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帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


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13/31

第13話 一人で帰る人を、一人で置かない

生活に金がかかり過ぎてヤバイ


 その日は、学校が終わってからすぐにダンジョンへ向かった。


 管理センターの入口で、朝倉さんに探索者証を見せる。


「今日は東通路の手前だけにします」


「予定は?」


「三十分。十五分で折り返し。採取は小さい袋が半分までです」


 朝倉さんは端末に何かを入力してから、頷いた。


「西通路と旧地上連絡路は、まだ閉鎖扱いです。案内板に従わず、現在の案内図だけを見てください」


「はい」


 昨日もらった紙の地図を、リュックの前ポケットへ入れる。


 今のB1で通っていい範囲には、黄色い線が引かれていた。


 線の外へは行かない。


 今日の目的は、B1安全行動記録をもう一つ増やすこと。


 でも、それより先に帰ること。


 その順番は変わらない。


     ◇


 いつもの壁際に、《帰路設置》を使う。


 白い扉が現れた。


『帰還可能』


『残り時間:五十九分』


 スマホのタイマーを三十分にする。


 黄色いヘルメット。


 短槍。


 発煙筒。


 水。


 救急セット。


 灰色のヘルメットは、リュックの上のほうに入れた。


「欲しい物より、帰る時間」


 私は、入口から東通路へ進んだ。


 最初の十分は、何も起きなかった。


 石灰キノコを一個。


 鉄灰苔を二束。


 昨日、水が出ていた第二分岐は、地図どおりに避ける。


 黄色い線の中だけを歩いていると、通路の先から、靴音が聞こえた。


 誰かが走っている。


 私は壁際へ寄り、短槍を下ろさず待った。


 現れたのは、私より少し年上に見える女の人だった。


 紺色のジャージに、白いヘルメット。


 片方の靴を引きずりながら、こちらへ来る。


「すみません」


 私の前で止まると、女の人は息を切らして言った。


「管理センターへの道、わかりますか」


「わかります。どうしましたか」


「入口の方へ戻っていたら、案内板が出てきて。出口って書いてあったから曲がったら、行き止まりで……戻るときに足をひねりました」


 右足のくるぶしが、少し腫れている。


 歩けないほどではなさそうだ。


 でも、急いで歩いたら悪くなる。


「探索者証はありますか」


「あります。端末も」


 女の人は首から下げた端末を見せた。


 画面には、電波のない印が出ている。


「ここ、通信が切れていて。さっき緊急報告を押したんですけど、送れたかどうかもわからなくて」


 私は自分のスマホを出した。


 管理センターへの緊急報告は、ダンジョン用の中継を使う。


 たぶん、ここなら送れる。


「今、私からも送ります。ここで待ってください」


「でも、帰らないと」


「足をひねっているなら、先にセンターへ伝えたほうがいいです」


 私は緊急報告を開く。


『B1東通路・第三角付近』


『単独探索者一名、右足負傷』


『意識あり・会話可能・歩行は可能だが不安定』


 送信する。


 すぐに返事が来た。


『職員を向かわせます。安全な壁際で待機してください』


「送れました」


 画面を見せると、女の人は少しだけ息を吐いた。


「よかった……。私、入口からそんなに離れてないと思っていたのに」


「案内板、青い板でしたか」


「はい」


「今は、古い案内板が残っているところがあるみたいです。現在の出口じゃないこともあります」


「知らなかったです」


 女の人は、壁に背中をつけて座った。


 私は少し離れた場所に立つ。


 知らない探索者と一緒に潜らない。


 それは、困っている人を見捨てることとは違う。


 今は、職員が来るまで安全な場所で待つ。


 それがたぶん、一番いい。


 灰色のヘルメットが、リュックの中で鳴った。


 かちり。


 私は取り出す。


『帰還導線 安全』


『待機可能』


「これ、何ですか」


 女の人が、灰色のヘルメットを見る。


「古い帰還支援班の装備です。危ない道があると、たまに教えてくれます」


「すごいですね」


「まだ、私にも全部はわかりません」


 便利だからといって、頼り切るのは違う。


 今日は地図を見て、壁際にいて、緊急報告を送った。


 ヘルメットがなくても、やることは変わらない。


 女の人が、少し間を置いてから言った。


「その白い扉、使えばすぐ帰れますか」


 白い扉は、来た道の先にある。


 女の人は、私の能力を知っているわけじゃない。


 でも、さっき入口で見たのかもしれない。


「私だけなら帰れます」


「一緒には」


「試したことがないです。だから、今は使えません」


 誰かを一緒に通す。


 できるかもしれない。


 でも、どこへ出るのか。


 相手に何が起きるのか。


 何も確かめていない。


 怪我をした人で試すことじゃない。


「そっか」


 女の人は、少しだけ笑った。


「当たり前ですよね。変なこと言ってすみません」


「変じゃないです。私も、早く帰れるならそうしたいので」


 ただ、早く帰りたいから、危ない使い方をしてはいけない。


 それは、札を使うときも同じだ。


 私はタイマーを見る。


 残り十四分。


 職員が来るまで、まだ待てる。


 でも、残り五分になったら、私は先に扉へ戻る。


 そう決めて、女の人にも伝えた。


「五分前になっても職員が来なかったら、私は戻ります。でも、その前にもう一度報告します」


「うん。そうしてください」


 その返事を聞いて、少し安心した。


 助けることと、一緒に危なくなることは違う。


 今の私は、そこを間違えないようにする。


     ◇


 タイマーが残り九分になったころ、通路の向こうにライトが見えた。


「管理センターです。動かないでください」


 職員二人と朝倉さんが来る。


 朝倉さんは女の人の足を見て、すぐに簡単な固定具を巻いた。


「捻挫ですね。歩かせず、入口まで運びます」


「すみません。私、出口の案内板を見て」


「旧案内板です。通行範囲外の通路へ入ったことも、地上で確認しましょう」


 怒鳴る声ではない。


 でも、次は同じことをしないようにする声だった。


 女の人は、私のほうを見る。


「助かりました。ありがとう」


「無事に戻れそうでよかったです」


 名前も聞かなかった。


 聞かなくてもいいと思った。


 ここでは、お互い一人で潜る。


 でも、帰るときまで一人で困らなくていい。


 職員たちが入口の方へ向かうのを見送ってから、私は白い扉へ戻った。


 取っ手に触れる。


『帰還可能』


『残り時間:三十五分』


 スマホのタイマーは、残り六分。


 予定どおりだ。


 私は扉を開けた。


     ◇


 地上の休憩スペースで、朝倉さんに今日の記録を確認してもらう。


「危険な案内表示に誘導された探索者を発見。負傷状況を確認して、緊急報告。待機時間を自分で決めて、職員到着後に帰還」


 朝倉さんが端末を閉じた。


「合格です」


「今日も、安全行動記録になりますか」


「なります。ただし、真壁さんが単独で救助した、という記録にはしません」


「はい。救助は、職員の人がしました」


「真壁さんがしたのは、危険を増やさず、救助へ繋げたことです」


 その言葉のほうが、私にはしっくりきた。


 今日の買取は、石灰キノコ一個と鉄灰苔二束。


 六百円。


 それでも、B2単独許可までの安全行動記録は、一つ進んだ。


『第二層単独許可まで 残り四回』


 私は画面を見てから、灰色のヘルメットをリュックへ戻す。


 帰るための扉は、まだ私一人の物だ。


 でも、私が帰るまでの間に、誰かの帰る道を繋ぐことはできる。


 次も、無理をしない。


 それでも、見つけたら報告する。


 そのくらいなら、一人でもできるから。

お盆はいかがお過ごしでしたか?

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