72話 入学ですよ
第3章の開始です
はぁ、ついに来てしまった入学式。エレンのお披露目騒動からなんだかんだで1年経ってるとか、実感なさすぎるわ。
「ねーねーアリサ、このまま帰っちゃおっか?」
「諦めてください。それに帰る手段がありませんよ?」
わたしたちが今いるのはアルネイアの王立学園前。
本来であれば民間の飛空艦や馬車などを使うところを、お母様の転移術でさくっと来たので疲れはない。お母様がここに来るのは立場上難しいけど、転移術での送迎はごり押したみたい。
といっても学園前への転移は流石に無理なので、少し離れたところに転移。そこからは作った馬車に乗ってきた。
しっかしお家に帰るための手段は民間の飛空艦を使うか、馬車を使うしかないなんて思ってもいなかったわ。
馬車はもともと論外だけど、飛空艦も予約制なのですぐに乗ることができない。乗っても2日以上かかるので、帰りたくなってもすぐに帰ることができない。
なので転移門を使いたかったわけだけど、国外への設置型転移門の使用許可証の発行が10年待ちだったのがほんと痛い。仕事関係ならすぐ発行されるけど、学生の取得だと相当時間がかかるとはなぁ
はぁ、これじゃ長期の休みでしかお家に帰れないってことかぁ。
「手段が無いんじゃしょうがない、覚悟を決めるかぁ。でも今日からずっとドレス姿なのかぁ、肩こりそう」
「制服の代わりですからね。お部屋なら大丈夫だと思いますが」
お披露目の時に着たドレスよりかは派手じゃないけど、それでも十分豪華なわけで。しかもネックレスにイヤリング、それとブレスレットには精霊石がやっぱあるし。国の代表ってわけじゃないのに気合入れすぎな気がするなぁ。
「エレンたちはもう中に入ってるんだっけ?」
「ですね。ただ、お会いできるのは教室に行ってからになります」
エレンはこの国の貴族なのでわたしよりも先に来ていたわけだけど、やっぱ色々付き合いがあるみたいだね。学園にはアルネイアの貴族が多いみたいだし、大変なんだろうなぁ。わたしも人のこと言えない気もするけど……。
「そろそろ行こうか。馬車の周りに人が集まりだしてちょっと嫌だし」
「目を引きますからね、お嬢様の作ったこの馬車は。それではお嬢様、こちらへどうぞ」
「ほーい」
アリサに手を引かれ、馬車から外に出る。季節は春だけど、ちょっと肌寒いかな。術式で温度調整しておこっと。
しっかし、すっごい見られてるんだけど……。
「お嬢様、周囲の者の顔は見ないようにしてください」
「どうして? いやまぁ見たいという気も無いんだけど」
「余計な誤解を招かないためです。目が合うだけで運命だと勘違いする馬鹿の発生を阻止するためですね」
「相変わらずきっついこと言うね……」
でもまぁアリサの言うことも間違いじゃない。わたしだって可愛い子と目が合ったらちょっとドキッとしちゃうだろうし、それがもしも前世のわたしだったら勘違いしちゃったかもね。気を付けよーっと。
『おい、あの貴族様って狐族なのか?』
『みたいだ。でもどこの家なのかわからないな』
『そういえばレグラスからの交換留学生に狐族がいるって噂がなかったか?』
『聞いた聞いた、レグラスのお姫様が来るって噂。王家とは違う一族だが、王家以上に権力のある一族とか』
『そのお姫様ってことか。たしかに着ている物の質が非常に高く、隣に居るメイドの質も高いな。周りを威圧する圧倒的な魔力量もそうだが、主人に似て凄く可愛いぞ』
『おれ、あとであのメイドさんに告白してみる!』
案の定、馬車から降りたら周りがキャーキャー何か言いだしたので、情報収集も兼ねて周囲で一番魔力の高そうな集団の声を拾ってみたけど、とんでもない噂が流れてるなぁ。
というか、わたしがお姫様とか柄じゃないのでやめてください。
それにしても、アリサに告白しようとする奴まで出てくるとは、恐れ入ったわ。
ちょっと納得できることではあるけど。
「どうしました? 私の顔を見てニヤニヤされるとか、何か企んでません?」
「企んでないよー。ただ、アリサの可愛さはこの国の貴族相手でも通じるな~って思っただけ」
元奴隷でひどい目にあっていたとか、誰がそんなこと思うかってくらい可愛くなってるからねぇ。
可愛いだけじゃなく、文武に炊事洗濯掃除なんでもござれのスーパーメイド。1000年くらいでシズクさんと同等になるんじゃないかな?
「ところでアリサ、今日ってどういう流れなの?」
「まずは講堂で学園長様のご挨拶があります。そのあとは教室へ出向き、担任となる先生のお話を聞くそうです。最後は先輩生徒の方が学園を案内してくださるそうですよ」
「あー、なんか嫌な予感してきた。先輩ってもしかしてさぁ」
「お嬢様の言いたいことはすごくわかります。もしもあの駄狐が来たら全力で排除しますね」
相変わらずカイルはアリサの天敵なのが何とも言えない。まぁわたしとしても、カイルが来るとアリサが盗られる感じがするからちょっと嫌ではあるけど。
「へー、すごい昔にできた建物なのに、古びてなくて綺麗な感じだね」
「ですね。改築と増築を繰り返しているようで、今ではアルネイアで一番大きな建造物となっているそうです」
「なるほどねぇ。う~ん、迷子になりそう」
うちのお屋敷よりも広いのに5階建てとか、広すぎませんかね?
まぁ長い人は100年以上も通うらしく、学園に在籍する生徒数がとても多いんだっけ。多いということは、建物もそれに合わせた規模になるからしょうがないとは思うけど。
……というかここ、お手洗いまでの距離も遠そうなんだけど、大丈夫なの? すっごく不安なんだけど。
「ねーアリサ、お願いだからわたしを一人にしないでね?」
「あ、あの、急に抱きつかれますと、私も、その。えっと、どうしたのですか?」
「迷子になってお手洗いに間に合わない光景がちょっと浮かんでね。なのでアリサはいつもわたしと一緒に居ないとダメなの」
「な、なるほど。でも大丈夫ですよ。お嬢様を一人にする予定はそもそもありませんから」
そう言ってアリサはわたしの頭をなでてくれる、ふにゃぁ。最近ますますアリサの撫で方がうまくなってきてるから、気を抜くとちょっとヤバいわ。
しかしほんと参るわ。わたしって脳内地図の作り方が下手なせいで、割と方向音痴だからなぁ。
術式でそのあたりをいつも解決してるけど、学園の中は魔法や術の使用が禁止なんだもん。防犯とか安全のためらしいけど、わたしにとっては死活問題。お手洗いにたどり着けなくて最悪な事態があり得るし、ほんとアリサが一緒でよかったぁ。
講堂目指して進んでるけど、なーんか視線が多いなぁ。まぁわたしが珍しい狐族ってのが原因なんだろうけど。
しばらくすれば見慣れるだろうし、そこまでの辛抱かなぁ。
でもいろんな人が居るね。犬族や猫族、鳥族や魚族、鬼族や樹族など、多種多様なのはいいねぇ。
年代はわたしよりも上の人が多いのかな? 10代半ばくらいの人をよく見るわ。
あとは男の人が多い感じ。性別が無い人は見かけてないから、この学園にはいないのかも。本でしか見たことないから実際に会ってみたかったんだけどなぁ。
周りを観察しながら歩くこと数分、ようやく講堂にたどり着いたけど、これ絶対に迷うよ! なんで案内表示とか置いてないのよって愚痴りたくなる。アリサが居なかったらほんとまずいなぁ。
「お嬢様、そちらの席に座りましょうか。周囲の人も少ないですし、少しは落ち着けるかと」
「そうだねー。なんか視線が多すぎて、精神的に疲れたよ」
見られるだけでも疲れるとは思わなかったわ。椅子に座ったら疲れがどっと出てきたし、もう帰りたい気分。
しかも人が少ないとこ選んだのに、だんだん人が近くに座ってきてるし。ほんと勘弁してほしいわ。
「ねーアリサ、何か甘いものない? 糖分がすっごい欲しい気分なんだけど」
「チョコ菓子と飴菓子、あとはお饅頭やどら焼きでしたらすぐにご用意できます」
「ほんとはケーキとか行きたいけど、ここじゃ無理かぁ。んー、どら焼きにしようかな」
「どら焼きですね、こちらになります」
ポーチからどら焼きを出してくれたけど、匂いがすでに甘い感じでいいねいいね!
なんか周りの視線が増えたけど気にしない、糖分補給は大事なのです!
「ありがとー。それじゃ半分に割って、はい、アリサもどーぞ」
「ありがとうございます」
「ではでは気分転換に、あーむっ」
もぐもぐ
「はふぅ、イチゴクリームのどら焼きもおいしいなぁ。生地にもイチゴが絶妙な加減で練りこんであるし、最高だわぁ」
「お口に合ってよかったです。お嬢様の好みの味になるよう研究した甲斐がありました」
「むぐ? これってアリサが作ったの!? お父様が作るのと同じ完成度だよこれ。すごいなー、わたしだってここまで作れないのに」
ほんとアリサってすごいなぁ。少し前まではわたしの方が料理上手だったのに、今だと逆になった感じだね。
しかも上手になった理由がわたしのためなのがね、嬉しいけどちょっと恥ずかしい。
でも、ここまでしてくれるアリサにわたしはお返しとして何ができるんだろう? このままだと貰うだけの関係になっちゃうし、わたしもしっかりしないと!
なお、貴族君がアリサに告白しても即答で振られます(あえて書かなくてもわかる結果)




