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帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


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第16話 警告は、地図の代わりにならない


 次の日、管理センターから連絡が来た。


『黄色いヘルメットの点検が完了しました』


 放課後、私はすぐに受け取りに行く。


 カウンターの上に置かれたヘルメットは、見た目だけなら前と同じだった。


 縁の白いひびも消えている。


「もう使えますか」


「使えます。ただし、前と同じように一度の大きな衝撃を防げるだけです」


 朝倉さんは、点検票を指で押さえた。


「防いだから、次も大丈夫、ではありません。発動したら必ず点検です」


「わかっています」


 あの日、痛くなかったから、少しだけ忘れそうになっていた。


 でも、あれは落下物の下にいても平気になる力じゃない。


 逃げ遅れた一回を、たまたま防いでくれただけだ。


 白い貸出ヘルメットを返して、黄色いヘルメットを受け取る。


 自分の物が戻ってきた、というだけで少し安心した。


「今日は二十五分だけにします」


「予定は?」


「南側を途中まで。折り返すのは残り十五分です」


「いいですね」


 朝倉さんが、昨日と同じ地図に現在の通行線を引いてくれる。


「台車の先へは入らない。金属片も回収しない」


「はい」


 私が答えると、朝倉さんは端末を閉じた。


「安全行動記録は、今回を含めて残り二回です。今日が確認できれば、実技の申込みができます」


「残り一回」


「そうです」


 私は、黄色いヘルメットを抱え直した。


 次が、B2へ近づく最後の準備になる。


     ◇


 B1に入る。


 白い扉を置く。


『帰還可能』


『残り時間:五十九分』


 スマホのタイマーを二十五分にした。


 黄色いヘルメット。


 灰色のヘルメット。


 短槍。


 発煙筒。


 水。


 救急セット。


 確認してから、南側の通路へ進む。


 昨日の台車は、まだ同じ場所にあった。


 荷台の箱も、床の金属片も、そのままだ。


 私は写真を撮らなかった。


 昨日、もう報告した。


 今日も同じ物を見て、同じように判断するだけだ。


 台車の手前で折り返す。


 その途中、壁の隙間で石灰キノコを一個見つけた。


 上を見て、金具を見て、周囲を見てから採る。


 袋へ入れた直後、灰色のヘルメットが鳴った。


 かちり。


『帰還導線 異常』


『前方 通行制限』


 私は動かない。


 前方は、入口へ戻る通路だ。


 白い扉も、その先にある。


 でも、今いる場所からは何も見えない。


 地図を出す。


 この先に分岐はない。


 あるのは、まっすぐな通路だけ。


 なら、警告が出たからといって横道へ入る理由はない。


 私は短槍を持ったまま、壁側を歩く。


 十歩。


 二十歩。


 通路の先で、青い光が見えた。


 昨日までなかった、点滅する案内板。


『点検作業中』


『この先 通行停止』


 通路の真ん中には、黒い回収箱が三体並んでいた。


 それぞれが、細長い金属の棒を抱えている。


 棒の先には、小さな黄色い旗。


 黒い箱の案内板に、文字が浮かんだ。


『保全資材 搬送中』


『立入禁止』


 昨日の台車も、金属片も、ここを直すための物だったんだ。


 灰色のヘルメットが出した警告は、間違いじゃなかった。


 でも、どこへ行けばいいかまでは教えてくれない。


 私は地図を見る。


 この通路が閉じているなら、白い扉へは戻れない。


 ただし、白い扉の残り時間は十分にある。


 今、無理に別の道を探す必要はない。


 壁に背をつけて、スマホの緊急報告ではない連絡画面を開く。


『南側通路で保全搬送を確認』


『帰還扉への通路が一時停止。白い扉は設置済み、残り四十五分』


 送信する。


 返事はすぐに来た。


『その位置で待機しないでください。台車手前まで戻り、扉の位置へ引き返してください』


 私は画面を見直す。


 台車の手前。


 さっき折り返した場所だ。


 地図にある、安全な戻り道。


 私は、黒い回収箱を追い越そうとしなかった。


 資材に触れない。


 点検中の通路へ入らない。


 来た道を戻る。


     ◇


 白い扉の前まで戻ると、取っ手に触れた。


『帰還可能』


『残り時間:四十三分』


 スマホのタイマーは、残り九分。


 予定よりずっと早い。


 でも、通行制限の先に用事はない。


 私は迷わず扉を開けた。


     ◇


 地上へ戻ると、朝倉さんがすぐに来た。


「報告、見ました。保全班の資材搬送です。南側の天井を補強していました」


「灰色のヘルメットが、帰還導線の異常って」


「ヘルメットは、旧い帰還経路に対する変化を検出しただけでしょう。工事が危険か、安全な迂回路がどこかまでは判断しません」


「だから、地図と今の表示を見て、戻りました」


「正しいです」


 朝倉さんは、今日の記録を端末に入力する。


 旧装備の通知確認。


 現在の表示の確認。


 通行制限への対応。


 予定外の早期帰還。


『B1安全行動記録 確認済み』


『第二層単独許可まで 残り一回』


 画面の数字を見て、私は息を止めた。


 あと一回。


 次に確認が取れたら、基礎実技を受けられる。


 買取は、石灰キノコ一個分。


 二百五十円。


 少ない。


 でも、今日は黄色いヘルメットを光らせずに帰れた。


 灰色のヘルメットの警告にも、振り回されずに帰れた。


 帰る道は、誰かに全部を教えてもらうものじゃない。


 見えている物を確かめて、自分で戻る。


 その練習が、あと一回だけ残っている。

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