第27話 固定輪を、先に探す
こんにちばんわ!!
次の地図が届いたのは、それから二日後だった。
第一曲がり角の先に、青い丸が一つ増えている。
『第二通路内・第一固定輪 確認済み』
『曲がり角から固定輪まで 通行可能』
『固定輪を留めた後、次区画へ進まないこと』
「風量計を一晩置いて、第二通路内の固定輪の位置を確認しました」
担当者が地図を指でなぞる。
「曲がり角を入って、右側の壁。床から少し高い位置です。風が強くなる時間帯は、固定輪へ着く前に引かれる可能性があります」
「先に留められないんですか」
「入口側から届く場所ではありません。固定輪まで行って、そこで初めて耐風索を移せます」
栞は地図を見た。
帰るための道具を、帰る道の途中で移さなければならない。
それなら、固定輪までの距離を短くするしかない。
栞は今回、タイマーを二十五分にした。
行動目標は、固定輪へ到着し、耐風索を移して戻ること。
『曲がり角で風を確認』
『右壁の第一固定輪まで』
『移したら戻る』
白い扉をB1北側の階段脇に置く。
『帰還可能』
『残り時間:五十九分』
B2へ降り、外周東側へ向かう。
第一固定点で耐風索を留める。案内索を使って第二固定点へ渡る。風待ち棚の扉を開ける。
ここまでは、もう迷わない。
入口の固定輪へ耐風索を移し、第一曲がり角まで進む。
壁の表示は更新されていた。
『確認範囲 第二通路内・第一固定輪まで』
栞は手すりを握り、曲がり角の先を見た。
横から来る風が、通路の床に置かれた白い粉を右へ流している。
前回と同じ風だ。
ただ、今日は右壁に小さな反射板が貼られていた。
固定輪の位置を示す目印だった。
栞は一歩進む。
手すりは、曲がり角を過ぎたところで途切れていた。代わりに、壁の低い位置へ短い取っ手が連続している。
手でつかむためのものではない。
身体を支えるには低すぎるが、耐風索を引き寄せる間隔としては使える。
栞は一つ目の取っ手を通り過ぎ、二つ目の前でしゃがんだ。
風が横から押してくる。
足を斜めに置き、腰を壁側へ寄せる。
十歩先に、反射板が光った。
第二通路内の第一固定輪は、そこにある。
だが、風が急に強くなった。
床の白い粉が舞い上がり、足元が見えなくなる。
栞は前へ出なかった。
見えないまま進めば、固定輪へ届く前に足を取られる。
風が弱くなるまで待つ。
弱まった瞬間、栞は二歩だけ進んだ。
三歩目で、右手が金属の輪に触れた。
反射板の下に、固定輪がある。
栞は耐風索のクリップを外し、輪へ掛け直した。
腰に掛かる向きが変わる。
入口から伸びていた索が、曲がり角の先から戻る索になった。
これで、ここまでは帰れる。
栞は固定輪の下を照らした。
その先の床だけ、金属板が少し浮いている。
風が横から入るたび、板の端が細かく震えた。
表示はない。
固定輪へ着いたことだけを確認し、先の板には触れなかった。
タイマーを見ると、残りは十四分だった。
栞は来た道を戻る。
曲がり角の手前で一度、クリップを確認する。入口へ戻ってから、元の固定輪へ掛け直す。
風待ち棚を出て、第二固定点、案内索、第一固定点の順に戻った。
白い扉をくぐったとき、表示は四十四分だった。
地上で写真を見せると、担当者は浮いた金属板を拡大した。
「この板は、第二通路の次区画の床ですね」
「浮いていました。触っていません」
「それで大丈夫です。固定輪の確認が先ですから」
地図へ、二つ目の青い丸が加わった。
栞はその横へ、短く書き足した。
『固定輪まで到着』
『浮き床には触れない』
帰るための係留点は、増えた。
次に必要なのは、その先の床が、歩くための床なのかどうかを確かめることだった。
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