第30話 風冷石を、一つだけ
こんにちばんわ!!
風冷石の回収が許可されたのは、前回の探索から三日後だった。
『第二通路内・浅棚 手前の石のみ回収可』
『棚のひび割れ部分へ立ち入らないこと』
『奥側の石は未確認』
担当者は、写真の上に黄色い線を引いた。
「ひびは表面だけでした。棚の手前側は、体重を掛けても問題ありません」
「奥側は」
「板の下に空洞があります。石を取るために踏み込む距離ではありません」
回収できるのは、手前の一つだけ。
栞はその条件を、地図の余白へ書いた。
『風冷石 一個』
『ひびの手前で止まる』
『奥側へ手を伸ばさない』
タイマーは二十五分。
白い扉をB1北側の階段脇へ置く。
『帰還可能』
『残り時間:五十九分』
B2へ降り、外周東側へ向かう。
第一固定点、案内索、第二固定点。風待ち棚を抜け、第二通路へ入る。
第一曲がり角を越え、第一固定輪へ耐風索を掛け替える。
黄色線の内側だけを進み、通風板の横を渡る。
前回より、足元を見なくなった。
見なくなったのではない。
見る場所を決めていた。
線、取っ手、固定輪。
それ以外は、見えても足を置く場所にしない。
第二固定輪へ着き、耐風索を掛け替える。
その先の浅棚には、二つの風冷石があった。
手前の一つだけ、黄色い線の内側にある。
栞は棚へ片足を置いた。
十センチほどの幅だが、前回渡った安全帯よりは広い。
壁の取っ手を握り、腰を低くする。
ひび割れは、二歩先で止まっていた。
風が横から吹き、風冷石の表面に白い粉が流れた。
栞は、風が弱まるのを待った。
石へ手を伸ばす。
指先が触れたところで、石が棚の奥へ少し転がった。
栞は追わなかった。
奥側へ手を伸ばせば、ひび割れの上へ身体が出る。
代わりに、短い槍の柄を石の手前へ添え、転がる向きだけを止める。
風が止まる。
栞は石を掴み、腰の収納袋へ入れた。
風冷石、一つ。
それで終わりにする。
奥の石は、青白い光を残したまま棚にある。
タイマーを見ると、残りは十一分だった。
栞はすぐに第二固定輪へ戻り、耐風索を掛け直した。黄色線の内側を戻り、第一固定輪で再び掛け替える。
風待ち棚を抜け、案内索を渡る。
白い扉をくぐったとき、表示は四十一分だった。
地上へ戻ると、回収した風冷石を布の上へ置いた。
傷はない。
「買取価格は、七百円です」
担当者が告げる。
七百円。
大きな金額ではない。
でも、危ない場所へ一歩余計に出なかった結果としては、十分だった。
栞は地図へ書き足した。
『風冷石 一個回収』
『奥側の石 一個残置』
帰り際、担当者が浅棚の奥の写真を拡大した。
「次区画への扉らしきものが見えます」
栞も画面を見た。
棚の奥、風冷石の向こうに、細い青い線がある。
扉の表示は、まだ読めない。
栞は写真を保存した。
石は一つ、持ち帰った。
もう一つと、青い線の先は、次に確認する場所として残した。
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