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帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


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12/31

第12話 返却記録は、持ち主の名前だけでは足りない

がんばります

AIが


 月曜日の放課後、私は江東第七ダンジョンの管理センターへ寄った。


 金曜日に回収された、あの金属筒について話があると言われていたからだ。


 装備窓口の奥にある小さな応接室で、朝倉さんが端末を机の上へ置いた。


「記録筒の安全確認と照合が終わりました」


 画面には、黒い文字が並んでいる。


『旧・江東第七ダンジョン帰還支援班』


『B2帰還支援庫 返却対象保留一覧』


 私は、画面の一番下まで目を走らせた。


「父さんの名前は」


「ありません」


 朝倉さんは、はっきり言った。


 少しだけ残念だった。


 でも同時に、よかったとも思った。


 知らない記録を見つけるたびに、父さんのことだと決めつけるのは違う。


「この筒は、父さんの記録じゃないんですね」


「はい。かなり古い、返却対象の一覧です。正確な更新時期は判別できませんでしたが、帰還支援班が使っていた仕組みを知る手がかりにはなりました」


 朝倉さんが、別の画面を開く。


『返却対象 区分』


『A:所有者が判明している物』


『B:管理センターへ返却する物』


『C:施設保全上、移動させてはならない物』


「登録できるなら、何でも登録して持ち帰ればいいわけじゃなかったんですね」


「その通りです」


 朝倉さんは、一覧のCを指した。


「案内板、非常灯、通路の標識。持ち主がいないように見えても、ダンジョンの中で役目を持っている物があります。そういう物まで仮登録すると、かえって危険です」


 青い案内板。


 黒い回収箱。


 壊れたように見えても、あの場所で動いていた物。


 私は頷いた。


「返却先があるか。持ち帰って大丈夫か。自分で持てるか」


「それを順番に確認してください」


「わかりました」


「それから、もう一つ」


 朝倉さんが、画面をスクロールする。


『B2帰還支援庫 状態:閉鎖』


『返却対象は地上窓口へ代替搬送』


「回収箱が記録筒を地上へ運べたのは、この代替返却先が旧い仕組みにも残っていたからでしょう。西通路へ向かわせなかった判断は、正しかったです」


「じゃあ、B2の支援庫は」


「今は、使えません。階段も調査中ですし、立入禁止は変わりません」


 B2へ続く道は、まだ閉じている。


 それなら、今できることをやるしかない。


「今日の探索で、安全記録を一回増やします」


「ええ。ただし、記録を増やすこと自体を目的にしないでください」


「ちゃんと帰るために潜ります」


 朝倉さんは頷いた。


「それなら大丈夫です」


     ◇


 B1へ入ってすぐ、私は《帰路設置》を使った。


 白い扉が壁際に現れる。


『帰還可能』


『残り時間:五十九分』


 スマホのタイマーは三十分。


 今日の目的は、石灰キノコと鉄灰苔を少し採ること。


 それから、東通路の分岐を一つだけ確認すること。


 いつもより奥へ行く予定だけど、タイマーが十五分を切ったら戻る。


 私はスマホのメモに、今日の予定を書き足した。


『十五分で折り返す』


『迷ったら採取をやめる』


 短槍を持ち、歩き始める。


 通路の空気は少し湿っていた。


 西通路の崩落後、東側へ流れてきた地下水が増えているのかもしれない。


 床の端には、細い水の筋ができていた。


 私はその上を踏まないよう、壁側を歩く。


 最初の角で、石灰キノコを二個見つけた。


 次の角で、鉄灰苔を一束。


 袋に入れてから、周囲を見回す。


 何もいない。


 でも、壁の先にある分岐の上だけ、青い非常灯が点いていた。


 普段のB1にはない光だった。


「あれが、Cの物かな」


 近づく。


 非常灯の下には、古い案内板があった。


 文字の半分が剥がれている。


『地上連絡路』


 その下の矢印は、右を向いていた。


 右は、私がまだ通ったことのない細い通路だ。


 出口と書かれている。


 けれど私は、そちらへ入らなかった。


 私の出口は、白い扉だ。


 その扉まで戻る道も、もう決めている。


 知らない通路へ入るなら、入るための時間と地図を用意してからにする。


 今日は違う。


 私は案内板の写真だけを撮り、来た道へ戻ろうとした。


 そのとき、右の通路から、かすかな咳が聞こえた。


「誰か、いますか」


 返事はない。


 もう一度、咳。


 人の声ではなかった。


 空気が、狭い隙間を抜ける音だ。


 ひゅ、と短く鳴っている。


 私は、通路の入口から中をのぞいた。


 奥へ三メートルほど行った場所で、天井から細い水が落ちていた。


 その水が、割れた鉄板に当たって音を出している。


 人はいない。


 でも、通路の床は濡れていた。


 水の流れは、奥からこちらへ向かっている。


 入れば、靴の裏が滑る。


 帰り道にもなる。


 私は中へ入らず、もう一枚写真を撮った。


 地上で報告すればいい。


 その瞬間、リュックの中で灰色のヘルメットが鳴った。


 かちり。


 取り出す。


『帰還導線 湿潤注意』


『迂回を推奨』


「私が来た道も?」


 表示は変わらない。


 私はすぐに、床の水の筋を見る。


 さっきより少しだけ太くなっていた。


 雨が降っているわけでもないのに、水が増えている。


 分岐の奥で何かが詰まって、流れが変わったのかもしれない。


 理由はわからない。


 でも、理由がわからないからこそ、歩いて確かめるべきじゃない。


 スマホを見る。


 タイマーは残り十八分。


 私は採取袋をリュックにしまい、扉へ戻ることにした。


 来た道を、速くはなく、でも止まらず歩く。


 途中の壁際で、黒い回収箱が一体、空のペットボトルを抱えていた。


 私に気づくと、案内板をこちらへ向ける。


『搬送中』


「そっち、濡れてるから気をつけて」


 言ってから、少し変だと思った。


 回収箱に気をつけて、は通じないかもしれない。


 けれど青い文字が切り替わる。


『導線確認』


 黒い箱はペットボトルを抱えたまま、私が通ってきた通路とは反対側へ向かった。


 あれにも、別の安全な道が見えているのかもしれない。


 私は追わない。


 自分の扉へ戻る。


     ◇


 白い扉の前へ着いた。


 取っ手に触れる。


『帰還可能』


『残り時間:四十一分』


 タイマーは残り十二分。


 予定より早い。


 採取袋には、石灰キノコ二個と鉄灰苔一束。


 もう少し探せた。


 でも、出口と書かれた通路も、水の音がする通路も、今日は持ち帰るべき物じゃない。


 私は扉を開けた。


 白い光を抜ける。


 管理センターへ戻ってすぐ、朝倉さんに写真を見せた。


「東通路の第二分岐です。青い非常灯と、古い案内板がありました。右通路から水が流れていて、ヘルメットも迂回推奨を出しました」


 朝倉さんは写真を見て、すぐに職員へ連絡した。


「そこは旧地上連絡路です。現在の出口ではありません。調査を入れます」


「Cの物でしたか」


「案内板も非常灯も、そうですね。よく触らずに戻りました」


 私は、少しだけ胸を張った。


「登録しませんでした」


「その判断も正解です」


 端末に、今日の探索記録を入力してもらう。


 危険表示の確認。


 帰還導線の確保。


 異常の報告。


 そして、帰還判断。


 朝倉さんが画面を見せてくれた。


『B1安全行動記録 確認済み』


『第二層単独許可まで 残り五回』


「一回、増えましたね」


「はい」


 今日の買取は、八百円だった。


 大きな収入ではない。


 でも、B2へ近づくための一回分にはなった。


 私は明細を財布へ入れる。


 父さんのことが書かれていない記録筒もあった。


 出口と書かれていても、出口ではない通路もあった。


 だから、見つけた物にすぐ答えを求めない。


 確認して、選んで、帰る。


 その繰り返しの先に、私が行ける場所が増えていく。


 それでいい。


 次もまた、B1から始めようと思った。

最近、自分で書いた方が面白いんじゃ無いか?って思い始めていて

その内、日の目を浴びるかもしれない。

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