↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/31

第19話 二階の入口には、風が吹いている

こんにちばんわ!!


 B2へ入る日は、学校が終わってすぐに決めた。


 平日。


 明るいうち。


 管理センターへ予定を伝えてから。


 日曜日に朝倉さんから言われたことを、紙に書き出しておいた。


『B2 最初の部屋だけ』


『三十分』


『採取袋半分で戻る』


『異常が出たら、採取をやめる』


 受付で、その紙を朝倉さんに見せる。


「これでいいですか」


「いいですね。B2用の予備灯も持ちましたか」


「はい」


 リュックの横ポケットから、小さな手回し灯を出す。


 B2は照明が不安定な場所があるから、ライトを二つ持つように言われた。


 スマホのライトと、手回し灯。


 十分とは言えないけれど、最初の部屋だけなら足りる。


「通常階段は、B1北側の案内に従ってください。旧・帰還支援庫の連絡階段には近づかないこと」


「行きません」


 B2へ行けるようになった。


 でも、行ける場所が全部同じになったわけじゃない。


 私は黄色いヘルメットを被り、探索者証を首から下げた。


     ◇


 B1北側の通常階段の前で、《帰路設置》を使う。


 白い扉が、階段脇の壁際に現れた。


『帰還可能』


『残り時間:五十九分』


 スマホのタイマーは三十分。


 取っ手に一度だけ触れる。


 ちゃんと帰れる。


 それを確認してから、私は階段を下りた。


 階段は、B1のコンクリートより少しだけ狭い。


 下へ行くほど、空気が冷たくなった。


 二十段。


 三十段。


 最後の一段を下りた瞬間、頬に風が当たった。


「……風」


 B2の入口には、広い部屋があった。


 天井はB1より高い。


 壁には太い換気管みたいな穴がいくつも開いていて、そこから冷たい風が吹いている。


 床には、細長い格子の溝。


 風は、その溝を通って部屋の奥へ流れていた。


 壁の案内板に、現在の表示が出ている。


『B2第一区画 風抜け』


『通行可能』


『送風停止中』


 最後の文字を見て、私は少しだけ立ち止まった。


 止まっているなら、いつか動く。


 紙の地図を見る。


 最初の部屋の外周だけ、緑の線が引かれている。


 中央の格子溝には入らない。


 向こうの暗い通路へも入らない。


 私は壁際を歩き始めた。


 床の隅に、薄い水色の石が落ちている。


 半透明で、指先くらいの大きさ。


 地図の余白に書いてあった採取物と同じだった。


『風冷石 傷なし:一個七百円前後』


 周囲を見て、上を見る。


 風の穴は遠い。


 足元も乾いている。


 私は一個だけ拾い、採取袋へ入れた。


 少し先に、もう一個。


 そのまた少し先に、一個。


 B1の石灰キノコより、見つけやすい。


 でも、部屋の中央に近づくほど、石の数が増えている。


 格子溝の向こうには、手のひらくらいの風冷石が二つ並んでいた。


 たぶん、あれなら千円以上になる。


 私は格子の手前で止まる。


 中央へ入らない。


 紙にも書いてある。


 最初の日に、地図の外へ行かない。


 そのとき、部屋の奥で短い金属音が鳴った。


 かん。


 壁の案内板の文字が変わる。


『送風開始 あと十秒』


「戻る」


 私は、すぐに壁際へ寄った。


 壁には、腰の高さまで金属の手すりが付いている。


 両手で掴む。


 十秒。


 九。


 八。


 数える必要はないのに、頭の中で数えてしまう。


 次の瞬間、風の穴が唸った。


 ごう、と冷たい風が部屋を横切る。


 中央の格子溝に落ちていた小石が、一斉に流されていく。


 風冷石も、格子の上を滑っていった。


 さっき見えた大きな石が、目の前を通り過ぎる。


 採取袋に入れた三個より、ずっと大きい。


 でも、手を伸ばさない。


 手すりを離さない。


 風は長く続かなかった。


 数十秒で、壁の穴の音が小さくなる。


 案内板が、また文字を変えた。


『送風停止中』


 私は手すりから手を離し、スマホを見る。


 タイマーは残り二十一分。


 まだ半分以上ある。


 でも、B2で初めての送風を見た。


 これ以上、何が起きるかは知らない。


 採取袋には、風冷石が三個入っている。


 今日はもう十分だった。


 私は来た階段へ戻った。


     ◇


 B1へ上がり、白い扉の前まで戻る。


『帰還可能』


『残り時間:四十六分』


 スマホのタイマーは、残り十七分。


 階段を下りて、三個拾って、送風を見て、戻った。


 短い探索だった。


 でも、B1より一階分、深い場所まで行った。


 私は白い扉を開けた。


     ◇


「B2第一区画で、送風を確認しました」


 管理センターで報告すると、朝倉さんは頷いた。


「手すりに掴まりましたか」


「はい。中央には入っていません」


「それなら問題ありません。初回としては、ちょうどいい戻り方です」


 風冷石は、三個で二千百円だった。


 明細を受け取って、少しだけ驚く。


 B1で一時間近く探していたときより、多い。


 B2には、採れる物もある。


 その代わり、知らない風もある。


 私は明細を財布へ入れた。


 次にB2へ入るときも、最初は壁際からにする。


 大きな風冷石を拾うのは、そのあとだ。

ブクマ、評価、感想

お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。