70話 試運転のお時間ですよ
馬車が一応できたので、今度は実際に乗り回して確認してみましょー。
というわけでエレンと二人でお出かけですよ!
「でも不思議ですわね、人数に合わせて中も小さくできるなんて」
「いろんな術式組み合わせてるからねぇ。さすがに二人だけなのにあの広さはちょっとだしね」
そのままだと12人、詰めれば20人は座れるからね。
ガラガラすぎるのはちょっと寂しい感じがしたから、座席も含めて空間を狭めたけど、やりすぎたかな? 二人乗りの空間になっちゃったよ。
それに、これだと前世の二人乗り用の車みたいな感じになっちゃうね。でもそうか、人が少ない時専用にオープンカー状態を作っちゃうのもアリかもしれない。
「それにしても少し狭い空間でこうして並んで座ってしまうと、ちょっと意識してしまいますわ」
「意識って?」
「だって二人だけですのよ? その、これって、いわゆる」
はて? なんかエレンがちょっと赤くなってモジモジしてるんだけど。
んー、もしかしてそういうこと? きっと、友達と恋人の垣根があやふやなんだろうね。気にすると余計に意識するだけなのに、しょうがないなぁ。
「友達と遊びに行くだけだから気にしすぎだよ。二人で遊びに行くことが全部デートってことじゃないからねー」
「で、ですわよね! わたくし、お友達って初めてなので、どう接したらいいのかよくわからなくて」
わたしよりも相当な箱入り、というか軟禁に近かったからしょうがないか。
でもそうだねぇ、いっそのことガチデートにしちゃうのもアリか! って、何バカなことを考えてるんだか。わたしも新しい友達ができたことで、ちょーっと浮かれすぎて変な思考になってるわ。
「せっかくだからエレンにも操縦方法教えるね~。まず空間の調整だけど、操作盤の中央にあるこの魔石に魔力を流します。やってみて~」
「こうですの? あら、何やら文字などが浮かんできましたわ」
「これは空中ディスプレイも組み込んだ魔道具で、この画面に表示されている図や文字に触れることで操作できるの。ちなみにここが室温の設定、こっちが広さ、それでこっちが――」
空中ディスプレイでの操作はわたしの憧れ。実現するための術式をママ様に教えてもらった時、嬉しさのあまり思わず飛び跳ねちゃったくらいだし。
やっぱね、空中ディスプレイの操作ってちょっとカッコイイから、どうしてもやりたくなっちゃうよね!
「内容に対し、簡単な操作ですわね。それに魔力も設定画面を出す以外には使ってないような」
「魔力は馬車の後部に備え付けた巨大な魔石に蓄えてあるのを使うの。ちなみに魔力の補給については大気の魔素を効率よく吸収するから不要なんだ」
「ユキさん、それってちょっととんでもない気がしますわ」
「ママ様に教わった古代エルフの超技術だからねぇ。国家機密だけど、わたしが自分で作って使う分には問題ないそうだよ」
うん、苦笑するよね。だけど気持ちはすっごいわかる。国家機密なのに使用許可が出るとか、普通はありえないよね。
ほんと、わたしに甘いの一言で済ましていいのだろうかと、わたし自身が心配になるわ。
「それで肝心の馬車の操舵方法だけど、二種類あるんだ。一つは御者席に座っての直接操作、これは普通の馬車と同じ感じで行けるよ」
「なるほど。わたくしはできませんが、レイジならできるので安心ですわ」
「簡単だからエレンもできるよ~。それでもう一つだけど、目的地などを画面のここに入力すれば勝手に動いてくれるの。自動操縦ってやつだね」
地図から目的地を選択したり、音声入力で目的地を指定したり、座標値を入力してそこまで移動することも可能という、ちょっと優れた物。いくつもの術式を重ねて最適化する必要があったけど、その甲斐はあったわ。
だってエレン、すっごい驚いてるんだもん。ヤッタネ!
「これって高難度で非常に複雑な術式ですわよね?」
「かも? 人が近い時は回避させるとか、建物にぶつからないようにとか、いろいろ細かい制御も入れてるからね。ママ様ならもっと効率よく作れるけど」
「レグラス王国の技術力の高さにはほんと驚かされますわ」
エレンがそう思うのもしかたがない。
そもそもレグラスには古代エルフの超技術を解析し、さらに発展できる環境がそろっている。
まず、古代エルフの超技術を全て継承し、管理もしている現エルフの女王であるママ様が居る。
しかも古代エルフに限らず、現エルフの技術も網羅しているとんでもない人。
そんな女王が居る国に精霊神を従えてるお母様が居る。
精霊神を従えてるので他の精霊たちも自然と集ってくる。精霊が集うということは、他国では希少な精霊力や精霊石が豊富となる。
とどめにお父様の指示の下、パパ様が魔素と霊素の豊富な場所に神殿や神社を設置させている。
その結果、国中どこでも上質な魔力や精霊力が常に供給される環境になっている。
まとめればまとめるほど、うちの国ってとんでもない。だけどその恩恵を王家やわたしたちが独占してないのがカッコイイ!
しっかり国民へ還元しているから、お店で買えるちょっとした魔道具ですら他国のよりも進んだものになってるし。
「さてさて、それじゃ試験走行として街の外のお花畑にでも行ってみよー。さくっと設定して、さぁ発進!」
「あっさりですわ。しかも動き出してるはずなのに、全然振動がありませんわ」
「快適性にはこだわるので! 門番の所までは何もせずに座ってるだけで到着するはずだけど、どうなるかな」
「それの実験というわけですわね」
理論上は完璧だけど、うまくいってるかなぁ。ちょっとドキドキ。
「う~ん、やっぱ前後にも外が見えるようにした方がいいなぁ」
「確かに、左右の窓以外にも欲しいですわね」
「ちょっとつけてみよう。術式は~っと」
二人で並んで座ったから気が付いたけど、車で言うフロントガラスとリアガラスがあった方がいいわ。いっそのこと動画なんかも映せるようにするのもありかな。となるとスピーカーもいるね。
うわー改善点がいっぱいだぁ、すっごく楽しいけど!
「ここにこれを配置して~、って、どうしたのエレン? もしかして温度高すぎた?」
魔道スクリーンとかを配置してたら、なんかエレンが少し赤くなってモジモジしてるんだけど。わたしって寒さに弱いから温度高めにしちゃうけど、そのせいかな?
「その、正直に言ってもよいです?」
「どんとこーい」
「ユキさんの尻尾を触りたいのです! 先ほどから可愛く尻尾を振られていて、ちょっと抑えられなくなったのですわ」
「……なるほどね。う~ん、アリサと同じだなぁ。しょうがない、これだけ配置してっと。それじゃどーぞ」
まぁ耳や尻尾って無意識でも動いちゃうものだからしょうがないね。しかもテンポよく尻尾が振れていたらこうなるよね。わたしが逆の立場でもちょっと抑えられるか怪しいし……。
ではエレンの方に尻尾を向けて、さぁどんとこい!
「では失礼して。ふわぁ、すごいモフモフですわぁ。あぁ、わたくし、もうだめかもしれませんわぁ」
「そりゃまぁ自慢の尻尾って、ちょっと待てい! 顔をうずめて、しかも匂い嗅いでって、ちょ、やめてぇぇぇぇぇぇ」
さすがにこれはホントマズイのでやめてください、お願いします。って、全然聞いてないしぃぃぃぃぃぃ。
嫌じゃないけど、そこまでされるとちょっと思考がパニックになるからヤバいのです。
あ、そういえばアリサも最初こうだった記憶。モフモフってほんと恐ろしい……。でもこれ、やっぱり言わないと駄目かなぁ。
「ふぅ、堪能ですわ。アリサさんが虜になるのもすごいわかりますわ」
「虜って、あなたたち何を話してたのよ……。というかね、これアリサにも言ったんだけど、ちょっととんでもない事なんだよ?」
「どういうことですの?」
「狐族の尻尾はね――」
魔力触媒になるため、抜け毛が要らぬトラブルになる可能性がある。そのため信用できる人以外には触らせない、ということ。
それ以上に問題なのが、顔をうずめたりするのは家族とかの親しい人であれば信愛、それ以外は求愛になるということ。
そんな特殊なものというのをエレンに説明したんだけど……。
「あら、でしたらわたくし、ユキさんをお嫁さんにしますわ!」
「はい?」
「わたくしがお嫁さんでもいいですわ!」
「話が急展開すぎる!? なんでそうなったのよ……」
「答えは簡単ですわ、そうなればユキさんの尻尾をいつでもモフモフできますわ!」
いやそんな拳をぎゅっとして『これぞ完璧な答え』って顔されても困るよ。
しかしそこまでモフモフしたいとか、わたしの尻尾ってそんなに中毒性あるの? ちょっと心配になってきたよ。
「まぁモフモフしたいとき、言えばさせてあげるから。だからあんまりそういうこと言わないようにね」
「どうしてですの?」
「他の人だと本気の告白だと思っちゃうからね。気を付けてねー」
「なるほど、気を付けますわ」
本当に気を付けてくれるといいんだけど。世間知らずの箱入りすぎて、世間とのズレが結構あるからなぁ。
わたしも人のこと言えないくらい世間とのズレとかあるけど、エレンほどじゃないし。ちょっと心配になっちゃうね。
しっかし
「手触りといい、ふかふかな感じといい、ほんと素晴らしいですわぁ」
許可出しちゃったからか、またモフってきたわけで。だけどおかしいな、〝モフモフは言えばさせてあげる〟って注釈入れたはずなんだけど?
しかもまた顔をうずめてきたし、ほんとハマりすぎでしょ……。
その後、隙あらばモフモフしているエレンの姿が日常茶飯事になったとかならなかったとか




