73話 入学式は平穏かな
やはり甘いものは偉大。疲れた心に幸福感がしみわたるわぁ。
周りの視線がちょっと痛いけど、そんなことは気にしない!
「ふぃ~、おいしかったぁ」
「お粗末様です。あ、お嬢様そのままで……これでよし、綺麗になりました」
「ありがとー」
食べたら口を拭いてもらうとか、貴族のお嬢様っぽいね! まぁ実際、わたしって超お嬢様なんだけど。貴族っぽい事してないからか、自覚もないし慣れてもいないんだよなぁ。
「でも食べたからか、ちょっと眠くなってきたよーな」
「そろそろ始まるそうですし、寝ないで耐えてくださいね?」
「善処する」
食べたら眠くなるとか、まだまだわたしって子供だなぁ。大人のレディになるのはまだまだ先だわ。
眠気に耐えるためアリサとイチャイチャしていたら、突然けたたましいほどの大音量で音楽が流れだしたよ。
学園のテーマ曲なのかな? 重低音がすごくてびっくりしちゃったよ。
音楽とともに、数人の先生らしき人が壇上に向かってる。なんか偉そうな感じがするなぁ。
「お嬢様、いま壇上に上がられた方が学園長様です」
「ほー、エルフさんなんだね。ぱっと見は50代くらいだけど、たぶんお母様よりも年上だわ」
「魔力も高そうですね。あっ、お話が始まるみたいですよ」
学園長がエルフさんとは、なかなかやりますね。
それにエルフさんの話ってためになることが多いから、ちょっとだけ楽しみ。
『新入生諸君、私は学園の長であるクリフトだ。これから諸君らに学園について簡単ではあるが説明する』
話し出したけど、身振り手振りがビシッとしており、いかにも偉い先生ですって感じ。だからかな、ちょっと怖い感じがする。きっとエルフ特有の真面目さが前面に出すぎてるから、そう感じるのかもしれない。
でも一番は話がつまらない。真面目なのはわかるけどかたっ苦しく、しかも単調な感じのせいで眠く……
「お嬢様、起きてください」
「ふにゃ? ぬー、どうやら学園長の術で眠らされたみたい」
「術ではないと思いますが……」
つまらない話だとやっぱ眠くなるからしょうがないよね。そのせいで、いつの間にやらアリサにもたれて寝てたみたいだし。
でもアリサさん、真面目な状態を必死に作ってるけど、わたしがくっついて寝ていたから顔がちょっとにやけてるよー。
さすがにバレバレ、ほんとアリサってわたしのこと好きすぎだよね~、可愛い奴め!
「どうやらシエラ様が生徒に向けてご挨拶をされるそうですよ」
「お姉様も来てるんだ。あーでもそっか、交換留学ってわたし以外にも居るのと、記念すべきなんたら周年とか言うのだっけ」
「交換留学が始まってからちょうど1000年目ですね。そのため、今回はシエラ様がレグラス王家代表としてお見えになったそうです」
「なーるほどー。でもお姉様が話すなら起きてないと駄目だね!」
学園長はどうでもいいけど、お姉様は別格。それにこの広さでもわたしを発見しちゃうだろうから、寝てたらちょっと申し訳ない。アリサに起こしてもらってほんと良かったぁ。
学園長の話がある程度終わったのか、司会の人に案内されてお姉様が壇上に上がる。ほんとお姉様って綺麗だなぁ、見た目だけでなく動きも洗練されていて、まさに王族って感じ。
あっ、今ちらっとこっちを見たね。もしかして気が付いたのかな? ちょっと手を振ってみよー。
うん、小さく手を振り返してくれた! さすがお姉様、遠くでもすぐに発見しちゃっうね。
『ではシエラ王女様、お願いします』
『わかりました。皆様、お初にお目にかかります。私はレグラス王国のシエラと申します』
おー、お姉様が挨拶するだけですごい歓声が沸いたよ。まぁエルフで超が何個も付くほどの美人だからしょうがないよね。
でもね、お姉様にはもうお兄様という彼氏がいるから、そこの見惚れてる男子どもは諦めたまえ。
壇上でお姉様は1000年という記念すべき年であること、両国の民が仲良くしているから続けてこられたということ、そして今年の新入生は次の1000年に向けての第一歩であることを丁寧に話してくれたわ。
内容も分かりやすく、頭にスッと入ってくる感じがすごいね。それに王族としてのカリスマもあるからすごくカッコイイ。
でも、わたしは普段の優しいお姉様の方がもっと好きだけど。
『私からは以上です。それでは皆様の学園生活が輝かしいものになることを、心から願っております』
『ありがとうシエラ王女。これにて入学式は閉幕とする』
『ありがとうございました学園長様、シエラ王女様。続きまして新入生の皆様へのご連絡となります』
司会の人に交代して、これからのことの説明が始まったね。教室行って担任の先生の話を受けてーとかなんとかかんとか。
うーん、お姉様はこれでもう帰っちゃうのかな? 挨拶とかしたいなぁって思うんだけど、無理っぽいね。ちょっと残念。
「それではお嬢様、教室へ向かいましょうか」
「ほーい。案内お願いねー」
クラスメイトってどんな人たちなんだろ、ちょっと楽しみ。
そういえばエレンたちと同じクラスになってるのかな? お母様がごり押したって言ってたけど、大丈夫かなぁ。
教室に向かって歩いてるけど、ほんと広いなぁ。生徒数が多いからかな?
この学園は大きく分けて〝初等部〟〝中等部〟〝高等部〟の3つに分かれてる。
在籍期間は初等部が3年、中等部と高等部はそれぞれ6年の計15年間。
初等部は基礎だけなので期間が短いみたい。あと、上位の部に進級するためには単位だけでなく試験もあるそうで、落ちるといわゆる留年になるのが少し厳しい。
それに高等部になっても終わりじゃない。卒業するためには卒業試験に合格する必要があるとか。そもそも進級試験と卒業試験は結構難しいらしく、卒業どころか進級すらできずに退学する人もいるらしい。なかなか大変そうでちょっと不安。
でも難関な卒業資格に合格できたら、そのまま学園に在籍する権利を得ることになる。学園で研究し続けたい人達には願っても無い権利だね。
さらに歩くこと数分、初等部の教室がある棟まで来た。ほんと広すぎて、絶対に迷子になるわ。
「この教室みたいですよ。ちなみにクラスの振り分けですが、最初は貴族の方は権力や家の規模で、一般の方は試験の結果で振り分けているそうです。ただ12ヶ月ごと、つまり1年の間に4回クラス替えがあります。クラス替え時の選定基準は学力や武力の試験結果だそうですよ」
「優秀な人はまとめてってことかぁ。となるとわたしの場合、一番のクラスを維持しないとダメだね!」
「お嬢様でしたら余裕だと思いますけど、何があるかわかりませんしね」
買いかぶりすぎだと思うんだけどなぁ。もしかしたら超天才だらけとか、わたしよりも強い人大量もありえるわけだし。ほんと頑張らないとダメだね。
「教室も結構広いね。席は横に6人くらい座れるのかな? それが3列3段の階段状かぁ」
「1クラス40人から50人程だそうです。従者も含めてですので、生徒数はその半分くらいかと」
「結構少ないんだね。さってとエレンはーって、あの集団のとこかな?」
「みたいですね。エレン様はこの国の有名な貴族様ですからしょうがないかと」
お披露目の時もいっぱい人がいたから、こうなるのも当然かぁ。クラスのほとんどの人がエレンのとこに居るのかな? モテモテだねぇ。
「とりあえず座って待ってようか。一番奥の端っこが空いてるみたいだし」
「ですね。段差があるので気を付けてくださいね?」
「だいじょーぶだいじょーっとと」
言った傍から転びそうになったよ。すごく恥ずかしい。
う~ん、尻尾消す術だとバランスがおかしくなるなぁ。
お母様に作ってもらった魔道具が使えない場面も想定し、尻尾を消すための術式を試しに組み上げてみたけど、これは失敗作って感じだわ。尻尾2本消しただけで平衡感覚が狂うとか、全部消したらどうなることやら。
でもこれ、使い道はあるな。要は感覚までおかしくしちゃうんだから、相手に掛けたら……。ヤバい、これだとちょっとした拷問用の術式になっちゃうじゃん。これは封印しておこう。
クラスメイトをざっと確認したけど、いろんな種族が居るなぁ。
只人族が多いけど、猫族に犬族、隼族にドワーフ族もいるね。それに珍しい妖精族まで。でもわたしと同じ狐族は居ないみたいでちょっと残念。
年代はバラバラ。10代半ばくらいの人もいれば、40歳くらいの人までいる。幅広いねぇ。
「へー、このクラスの貴族様ってみんな従者付けてるんだ。ただなんて言うか、違うなぁ」
「どういうことですか?」
「だってみんな男の人なんだよ? アリサみたいに可愛い子とかいないんだよ? 絶対におかしいと思うんだ!」
執事っぽい人と近衛兵みたいな人はいるけど、メイドさんは一人もいないんだよねぇ。従者は二人までって決まりがあるからか、みんな戦闘面を重視してる感じだし。強いメイドさんって他の家にはいないのかなぁ。
「なるほど。えっと、これには事情があります。彼らの立場はシズク様と同じでして、他の執事やメイド、近衛兵の長となります」
「もしかして、長を連れてくるのは見栄を張るためなのかな? うちの執事はこんなにすごいんだぞー、みたいな」
「その通りです。ですが彼らは今日のみ、明日からは彼らの推薦した執事やメイドが付き添うことになります」
「なっとくなっとく。いやぁこのままだったらほんと困ってたわ。やっぱ女の人が多い方がいいもんね!」
あぅ、本心を言ったらアリサにジト目で見られた。
だってしょうがないよね。むさい野郎より、華がある女性の方がいいのは事実だし。可愛い子増えるといいな~。




