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帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


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15/31

第15話 借り物のヘルメットでも、帰る

やっぱ、自分で書いた方が面白いと思う


 黄色いヘルメットは、まだ点検中だった。


 代わりに朝倉さんが貸してくれたのは、白いヘルメットだった。


 つるんとした、何の印もない普通の物。


「これは《衝撃遮断》みたいな機能はありません」


 朝倉さんが、貸出用の札を指さす。


『B1標準保護具』


『頭部軽度保護・異常検知機能なし』


「ぶつかったら、普通に痛いですか」


「普通に痛いです」


「わかりやすいです」


 顎紐を締める。


 昨日までの黄色いヘルメットより、少しだけ軽い。


 でも、軽いから安全というわけじゃない。


 守ってくれる力が少ないなら、その分、危ない場所へ近づかない。


「今日は、入口から南側の短い周回だけにします」


「時間は?」


「二十分。十五分で折り返します」


「それでいきましょう」


 朝倉さんは、紙の地図に赤い線を引いた。


 黄色い線の中でも、天井の状態が新しい場所。


 今の私が、標準保護具で歩いていい範囲だ。


     ◇


 B1に入って、いつもの壁際に白い扉を置く。


『帰還可能』


『残り時間:五十九分』


 スマホのタイマーは二十分。


 短槍。


 水。


 発煙筒。


 救急セット。


 灰色のヘルメット。


 白いヘルメット。


 採取袋は、一番小さいものにした。


 今日の目標は、何かをたくさん持って帰ることではない。


 借り物の装備でも、予定を崩さず帰ること。


 南側の通路は、東側より明るかった。


 天井に新しい照明があり、壁の案内図も現在の物だ。


 それでも、私は歩く前に立ち止まる。


 次の角。


 床の水。


 天井の金具。


 進む先。


 見てから、一歩ずつ進んだ。


 壁の下に、石灰キノコを二個見つけた。


 どちらも傷が少ない。


 採取袋へ入れる。


 その先で、銀色の小さな粒が床に落ちているのを見つけた。


 魔石ではない。


 ねじの頭みたいに丸い、金属のかけらだった。


 周囲には、同じ物がいくつも散らばっている。


「留め具喰いの、食べ残し?」


 拾いかけて、手を止める。


 昨日、あの虫が削っていたのは天井の金具だ。


 これは落とし物ではないかもしれない。


 通路の部品かもしれない。


 私はスマホで写真だけを撮った。


 採取袋には入れない。


 灰色のヘルメットも、鳴らない。


 鳴らないから安全なのではなく、わからないから触らない。


 そのまま、次の角へ進む。


 そこで初めて、リュックの中から音がした。


 かちり。


 灰色のヘルメットを取り出す。


『帰還導線 注意』


『前方 滞留物あり』


 前を見る。


 通路の真ん中に、古い台車が止まっていた。


 荷台には、空のプラスチック箱が三つ。


 誰かが置いていったように見える。


 でも、台車の車輪は床の溝にぴったりはまっている。


 動かすための物ではなく、通路を区切るための物なのかもしれない。


 台車の横に、小さな札が下がっていた。


『調査用・移動禁止』


「Cの物」


 私は、昨日の記録筒の区分を思い出す。


 施設保全上、移動させてはならない物。


 台車の向こうは、通行範囲の外だった。


 地図の赤い線も、ここで終わっている。


 通路はまだ続いている。


 でも、今日はここまで。


 スマホを見る。


 タイマーは残り十一分。


 予定なら、あと六分歩ける。


 石灰キノコも、もう少し探せる。


 けれど、台車の手前で戻れば、何かにぶつかることもない。


 借り物のヘルメットで、予定より先へ行く理由もない。


「折り返す」


 私は台車の写真を撮って、来た道へ戻った。


 足元の銀色の粒も、振り返らない。


     ◇


 白い扉の前に着く。


『帰還可能』


『残り時間:四十六分』


 スマホのタイマーは残り七分。


 予定より早い。


 私は扉を開けた。


     ◇


 管理センターで、朝倉さんに写真を見せた。


「南側の通路に、移動禁止の台車がありました。手前の床には、金属片も落ちていました」


 朝倉さんは画像を拡大する。


「これは、昨日の落下箇所から回収した金具ですね。管理局が通路を止めるために、台車と一緒に置いたものです」


「拾わなくてよかった」


「拾っていたら、返却対象ではなく、調査資料になっていました」


「仮登録しないで正解でした」


「はい。知らない物を持ち帰らなかったのも、予定より早く引き返したのも」


 朝倉さんは、今日の探索記録を入力していく。


 保護具の変更。


 通行範囲の確認。


 異常物の報告。


 帰還判断。


『B1安全行動記録 確認済み』


『第二層単独許可まで 残り二回』


 画面を見て、私は少しだけ息を吐いた。


 あと二回。


 まだB2へは行けない。


 でも、前より近い。


「黄色いヘルメットは、明日には戻りそうですか」


「点検結果が出れば。次に潜る前には、連絡します」


「わかりました」


 今日の買取は、石灰キノコ二個分。


 五百円。


 少ない。


 でも、白いヘルメットを傷つけずに返せた。


 借り物の装備で、借り物の安全に頼りすぎずに帰れた。


 それなら今日は、十分だった。

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