第15話 借り物のヘルメットでも、帰る
やっぱ、自分で書いた方が面白いと思う
黄色いヘルメットは、まだ点検中だった。
代わりに朝倉さんが貸してくれたのは、白いヘルメットだった。
つるんとした、何の印もない普通の物。
「これは《衝撃遮断》みたいな機能はありません」
朝倉さんが、貸出用の札を指さす。
『B1標準保護具』
『頭部軽度保護・異常検知機能なし』
「ぶつかったら、普通に痛いですか」
「普通に痛いです」
「わかりやすいです」
顎紐を締める。
昨日までの黄色いヘルメットより、少しだけ軽い。
でも、軽いから安全というわけじゃない。
守ってくれる力が少ないなら、その分、危ない場所へ近づかない。
「今日は、入口から南側の短い周回だけにします」
「時間は?」
「二十分。十五分で折り返します」
「それでいきましょう」
朝倉さんは、紙の地図に赤い線を引いた。
黄色い線の中でも、天井の状態が新しい場所。
今の私が、標準保護具で歩いていい範囲だ。
◇
B1に入って、いつもの壁際に白い扉を置く。
『帰還可能』
『残り時間:五十九分』
スマホのタイマーは二十分。
短槍。
水。
発煙筒。
救急セット。
灰色のヘルメット。
白いヘルメット。
採取袋は、一番小さいものにした。
今日の目標は、何かをたくさん持って帰ることではない。
借り物の装備でも、予定を崩さず帰ること。
南側の通路は、東側より明るかった。
天井に新しい照明があり、壁の案内図も現在の物だ。
それでも、私は歩く前に立ち止まる。
次の角。
床の水。
天井の金具。
進む先。
見てから、一歩ずつ進んだ。
壁の下に、石灰キノコを二個見つけた。
どちらも傷が少ない。
採取袋へ入れる。
その先で、銀色の小さな粒が床に落ちているのを見つけた。
魔石ではない。
ねじの頭みたいに丸い、金属のかけらだった。
周囲には、同じ物がいくつも散らばっている。
「留め具喰いの、食べ残し?」
拾いかけて、手を止める。
昨日、あの虫が削っていたのは天井の金具だ。
これは落とし物ではないかもしれない。
通路の部品かもしれない。
私はスマホで写真だけを撮った。
採取袋には入れない。
灰色のヘルメットも、鳴らない。
鳴らないから安全なのではなく、わからないから触らない。
そのまま、次の角へ進む。
そこで初めて、リュックの中から音がした。
かちり。
灰色のヘルメットを取り出す。
『帰還導線 注意』
『前方 滞留物あり』
前を見る。
通路の真ん中に、古い台車が止まっていた。
荷台には、空のプラスチック箱が三つ。
誰かが置いていったように見える。
でも、台車の車輪は床の溝にぴったりはまっている。
動かすための物ではなく、通路を区切るための物なのかもしれない。
台車の横に、小さな札が下がっていた。
『調査用・移動禁止』
「Cの物」
私は、昨日の記録筒の区分を思い出す。
施設保全上、移動させてはならない物。
台車の向こうは、通行範囲の外だった。
地図の赤い線も、ここで終わっている。
通路はまだ続いている。
でも、今日はここまで。
スマホを見る。
タイマーは残り十一分。
予定なら、あと六分歩ける。
石灰キノコも、もう少し探せる。
けれど、台車の手前で戻れば、何かにぶつかることもない。
借り物のヘルメットで、予定より先へ行く理由もない。
「折り返す」
私は台車の写真を撮って、来た道へ戻った。
足元の銀色の粒も、振り返らない。
◇
白い扉の前に着く。
『帰還可能』
『残り時間:四十六分』
スマホのタイマーは残り七分。
予定より早い。
私は扉を開けた。
◇
管理センターで、朝倉さんに写真を見せた。
「南側の通路に、移動禁止の台車がありました。手前の床には、金属片も落ちていました」
朝倉さんは画像を拡大する。
「これは、昨日の落下箇所から回収した金具ですね。管理局が通路を止めるために、台車と一緒に置いたものです」
「拾わなくてよかった」
「拾っていたら、返却対象ではなく、調査資料になっていました」
「仮登録しないで正解でした」
「はい。知らない物を持ち帰らなかったのも、予定より早く引き返したのも」
朝倉さんは、今日の探索記録を入力していく。
保護具の変更。
通行範囲の確認。
異常物の報告。
帰還判断。
『B1安全行動記録 確認済み』
『第二層単独許可まで 残り二回』
画面を見て、私は少しだけ息を吐いた。
あと二回。
まだB2へは行けない。
でも、前より近い。
「黄色いヘルメットは、明日には戻りそうですか」
「点検結果が出れば。次に潜る前には、連絡します」
「わかりました」
今日の買取は、石灰キノコ二個分。
五百円。
少ない。
でも、白いヘルメットを傷つけずに返せた。
借り物の装備で、借り物の安全に頼りすぎずに帰れた。
それなら今日は、十分だった。
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忘れてた!!




