第24話 次の通路は、開けずに見つける
こんにちばんわ!!
風留晶を買い取り窓口へ出したあと、栞はそのまま報告台の前に残った。
「風待ち棚の奥に、古い返却棚の表示がありました。触っていません。写真だけです」
端末へ送った写真を、担当者が拡大する。
「判断は適切です。そこは旧・帰還支援庫の設備ですから」
「今の地図には、載っていませんでした」
「載せる理由がなかった場所です。使えない設備なので」
それだけ言って、担当者は写真の端を指した。
「ただ、この壁の継ぎ目は確認します。古い棚のさらに奥に、通路が残っている可能性があります」
可能性。
栞はその言葉を、目的にはしなかった。
次の探索でやることは、三つだけに決めた。
第一固定点まで行く。
案内索を使って第二固定点へ渡る。
風待ち棚から、奥の壁を確認する。
扉や表示を見つけても、入らない。触らない。今の地図にない先へは進まない。
出発前、栞は紙の地図の余白へ書いた。
『棚の奥を確認』
『未知の先は入らない』
『二十分で戻る』
欲しい物より、帰る時間。
それを見てから、栞はB1北側の通常階段へ向かった。
階段脇に白い扉を置く。
『帰還可能』
『残り時間:五十九分』
スマートフォンのタイマーを二十分に設定し、B2へ降りた。
風抜けの掲示板は、今日は静かだった。
『B2第一区画 風抜け』
『通行可能』
『送風停止中』
外周東側へ進む。第一固定点で耐風索を留め、手すりを握ったまま、銀色の案内索へクリップを通す。
五歩。
短い切れ目を渡りきって、第二固定点へ着いた。ここで一度、クリップが確実に留まっていることを指で確かめる。
前より速くなったわけではない。
迷う場所が、少し減っただけだった。
風待ち棚へ入ると、奥の壁には前回と同じ、古い金属板があった。
『旧・帰還支援庫 庫外返却棚』
『現在使用不可』
栞は近づかない距離で、棚の右側を照らした。
壁と壁の間に、細い縦線がある。
先週は、影にしか見えなかった線だ。
手回し灯の角度を変えると、縦線の横に小さな丸い取っ手が浮かんだ。壁と同じ灰色に塗られた、片開きの扉だった。
その上の表示は、古い返却棚のものではない。
『B2第二通路 風返し』
『通行状態 未確認』
その直後、灰色のヘルメットが、かちりと鳴った。
『旧設備 近接』
『接触不要』
同時に、入口側の掲示灯が黄色く点滅する。
『送風開始 あと十秒』
栞は写真を一枚だけ撮った。
取っ手には手を伸ばさない。近寄って鍵穴を調べもしない。
棚の網の内側へ下がり、耐風索をたるませないように手すりを握る。
十、九、八。
数えるあいだにも、扉はそこにあった。
けれど、開けるために見つけたわけじゃない。
送風が始まる。棚の前の網が低く唸り、横から吹く風が灯りの輪を震わせた。
栞は足を動かさず、風が弱まるのを待った。
止まったあと、スマートフォンを見た。
『残り時間 九分』
確認する時間は、もう終わりだ。
栞は棚を出て、第二固定点、案内索、第一固定点の順で戻った。案内索の途中でクリップを外すことはない。
B1の白い扉へ戻ると、表示はこうだった。
『帰還可能』
『残り時間:四十三分』
十六分。
予定より少し早い。
地上へ戻った栞は、買い取り窓口ではなく、先に報告台へ行った。
「風待ち棚の右側に扉がありました。B2第二通路、風返し。通行状態は未確認です」
担当者の表情が、少しだけ固くなった。
「開けましたか」
「いいえ。写真だけです」
端末に送られた画像を見て、担当者はすぐに頷いた。
「それで正解です。第二通路の入口が残っていたんですね」
「入っていい通路なんですか」
「今は、まだ答えられません。現況確認と地図更新が先です」
栞は頷いた。
扉の向こうが何なのかは、分からないままだ。
けれど、分からないから開けるのではない。
帰ってから確かめられるなら、そのほうがいい。
栞は地図の余白に、今日の結果を書き足した。
『B2第二通路「風返し」入口を確認』
『未確認。入らない』
次へ進む道は、見つけた。
まだ、開けてはいない。
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