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帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


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第5話 返却対象外は、出口を使えない

社会って余裕ないくせに、暇ですよね

生活保護受けたらいいのに

あ、私も社会人です


 赤く変わった『出口』の矢印が、私を指していた。


 その意味を考える前に、青い板の怪物が動いた。


 黒い腕が床を叩く。


 跳ぶ。


「うわっ」


 私は横へ転がった。


 さっきまで頭があった場所を、細長い腕が通り過ぎる。爪がコンクリートを掻き、火花が散った。


 速い。


 ロッカーよりずっと速い。


 私は立ち上がりながら、右手の短槍を構える。


「返してほしいなら、話し合いで――」


 青い板が、私の言葉を遮るように鳴った。


 かん。


 板に浮かんだ文字が切り替わる。


『この先 出口』


 矢印が、通路の奥を指した。


 そこは、私が入ってきた方向とは逆だ。


「違う。入口はこっち」


 私は来た道を指した。


 怪物の青い板が、ぐるりと回る。


『逆走危険』


『関係者以外立入禁止』


『出口』


 最後の一枚だけ、また私を向いた。


『返却対象外』


 黒い腕が伸びる。


 狙いは、やっぱり青い腕章だった。


 私は腕章を背中側へ隠した。


「だから、これは管理局に――」


 言いかけて気づく。


 腕章の裏には、たしかに『返却対象外』と書かれていた。


 届ける、と言っている私のほうが、こいつにはおかしいのかもしれない。


 怪物がもう一度跳んだ。


 私は槍を突き出した。


 穂先は青い板に当たり、金属音を立てた。弾かれる。硬い。


 腕が私の手首を掴んだ。


「っ、離して!」


 冷たい指が、腕章を持つ左手へ這う。


 振りほどけない。


 なら。


 私は腕章を放した。


 青い布が床へ落ちる。


 怪物の腕が、私ではなく腕章へ向かった。


 指先が触れる。


 その瞬間、青い板の文字がすべて消えた。


 通路が静かになる。


 怪物は腕章を掴んだまま、動かなかった。


「……返せばよかったの?」


 答えはない。


 けれど、黒い指が腕章を床に置いた。


 その上から、青い板が一枚だけ落ちる。


 板には白い文字が浮かんでいた。


『回収完了』


 次の瞬間、怪物の体が崩れた。


 案内板は何枚もの青い光になり、床の染みに吸い込まれていく。


 残ったのは、腕章と、小指の先ほどの青い魔石だけだった。


 私はしばらく動けなかった。


「戦わなくて、よかった……」


 短槍を下ろす。


 でも、腕章はまだ床にある。


 拾っていいのか迷っていると、文字が変わった。


『所有者不明:廃棄許可』


「廃棄?」


 青い布に指先で触れる。


 今度は何も起きない。


 表側にあった登録番号の残り半分も、きれいに消えていた。


 私は腕章を拾い、リュックの外ポケットへ入れた。


 管理局には届ける。


 ただし、「返却対象外」と書かれた落とし物だったことも、ちゃんと話そう。


 昨日みたいに、都合の悪そうな部分を省かない。


 それが安全講習の正解かどうかは知らないけれど、知らない物を抱え込むのは、たぶん一人で潜る人間のやることじゃない。


     ◇


 その日は、そこで探索を切り上げた。


 《帰路設置》を使うほど奥には来ていない。来た道を戻れば、二十分ほどで入口へ着く。


 それでも、歩く速度は自然と速くなった。


 出口案内の怪物。


 落とし物保管庫。


 私のヘルメット。


 江東第七ダンジョンには、探索記録に載っていないものがある。


 しかも、それらはどういうわけか、私の周りに出る。


「偶然、だよね」


 誰にともなく言う。


 返事は、水滴の音だけだった。


 管理センターの窓口で、昨日のお姉さんに青い腕章を渡す。


 お姉さんは手袋をつけてから受け取り、端末で何度か照合した。


「登録番号がありませんね」


「拾ったときから半分消えていて。あと、裏に……」


「『返却対象外』?」


 お姉さんは、驚くより先にため息をついた。


「見たことがあるんですか」


「稀にあります。登録を抹消された装備品や、持ち主が権利を放棄した回収物に、ダンジョン側が勝手に付けることが」


「ダンジョン側が?」


「便宜上の言い方ですけどね」


 お姉さんは苦笑した。


「ただ、腕章自体は初めて見ます。預かります。真壁さんは、また何かに襲われませんでしたか?」


「少し」


「少し?」


「出口の案内板みたいな魔物に」


 お姉さんの笑顔が消えた。


「怪我は」


「ありません。ヘルメットがあるので」


 リュックから黄色いヘルメットを少し見せる。


 お姉さんは何か言いかけて、結局「……無事でよかったです」とだけ言った。


 そして、受付票に一つ印を押した。


「危険事象の報告として記録します。しばらく、単独で深い区画へ入らないでください」


「はい」


 素直に頷く。


 今日の私は戦わなかった。


 でも、戦わずに済む判断ができたなら、それは少しくらい成長したことにしていいと思う。


 外へ出ると、夏の夕方の熱気がまとわりついた。


 ダンジョンの冷たい空気から戻ると、毎回、世界が少しだけ明るすぎる。


 スマホを見る。


 母からメッセージが来ていた。


『帰りに牛乳お願い。あと、父さんから荷物が届いてる』


 私は足を止めた。


 父さんから。


 失踪してから三年、一度も連絡を寄越さなかった父から。


 画面を見つめていると、もう一通届く。


『変な古いヘルメットみたいなのが入ってる。栞の?』


 リュックの中で、黄色いヘルメットが、かすかに熱を持った気がした。

ダイヤのエースも好きです。

ナンバーズとかカッコよくないですか?

いろんな変化球とかロマンありますよね

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