第31話 青い線の先で、風が止まる
こんにちばんわ!!
青い線の正体が分かったのは、さらに三日後だった。
『第二通路内・浅棚奥』
『風収め室 入口確認済み』
『入口まで通行可能』
『浅棚奥の風冷石は未確認』
「部屋なんですか」
「小さな退避区画です。風返しの横風を、いったん逃がすための場所らしいですね」
担当者は新しい図面を見せた。
浅棚のひび割れを越えなくても、第二固定輪の先から壁沿いに進める短い通路が描かれている。
「手前の風冷石を回収した場所から、壁側へ戻ると入口が見えます。棚の奥へは行かないでください」
「部屋の中は、確認済みですか」
「入口から三メートルまでです。風量は低いですが、内部の床はまだ全部見ていません」
栞は予定を書いた。
『第二固定輪から風収め室入口まで』
『入口から三メートル』
『室内の奥を見ない』
タイマーは二十五分。
白い扉をB1北側の階段脇へ置く。
『帰還可能』
『残り時間:五十九分』
B2へ降り、外周東側へ進む。
第一固定点、案内索、第二固定点。風待ち棚を抜け、第二通路へ入る。
第一固定輪を越え、通風板の横を渡る。
第二固定輪で耐風索を掛け替え、浅棚の手前で壁側へ向きを変える。
前回、青い線に見えたものは、壁に埋め込まれた扉の縁だった。
扉には小さな表示がある。
『風収め室』
『入口のみ確認済み』
栞が近づくと、扉の中央が薄く光った。
押す必要はなかった。
風が一度、通路の奥へ抜ける。
その瞬間だけ、扉が内側へ開いた。
栞はすぐには入らない。
扉の前で、手回し灯を床へ置く。
光は、室内へまっすぐ伸びた。
風に流されない。
風が止まっている。
栞は耐風索を第二固定輪へ留めたまま、入口へ一歩入った。
中は、三人が立てる程度の広さだった。壁際に低い腰掛けがあり、反対側には格子のついた排気口がある。
床には、黄色い線が三メートルだけ引かれている。
栞は線の終わりで止まった。
その先には、照明がない。
室内の空気は静かだった。
通路の風が消えたわけではない。
壁の排気口へ集められ、別の方向へ流されている。
栞は腰掛けへ座らなかった。
座って休める場所に見えても、現在の確認範囲は線の手前までだ。
代わりに、壁の表示を読む。
『風圧安定区画』
『滞在時は出入口を確保すること』
帰るための扉を、閉めてはいけない。
栞はそれを確認した。
タイマーを見ると、残りは十二分だった。
入口から出る。
扉が閉じる前に、栞は写真を撮った。次の風が通路を抜け、扉はゆっくり閉まった。
第二固定輪で耐風索を掛け直し、通風板の横を戻る。
第一固定輪、風待ち棚、第二固定点、案内索。順番を守って戻る。
白い扉をくぐったとき、表示は四十二分だった。
地上へ戻り、栞は写真を報告した。
「入口から三メートルまで入りました。風はありませんでしたが、線の先へは進んでいません」
「確認どおりです。あそこは、次の探索で一度休める場所になるかもしれません」
「扉は、風が抜けたときに開きました」
「なら、出入口を確保する条件も守れています」
栞は地図へ書き足した。
『風収め室 入口から三メートル確認』
『室内奥 未確認』
風の中に、風のない場所があった。
そこまで戻れる道が、今日ひとつ増えた。
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