71話 ケーキ祭りの報告会
馬車も大体完成、やっぱテストするって重要だねぇ。気が付かなかった欠点や改善点が多く見つかったし、最初からカンペキとはいかないものだね。ほんと土壇場で作らなくてよかったわ。
「お嬢様、今日はローガン様が例のご説明をしに来られるそうですよ」
「あー、エレンのお父さんとお兄さんの処分とかだっけ。どうなるのかちょっと気になるなぁ」
「だと思いまして、サユリ様にお伺いしたところ、お嬢様もご一緒に説明をという形になりました」
「おーさすがアリサ、えらいえらい」
アリサをなでなで。
こうやって事前に話を付けておいてくれるからほんとありがたい。というか、わたしの思ってることは全部お見通しって感じかな? 日に日に専属メイドとして洗練されてきてる感じだねぇ。
でもこうやって撫でてあげると照れちゃうとことか、ほんと可愛い!
しばらくして、エレンのお爺さんがそろそろ来るとのことなので応接室に向かう。
今日話を聞くのはお母様とわたしとアリサ、それにエレンとレイジ。お父様は王都にお仕事、シズクさんはお爺さんを出迎えに行ってる。お母様自らが迎えに行くようなVIPじゃないってことだねぇ。
「ねーねーお母様、これってもしかして?」
「今日のおやつはチーズケーキバイキングよ~」
「きゃー!」
レアにベイクドにスフレがあるー! しかもテリーヌやタルトなんかもあるー!
あーもうだめだ、我慢できない。まずはレアチーズケーキからだね。
「それじゃいっただきまーす、あーむっ」
はふぅ、絶品だぁ。濃厚なチーズにこのしっとり感、そしてレアならではの口どけ、控えめに言って最高です! ほんとわたし、このうちに生まれてよかったぁ。
「どれもこれも見たことのない物ばかり、そして綺麗でとてもおいしくて、すごいですわ!」
「ほんと凄いよね。アルネイアにもあるにはあるけど、これを知ってしまうと向こうのはケーキとは呼べなくなっちゃうなぁ」
エレンとレイジもすごい好感触、だよねだよね~。
ほんとお父様とお母様が作る料理はレベルが違いすぎるからね。わたしも練習してるけど、まだまだ遠いわ。
「サユリ様、あの、できましたら」
「大丈夫よアリサちゃん。レシピはシズクに全部渡してあるから、次の調理訓練から試してみると良いわよ。アリサちゃんだったら来年の留学前には完璧に再現できるはずよ~」
「ありがとうございます!」
「ふふっ、そんなに喜んじゃって。ユキちゃんに自分が作った物、食べてもらいたいものね。わかるわ~」
あらまぁ、ほんとアリサって可愛い奴め。それにいつの間にか料理の腕、わたしよりも上だったりするんだよね。まだ1年くらいなのに、ほんとすごい子だわ。
でもこのままだとわたし、アリサ無しだと何もできなくなるよーな気がうっすら……。お嬢様っぽいといえばぽいんだけど、わたし的にそれはちょっと困るような困らないような、うーん……。
「サユリ様、ローガン様をお連れしました」
「ありがとうシズク。いらっしゃいローガン、思ってたより元気そうね」
「まぁ色々あったがのぅ。何はともあれ、今日は時間を作ってくれたこと感謝する」
お爺さんがお母さんに対して頭を下げてる。なんというか、お披露目の最初の時とはまるで印象が違うね。憑き物が落ちたみたいな感じかな。
「お爺さま! このケーキすごくおいしいですわ!」
「ちょ、エレン、最初の一声がそれはどうかと思うよ。ほら、あなたのお爺さんが困ってるって、あれ?」
てっきり苦笑いしてると思ったけど、なんかすごいニコニコしてるんだけど、なんで?
「どうやらエレンにとって、とても良い時間を過ごせているということじゃな」
「そうよ。貴族のしがらみも忘れさせてのびのびと、ね」
「確かに、今まではバートンの教育方針で〝貴族らしさ〟を前面に出しておったしのう」
お爺さんがすごい納得顔で頷いてるけど、それってつまり周りが分かるくらい窮屈そうにしてたってことなんだろうねぇ。貴族という立場があるのはわかるけど、窮屈になるくらい押さえつけるのはダメだと思うわ。
「それにね、エレンちゃんとレイジ君は魔力変換の能力を手に入れたわ。だからこれまで以上に二人ともどんどん強くなる。来年の今頃には倍以上の力になってるはずよ」
「そんなにもか……。やはりわしらの育て方は間違っておったのじゃなぁ」
「全部が間違いというわけではないわ。あなたの息子が意固地になりすぎて、他種族の良い所を取り入れなかっただけのことよ」
お母様の言う通りなんだよね。
強くなるためには凝り固まった考えは捨て、良い所を積極的に取り込む必要がある。なにも伝統を捨てろというわけではない。伝統を引き継ぎ、さらに発展させていくだけのこと。
でもエレンのお父さんはその考えに至らなかった。ただそれだけなんだよねぇ。
お爺さんも席に着き、ケーキを食べながら話をする状態になったわ。さぁこの絶品ケーキに驚くがいい!
「それで、結局どうしたのかしら」
お母様が紅茶の入っているカップの淵を指でそっと撫でながら聞いてるけど、なんかそれエロカッコイイんですけど!
お父様が言ってたけど、お母様は無意識にエロカッコイイことをする。そのせいで恋焦がれる男が今でも大量増殖しているとかなんとか、さすがです!
「そうじゃな、バートンとその息子二人は勘当とした。おぬしには不満かもしれんが」
「本当は私のユキちゃんを狙った報いで殺そうとは思ってたけど、まぁいいわ」
「寛大な心に感謝する」
お爺さんは深々と頭を下げてるけど、そっかぁ殺そうと思ってたのかぁ。ほんとお母様って敵に対して容赦ないよね。
「それと息子たちじゃが、先日一部の貴族が接触したようじゃ。だからと言って何かが起こるとは思えんのじゃが」
「そうね。ユキちゃんとエレンちゃんに匹敵する子は多くないし、大丈夫でしょう。ユキちゃんとエレンちゃんを戦わせる工作はしてきそうだけど、そっちも問題なさそうよ」
「みたいじゃのう」
おや? お母様たちがこっちを見て微笑んでるわ。まぁ意味は分かるけどね。
結局のとこ、エレンにとってわたしは初めてのお友達らしいから、絶対に裏切ったりしない保証ができちゃったみたいなんだよねぇ。悪い事じゃないからいいんだけど。
「お爺さま、ジョイスはどうなされたのですか? こちらに来るときもレイジだけでしたし」
「ジョイスは少々厄介での。実は――」
お爺さんの説明をまとめると、どうやらあのジョイスって従者は貴族になったみたいね。
元々ジョイスはセイリアス帝国で勇者として召喚された存在だったらしく、エレンの従者はいわば社会勉強だったそうな。
でもそのエレンがうちに着たので従者としての役目は終わり。それにあのオッサンが勘当されて融通も利くようになったらしく、あの従者君はセイリアスの貴族が養子として迎えた。
そしてその貴族というのが、オッサンに接触した貴族というオチ。何か問題が起きそうな匂いがプンプンするわ。
「――というわけじゃ」
「なるほどね。だけどしばらくは様子見かしら、こちらからわざわざ構ってあげる必要はないわけだし」
「相変わらず手厳しいが、その通りじゃな」
わたしとしては今後一生関わらないことになればいいんだけど。思いっきり敵視されてたからなぁ。戦って負けることはないけれど、世の中戦いだけじゃないからコワイコワイ。
「それよりお爺さま聞いてくださいませ。ユキさんの尻尾、モフモフですごく気持ちが良いのです。思わず顔をうずめてしまうほどですわ!」
「な、なんじゃと!?」
「あらまぁ、エレンちゃんもなかなか大胆ね」
うぉい!? これはひっじょーにまずい気がするんですが!
というかわたし言ったよね? 尻尾に対してそういうことするとどう思われるかって!
「結局エレン様もやられたのですか……。う~ん、このままだと私のお嬢様が……」
「おーいアリサー、何かすっごいこと口走ってる気がするんだけどー」
「わたくし、負けませんわ!」
「エレンもなんで気合を込めてそんなこと言うのよ……。えっとお母様、これは」
とりあえず釈明しようとお母さまの方を見たけど、だめだわ。あの顔は間違いない、思いっきり楽しんでるよ。本気で捉えていないとは思うけど、捉えていないよね?
「の、のう、それはつまり、エレンはおぬしの娘と」
「子供だからそういう意味ではないはずよ。ただ、強すぎる友情は愛情にもいずれは変化する。ずっとこのままかは分からないわね~」
お母様、思いっきり楽しんでるよ。お爺さんを慌てさせたいのはわかるんだけど、同時にわたしもひじょーに気まずいのですがー。
「まぁ将来は未確定、どうなるかわからないわよ。ユキちゃんが〝今〟をとるか〝昔〟をとるか、それだけでも変わってくるから。もしかしたら両方の可能性もあるかしら?」
お母様が笑顔でそう言ってるけど、どういうことだろ? 気になるけど答えてくれそうもないし、今は忘れておこう。今のでなんかどっと疲れた気がするから……。
「お嬢様、何かお注ぎしましょうか?」
「ありがとーシズクさん。えっと、馬鹿みたいに甘いホットチョコレートお願い」
「畏まりました。ほらアリサ、あなたのお嬢様がまた寂しがっていますよ。早く現実に戻って来なさい」
ただの報告会だったはずなのに、なんで話題がわたしになるのかな。
はぁ、ケーキおいしいなぁ……。
これで第2章は終わり、次回から第3章となります。
それと、しばらくは学園編みたいな感じで、学園関係を進めていく予定です。
とはいえ予定はあくまで予定、急な方向変換の可能性も(行き当たりばったりとも)
そんなこんなで3章も好き勝手書いていきますが、引き続きお読みいただけたら幸いです。




