわ。


 そんな視線に耐えながら食堂に来たけど、ここも人が多い。部屋以外だと視線のせいで落ち着けない気がしてきたわ……。


 食堂といっても学園と異なり、ご飯は自分で料理する必要がある。料理道具は備え付けの物を使えるけど、食材は自分で用意しなきゃいけないとかなんとか。

 貴族の人は専属の料理人が自前の食材を使って料理するのと、ちょっとお高いお店に食べに行くことが多い。そのため寮の方で料理や食材を提供しても、食べてもらえずに廃棄することが多いからこうなったと説明された記憶。

 寮で出される学生向けの料理とか、ちょっと興味あったんだけどなぁ。


 それはさておき、せっかくなので料理人の動きをチェック。 

 ほほー、やっぱ貴族の人に雇われてるだけあるねぇ、動きがまさにプロって感じだわ。あとはなんとなく見栄っぽいけど、お高い食材ばっか使ってるね。


 そんな貴族さんたちの料理だけど、やっぱり冷めた感じがする料理ばっかだね。

 しかもエレンのお披露目での料理もそうだったけど、見た目は良いけど量も少なくていまいちなやつだわ。これはもうお国柄なのかねぇ。


「お嬢様は炊飯だけお願いしますね。他は私が作りますので」

「ほーい。ちなみに何合炊いておく?」

「丼物ではないので普段と同じくらいで。終わりましたら席で少し待っていてくださいね」

「おっけー。それじゃ炊飯器出してお米をどばーっと」


 この世界にある炊飯器はメニューとかがいっぱいある物が一般的。前世というか、日本の物とほとんど同じだね。

 違いは電気でなく魔力で動くのと、魔道具なのでかまど炊きを完全再現できてるとこかな。


 そして今日のお米はコシヒカリに近い品種、さらに研がずに炊ける無洗米。便利で美味しいとか完璧です!


 しっかし昔の転生者さん、ほんと頑張りすぎでしょ。

 コシヒカリだけでなく、あきたこまち、ササニシキ、ひとめぼれなど、日本のお米に近い品種がいっぱいあるんだもん。情熱がすごいというか、米農家のプライドのようなモノを感じるわ。


 おや? なんかお米入れてるだけで周りに異常なものを見る目で見られてるんだけど。炊飯器が珍しいってことはないよね? お米を〝20合〟入れてるだけなんだけどなぁ。

 まぁいいや、あとはお水をだばーっと入れてスイッチオン! それじゃ席で待ってましょー。





 席で待ちながらぼーっと料理してるとこを見てるけど、洋食っぽい料理を作る人が多いね。和食や中華を作ってる人はいないみたいだし。

 そのせいかな、アリサがちょっと目立っちゃってるね。アリサはジュージュー音立てて何かを焼いてる。この音と匂いからして生姜焼きだね! ということは生姜焼き定食ってことかぁ、楽しみ~。


 席に座って料理しているアリサをじっと見てるけど、ほんと上手になったなぁ。手際良く無駄がない完璧な動きとか、最初はほとんど料理できなかったのに、すごい成長してるね。


 でもすごく心配。今だって他の料理人がアリサに話しかけてるし。おそらく技術の高さとか料理の内容の質問なんだろうけど、大丈夫かなぁ。

 アリサの中では早く作ってわたしと一緒に食べたいって意識がすっごく強い。でもその作業を止められるような形になってる。止められるとその分遅くなり、それはアリサのストレスにもなるわけで。

 んー、キレてトラブル発生とかならないように、ちょっと行動しておきますか。





「――ですから先ほどから何度も言っていますが」

「いやいや、そこまで腕があるんだ、是非とも当家の料理人としてその腕を振るっていただきたい。当然今の給料よりも多く支払う」

「いい加減にしてください。私はお金でなくお嬢様にお仕えしたいからであって」

「しかし君のような才能を――」


 うへー、予想以上にこじれてた。

 アリサの方に向かったら、料理人だけでなくその主人まで来てアリサを引き抜こうとしたよ。座っていた位置からだと気付けなかったわ。


 しかしどうしたものか。穏便じゃない方法ならいくらでも思いつくけど、穏便に行くとなるとどうするかなぁ。

 まてよ、そもそもわたしの存在ってちょっとした貴族は知ってるんだよね。なら深く考えず、普段通りにっと


「アリサー、何か手伝おっか~?」

「もう、お嬢様ったら急に抱きつかないでください」

「いいじゃーん」


 自然な感じにアリサに抱きついて、こいつらにわたしがどういう存在か一目でわかるように尻尾を見せつける。

 料理人の方は『なんだこの子供は』って感じだけど、主人の方は違うね。わたしがどういう存在か気付いたようで、顔が青くなったり嫌な汗をかきだしたね。

 そりゃねぇ、金色の毛をした狐族なんてほとんどいないからすぐにわかるよね。というか以前見た偽物以外だと、わたしとお母様だけかも?


 さてと、それじゃ追い打ち掛けますか。


「で、あなたたちは何? わたしのアリサに何か用なの?」

「いや、その」

「どうしたのですかご主人様、このような子供に対してその様な」

「ちょっとお前は黙っていてくれ」


 おーおー必死に言い訳考えてるのかな。

 まぁそもそも、他人の従者を引き抜こうとする時点でダメだと思うけどなぁ。劣悪な環境とか、嫌々やってるとか、明らかに助けた方がいい状態ならわかるけど。


 でもさっきのアリサ、すごいニコニコして料理してたんだよね。嫌々とは正反対な態度なんだよね。今だってわたしが抱きついてるからか、ちょっとふにゃけてるし。

 それを無視しての勧誘とか、わたしもイラっとする。これはハッキリ言っておくべきかな。


「状況がわかってないかもだからハッキリ言うと、アリサはわたしの専属なの。無理やりとかじゃない、お互い納得してなの。だから勧誘とかは無駄、わたしとアリサはずっと一緒に居るから諦めてね」

「あ、あぁ、その、すまなかった」

「ちょっとご主人様、どういうことです?」

「いいからお前は黙ってこっちに来い。これ以上まずい状態にするな」


 ま、そうなるよね。

 わたしから無理やりに奪うってことになった場合、わたしだけでなくお父様やお母様、それどころかレグラス王国からの抗議がくるからねぇ。

 エレンのお披露目の時に会ったあの貴族みたく破滅したくないだろうし、そりゃ引きますよね。


 だけどこの状況は予想外だったなぁ。

 わたしに言い寄る奴は予想できてたんだけど、アリサを引き抜こうとする輩が出てくるとは。

 アリサをお嫁さんにしたいとかならよくないけどまだいい。でも従者として引き抜こうとはなぁ。う~ん……


「ねーアリサ、家買っちゃう?」

「へ? お嬢様、急に何を?」

「食べながら話すね。さ、残りも作っちゃおー」


 アリサを隠したいわけじゃないけど、あまり仕事ぶりを見せない方がいい気がしてきたわ。勧誘が多くなるとまずそうだし。





「おー、まさに生姜焼き定食だね。ご飯に豚汁、だし巻き卵にサラダも付いての豪華セット。いいねいいね~」

「食後のデザートも作ってあるので楽しみにしてください」

「さっすがアリサ。それじゃいっただきまーす、あーむっ」


 おぉー、この豚肉の絶妙な焼き加減、しょうゆとみりんのバランス、何よりご飯との相性が最高だわぁ。

 豚汁もお肉いっぱいだけど油っぽくなく、野菜もいっぱいでほっとする感じが素晴らしい。

 だし巻き卵もふわふわ、サラダのドレッシングも絶妙、ほんとしあわせだわぁ。


「はふぅ、おいしすぎて食べすぎちゃいそう」

「そう言ってもらえると嬉しいです!」


 あらまぁ喜んじゃって、可愛いなぁ。

 でもほんと、箸が止まらないんですよね! 美味しいものは大正義です!


 しっかしなんとなくだけど、わたしってアリサに胃袋を掴まれてる気がするなぁ。まぁ問題はないし、それでもいいけどー。

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