第4話 返却報奨金は、装備代に消える
時は金なり
っていうじゃないですか、複利の話をしているんですよねきっと
翌日の放課後、私は江東第七ダンジョンの管理センターにいた。
制服のまま来ると、受付のお姉さんがすぐ気づいた。
「あ、真壁さん。飯島さんの件、確認が取れました」
「本当ですか」
昨日届けた認証札と赤いポーチのことだ。
窓口へ行くと、お姉さんは一枚の書類を差し出した。
「飯島紗夜さんは現役の探索者で、今は北海道のダンジョンへ遠征中です。認証札は二年前になくしたそうで。ポーチの中には、昔のお守りが入っていたとのことでした」
「お守り」
「お祖母様からもらったものだそうです。返却報奨金として、一万円が管理局から支払われます」
「一万円!?」
思わず声が大きくなった。
周りにいた探索者のおじさんが、ちらりとこちらを見る。
私は咳払いをした。
「……すみません。ちょっと、予想より高くて」
「現金だけではなく、個人的な品だったので。飯島さんからも、謝礼を上乗せしたいと連絡がありました」
すごい。
昨日の私は、魔石一個と石灰キノコ二個を払っていた。売れば千円にもならなかったものが、まさか一万円になるなんて。
これでキノコの損失どころか、卵かけご飯の日を卒業できる。
いや、卵かけご飯は好きだから卒業しないけれど。
「ただし」
お姉さんの声が少しだけ硬くなった。
「落とし物保管庫については、今後見つけても、単独での再侵入を試みないでください。昨日、職員がB2を確認しましたが、該当する通路も扉も発見できませんでした」
「はい」
「回収物も、可能な限り触る前に管理局へ連絡を」
「はい」
言われていることは正しい。
黒い手が手数料を取る、なんて説明しても困らせるだけなので、昨日は話していない。
ヘルメットについては正直に申告した。けれど、子どものころの私の名前が書かれた防災用品で、しかも今のところ異常なのは一日一回の防壁だけ。
検査担当の人は二十分ほど眺めたあと、「危険な呪物反応はありません」とだけ言った。
なので、返してもらえた。
今は私のリュックに入っている。
「それと、昨日の帰還はかなり危なかったようですね」
「二分前でした」
「推奨時間を下回る未踏区画への進入は、控えてください」
「はい……」
言い返せない。
白い扉があるからといって、私は無敵ではない。扉が壊れかけたら焦ったし、帰る道にロッカーが生えたら、普通に死にかけた。
帰れる能力は、帰る前に死なない能力ではないのだ。
窓口を離れた私は、すぐ隣の装備販売カウンターへ向かった。
一万円を受け取る前から、使い道は決めていた。
「頭につけるライト、ありますか。両手が空くやつ」
「ありますよ。初心者向けなら、こちらですね」
店員さんが出したのは、細いバンドつきの小型ライトだった。
値札は七千八百円。
私は一度、財布の中の一万円を見た。
次に、昨日、暗い保管庫でスマホのライトを使ったことを思い出す。
片手が塞がる。
落とすかもしれない。
充電が切れるかもしれない。
そして、黒い手が出たとき、私は短槍を構えるのが遅れた。
「これ、ください」
お金は、装備代に消えた。
残り二千二百円。
でも、買ってから少しだけ安心した。
安全はたぶん、売値がつかない。
◇
その日の探索は、入口から近い初心者区画だけにした。
昨日と同じ地下通路。
濡れたコンクリートの壁。
遠くで水滴が落ちる音。
そして、今日からは頭にライト。
「……見やすい」
当たり前のことに、私はちょっと感動した。
両手で短槍を持てるだけで、ずいぶん違う。片手にスマホを持っていた昨日の自分が、急に怖くなった。
黄色いヘルメットも被っている。
ライトのバンドがぎりぎり巻けた。
鏡がないので確認はできないけれど、たぶんかなり変な格好だ。
ジャージ、プロテクター、ぶかぶかの子ども用ヘルメット。
動画配信をしていたら、コメント欄で絶対に笑われる。
「でも、生き残るほうが大事」
私は自分に言い聞かせた。
通路を二十分ほど進み、小さな角を曲がる。
そこで、壁際に青いものを見つけた。
昨日の案内板と同じ色だった。
思わず足が止まる。
けれど今回は看板ではない。
床に落ちた、青い布切れだった。
拾い上げると、探索者用の腕章だとわかった。端が裂け、登録番号の半分が消えている。
裏側に小さな文字があった。
『返却対象外』
「え?」
昨日の保管庫とは、まるで逆だ。
名前もない。
持ち主もわからない。
なら、管理局に届ければいい。
そう思ってリュックへ入れようとした瞬間、通路の奥で金属音が鳴った。
かん。
かん、かん。
昨日のロッカーとは違う。
もっと高く、硬い音。
私は短槍を構えた。
ライトの先、薄暗い通路の向こうから、細い影が歩いてくる。
人の形。
けれど、脚がない。
古い駅の案内表示板みたいな、青い板が何枚も重なって、その下を黒い腕だけで這っている。
板には白い文字が浮かんでいた。
『出口』
『非常口』
『関係者以外立入禁止』
最後の一枚だけ、文字が違った。
『返却対象外』
「……それ、落とした腕章のこと?」
青い板の怪物は、答えなかった。
ただ、黒い腕を伸ばす。
狙っているのは、私ではない。
私の手にある、青い腕章だ。
返せということなら、返せばいい。
でも昨日の黒い保管係は、持ち主の品を返すための手数料を取った。
こいつは、返却対象外と書かれた物を集めている。
同じ仕組みには見えなかった。
私は腕章を握り込んだ。
「管理局に届けるから」
言った途端。
怪物の青い板が、一斉にこちらを向いた。
『出口』
『出口』
『出口』
文字だけが、赤く変わる。
通路の奥にあったはずの出口案内が、ゆっくりと私を指した。
ブクマ、評価、コメントよろしくお願いします。
以下自我
ハイキュー面白いですよね。
キャラクターが一々立ってるし
ゲームバランスが心地いいし
しっかり空想してるし




