69話 来年の準備もしようかなと
エレンたちを案内してから数日後、今日のわたしは趣味全開! この暴走は誰にも止められないわー。
「それで、何を企んでいますの?」
「企んでないよー。というかじっと見られると、ちょっと恥ずかしいんだけど」
ちょっと気になっていた〝機械仕掛けのゴーレム〟の素材を買ってきて、趣味全開で再構築しようとしてただけなんだけどねぇ。
アリサはシズクさんとのメイド訓練、レイジはなぜかカイルと一緒に修行。なので、わたしはエレンと一緒に趣味に走ろうとしていたわけだ。
「それで、何を作ろうとしているのです?」
エレンが今度は興味津々って感じで見てくる。エレンにとっては何もかもが初めてだから、より興味を持ってる感じだねぇ。
「ちょっと悩んでるんだよね。趣味に走った機械仕掛けゴーレムか、機械仕掛けのゴーレムスーツ、それか乗り物を作ろうかなーってとこ」
「乗り物、ですの? 馬車のような物です?」
「そそ。ゴーレムを使っての馬車か、馬自体要らない自走式の馬車を作ろうかなぁって」
この世界の主流は馬車なんだよね。自動車も広まってはいるけど、馬車の方が高性能なのが何とも。転生者の知識や技術より、古代エルフの超技術の方が圧倒的なんだもん、しょうがないよね。
「でもなぜ乗り物が候補なのです?」
エレンが首をかしげながら質問をしてくる。ちょっとその仕草は可愛いすぎるのでヤバいと思います!
「すっごい簡単な理由なんだけど、来年からわたしたちって学校でしょ」
「ですわね。それが何か関係しているのです?」
「すっごい関係してる。お母様に聞いたんだけど、学校に近い寮だと徒歩数分、遠い所だと1時間なんだって。でも遠い所の方が施設も充実してるから、わたしはそっちの方になりそうなの」
近場の寮は一般の生徒用、可もなく不可もなくのごく普通な寮らしい。
でも遠い所の寮は貴族向けなのでちょっと豪華。なにより貴族向けなので治安が良いという。一般向けだとたまに不審者を見るらしいからねぇ。
わたしをそんな不審者が出るところには絶対に預けない! ってのが家族全員の総意だから、遠くにある貴族用の寮になるのはしょうがない。
「良い物件があれば家を借りちゃおっかなぁとは考えてるけど、どっちにしろ学校からは遠いんだよね」
「分かりますわ。わたくしも転移門の使用許可が下りなければ、恐らく同じですわ」
転移門は三種類、設置型と携帯型、それと術式型がある。わたしとエレンは術式型の転移門は使えないので、設置型か携帯型を使用することになる。
ここで問題なのが転移門を使用するにはその許可証が必要だということ。
しかし厄介なことに許可証の申請待ちの人が多すぎて、今から申請しても発行されるのは数年先とかなんとか。お母様もこの事態は予想外だったみたいで、珍しく頭を抱えていたね。
だけどエレンには使用許可下りそうだなぁ。だってアルネイアの貴族様だからね。
「それで通学手段に馬車が要るんだけど、学校には預けておく厩舎が無いみたい。預けないで御者が送り迎えする感じだね」
「なるほど。でもその様子、何か問題がありますの?」
「それが評判のいい御者の空きが無く、わたしが雇っても大丈夫な人が皆無な状態なの。となると誰かと一緒になるんだけど、それだと自分の時間で行動できないからね」
行きも帰りも同じ時間になるように合わせるとか、ちょっと難しそうなんだよねぇ。なにより待たせたりするのはちょっと嫌だし。
「召喚術も考えたけど、毎日やるのはちょっと問題ある。となるとゴーレムを使った乗り物かなぁって感じ」
最初はドラゴンとかフェンリル、フェニックス辺りを召喚して足にしようと考えたけど、絶対に目立つからなぁ。
なによりアルネイア王国はうちの国と違って術がそこまで普及していない。
召喚術はもちろんのこと飛行術なんかも相当目立つから、術に頼らない移動方法がどうしても必要となる。厄介だねぇ。
「なるほどですわ。わたくしも考えないとダメかもしれませんわね、徒歩は避けたいですし」
「うん、だからわたしとアリサだけじゃなく、エレンとレイジも乗れるくらい大きい物を作ろうかな~って」
そう言ったらエレンが驚いた顔をした後、何やらすっごい感動したような顔をしてきたよ。はて、そんな感動するようなことを言ったかな?
「ほんと、あなたはなんで自然にそういうことを考えるのかしら。アリサさんがあのようになるのも納得ですわ」
なんかよくわからないけど、今度はすごい納得されたわ。
う~ん、わたしとしては普通に友達と一緒に通学したいので、その手段をちょっと考えただけなんだけどなぁ。なのに感動されるわ納得されるわで、よくわかりません!
「正直なとこ、お父様に頼めばすごい馬車を作ってくれたり、お姉様に頼めば王家用の馬車が貰えそうだけど、それらは最終手段にしたいんだ。まずは自分で作ってみようかな~って考えてるわけ」
「なっとくですわ。早めに着手した方がぎりぎりで失敗して間に合わない、ということも避けられますしね」
「そういうこと。機械仕掛けのゴーレムを趣味全開に作るのもありなんだけど、来年に向けての準備をしだしても良いかなぁってわけ」
ゴーレム作っても何に使うのよってなりそうな気もするからなぁ。
戦闘用に作ったとしてもそこまで強くないし、強くするならヒトガタ使ってのゴーレムの方がいい。
身の回りの世話をするものを作ったら、まず間違いなくアリサが悲しむ。
動物のような小型の物を作るとしても、それなら召喚術使って可愛い動物とか呼び出した方がいい。
うん、趣味全開してもその後が無いのはちょっとダメだね。なので乗り物が一番無難。
さてと、どうしようかなぁ。
馬車型にするか、前世にあった自動車みたいなのにするか、なやむなー。
「というわけで完成したのがこちらになります」
「わたくし、ずっと作業を見てましたが、早すぎてちんぷんかんぷんでしたわ」
「わたしだからね~。加工速度もそうだけど、頭の中で設計図の構築どころか、それに沿った効率的な手順まで構築してるのもあるからね」
「作業の全てを構築、とういうことですわね。わたくしではそこまでするのは無理ですわ」
ほー、〝そこまで〟って注釈を言うあたり、エレンもある程度できるんだね。歳の近い子が同じようなことをできるとか、ほんと珍しい。
それと同時に、同じような存在が居るのってすっごい嬉しいね。化け物仲間とか、ほんと素晴らしいわ!
「ところでユキさん、こちらのお馬さんのゴーレム、普通のお馬さんとは姿が違うのですが」
「これはユニコーンだよー。ペガサスにするか悩んだけど、空を飛ぶにはちょっと耐久性に無理があったんだ。なので今回はユニコーンタイプ。他にも候補があるにはあったけどね」
やっぱね、普通の馬だと面白くないからね。
見た目だけでなく、攻撃力も防御力も決して手を抜いていない。敵が襲ってきても撃退できるくらいにはしないと!
馬車はそんなユニコーン2頭でけん引する、ちょっと豪華な物を作成。
大きさは一般的な貴族が乗る6人用の馬車と同じくらいにおさえた。大きさでの威圧はまずいからねぇ。
その代わり、外装には超こだわった。派手過ぎない装飾に、何度も触りたくなるような質感。そして色は真珠のように光で色が変わる綺麗な白! これって〝ぱーるほわいと〟って言うんだったかな。
もちろんママ様から教わった古代エルフの知識を盛りだくさん! 隠し武装も大量に付けてるので、馬車単体での戦闘もばっちり。
「それじゃ乗ってみよー。はいエレン、どうぞ」
エレンの手を引いて乗せる。
いつもはわたしがアリサにやってもらうことだけど、自分がやるとなんか新鮮。
「ありがとうですわ。あら? 外見と違ってだいぶ広いような」
「空間拡張の術とか盛り込んでるからね。3人掛けの長椅子を4個、計12人は乗れるようにしたんだ。それと隣の部屋には化粧室、向こうには小さな台所、あっちは仮眠室もあるよ~」
「至れり尽くせりですわね!」
エレンも満足げだね!
椅子の感触を確かめたり、化粧室のぞいたりしてる。子供っぽくはしゃいじゃって、可愛いなぁ。
「ほんとはお風呂も付けたかったけど、材料の関係で今回は断念。でもいつかは付ける予定」
「さすがにそれはやりすぎな気がしますわ」
「わたし、妥協しないので! でも授業での遠征、これがあればある程度快適じゃない?」
「ですわねぇ。ちょっと羨ましいですわ」
あれ? 羨ましそうな顔してるけど、なんかエレン勘違いしてる? そういえば言ってなかったっけ?
「えっとね、お母様が学校の人と話し合って、エレンはわたしと同じクラスになるのが決定なんだよ。だから基本はわたしと一緒に行動ってことだよー。なので遠征はこの馬車を一緒に使います!」
「あら、そうだったのですか。なんと言っていいか、その、ありがとうですわ」
「気にしないでー。わたしもほら、お友達あんまりいないから、一緒のほうが嬉しいし」
「ですわね! わたくしも一緒のほうが嬉しいですし。あっ、その、これはちょっと恥ずかしいですわ」
面と向かってこういうこと言うと、やっぱお互い恥ずかしくなるもので。
しかもいつの間にか手を握り合ってるし。
やばい、変に熱くなってきたんだけど。絶対にこれ顔真っ赤だよ。エレンもすごい真っ赤になってるし。
アリサのおかげでわたしの友達に対する接し方はプロレベルだと思っていた。なのでこの程度余裕だと思ってたのに、実はまだ初心者レベルだったとは。修行が足りなかったわ……。
ユニコーンはゴーレムなので、乙女しか乗れないうんぬんの設定はありません。
その設定をやっちゃうと、レイジ君が乗れなくなるので(女体化フラグを作ってまで乗せるのはちょっと……)




