第28話 浮いた床は、通路ではない
こんにちばんわ!!
浮いていた金属板について、地上の判断が出たのは翌日だった。
『第二通路内・第一固定輪の先』
『床板 通行禁止』
『風向切替時、開閉を確認すること』
「歩けない床なんですか」
「床ではありません。風を逃がすための開閉板です」
担当者は、栞が撮った写真に線を引いた。
「風が横へ抜けていたでしょう。板の下が、通風口になっています」
「板が開いたら、落ちるんですか」
「深さは確認中です。ただ、足場として使う設計ではありません」
栞は地図の青い丸を見た。
固定輪へ着いた先に、床はなかった。
正確には、歩いてはいけない床があった。
次の探索で確認するのは、二つ。
風向切替で板がどの程度動くか。
板の先に、次の固定輪があるか。
板へ乗らない。棒を差し込まない。身を乗り出さない。
紙に書いたあと、栞は短い槍を装備へ加えた。
戦うためではない。
固定輪から離れない位置で、板の動きを見るためだ。
B1の階段脇へ白い扉を置く。
『帰還可能』
『残り時間:五十九分』
タイマーは二十五分。
B2へ降り、外周東側へ進む。第一固定点、案内索、第二固定点。風待ち棚を抜け、第二通路へ入る。
第一曲がり角を越え、右壁の第一固定輪へ向かう。
前回と同じように、反射板を目印に進んだ。
風は弱い。
固定輪へ着き、耐風索を掛け替える。
これで、板の前で止まっても戻れる。
栞は槍の石突きを床へ置き、先端だけを金属板へ向けた。
届く距離ではない。
触れるためではなく、風で動いたときに見失わないための目印だった。
『風向切替 あと十秒』
表示が変わる。
金属板の端が持ち上がった。
数センチだけ開き、黒い隙間が現れる。
次の瞬間、板は音を立てて閉じた。
足場ではない。
栞はそれを確認した。
風が入口側へ切り替わる。
板の端が、今度は反対側から浮いた。
下から風が吹き上がり、白い粉が隙間から細く噴き出す。
栞は槍を動かさなかった。
板の下へ何かを入れれば、閉じる力を確かめられるかもしれない。
けれど、閉じる力を確かめる必要はない。
足場ではないと分かっている。
栞は、板の先の壁を照らした。
右側の壁に、三つの穴が並んでいる。
固定輪を取り付けるための穴だ。
だが、金属の輪は一つもない。
穴のさらに奥には、黄色い線だけが続いていた。
次の安全な係留点は、まだ設置されていない。
タイマーを見ると、残りは十六分だった。
今日の確認は終わりだ。
栞は固定輪から耐風索を外し、入口側へ戻す。曲がり角を抜け、風待ち棚を出て、案内索を渡る。
白い扉をくぐったとき、表示は四十五分だった。
地上で写真を見せると、担当者は三つの穴を見つけた。
「これは固定輪の取付位置ですね。まだ輪がない」
「黄色い線は、次の通路まで続いていました」
「通路はある。ただし、帰還設備が未完成ということです」
栞は地図へ書き込んだ。
『浮き床=通風板』
『板の先に固定輪用の穴、輪は未設置』
進めない理由が、分かった。
次に必要なのは、板を渡る技術ではない。
板を渡らずに済むよう、帰るための輪が取り付けられることだった。
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