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帰還だけが取り柄の女子高生、ダンジョンで稼ぐ  作者: 愚者さま


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第11話 返却先のない物は、登録しない

ログイン、できなくって

何で??ってなってました。


 次の土曜日、江東第七ダンジョンの入口に、B2へ続く階段が見えていた。


 前からあったものじゃない。


 B1西通路の床が崩れたあと、管理局の人が壁を壊して見つけたらしい。


 太い鉄柵の向こうに、下へ降りるコンクリートの階段がある。


 踊り場の先は暗くて見えない。


 鉄柵には、大きな札が下がっていた。


『旧・帰還支援庫連絡階段』


『調査中 立入禁止』


 私は、少し離れたところで立ち止まった。


 B2。


 父さんがいたかもしれない、帰還支援庫。


 灰色のヘルメットを持っていれば、あの下へ行ける気がしてしまう。


 でも、柵は閉まっている。


 今の私には、B2単独許可もない。


「入らないんですか」


 朝倉さんが、後ろから声をかけた。


「入れません」


「そうですね」


 すぐに答えたのに、朝倉さんは私の横へ並んだ。


「階段が見つかったのは昨日です。下層へ通じているかも、まだわかっていません。床が崩れた原因も調査中です」


「帰還支援庫は、B2にあったんですよね」


「記録上は。ただ、この階段がそこへ続くとは限りません」


 期待しすぎないように言ってくれている。


 私は鉄柵の隙間から、もう一度階段を見た。


 下へ行けば、何かがあるかもしれない。


 けれど、それは今日の私が取りに行っていい物じゃない。


「B2単独許可って、どうすれば取れますか」


 朝倉さんは少しだけ驚いた顔をした。


「興味が出ましたか」


「……はい。でも、この階段のためだけじゃないです」


 自分でも、言いながら確かめる。


 B2へ行きたい。


 父さんのことを知りたい気持ちは、もちろんある。


 でも、あの柵の向こうにあるかもしれない物を拾うためだけに、許可を取りたいわけじゃない。


 自分で潜れる場所を、少しずつ増やしたい。


 帰れると判断できる範囲を、広げたい。


「B1での安全行動記録が十回分。それから、基礎実技の確認です」


 朝倉さんが端末を見せてくれる。


『第二層単独許可 確認項目』


『危険表示の判別』


『帰還導線の確保』


『遭遇時の離脱』


『帰還判断』


「戦って倒す試験じゃないんですか」


「B2に一人で入るための許可ですから。帰るための確認が中心です」


 私は、画面の最後の文字を見る。


 帰還判断。


 それなら、今までやってきたことも無駄じゃない。


「十回、ちゃんと潜ればいいんですね」


「ただし、短く潜って数を稼ぐのは駄目です。記録を見るので」


「それもそうですよね」


 朝倉さんは少し笑った。


「真壁さんは、あと六回です。急がずいきましょう」


「はい」


     ◇


 今日はB1東通路だけにする。


 西通路には近づかない。


 私はいつもの壁際に《帰路設置》を使った。


 白い扉が現れる。


『帰還可能』


『残り時間:五十九分』


 スマホのタイマーは三十分。


 短槍。


 水。


 発煙筒。


 救急セット。


 黄色いヘルメット。


 灰色のヘルメット。


 今日は、採取袋を小さいものにした。


 持ち帰れる量だけ。


「欲しい物より、帰る時間」


 言ってから歩き出す。


 東通路の奥で、石灰キノコを三個見つけた。


 鉄灰苔は一束だけ。


 今日は、採取の調子がいい。


 採取袋が半分埋まったところで、灰色のヘルメットが鳴った。


 かちり。


「また、帰還導線の異常?」


 取り出す。


 けれど、浮かんだ文字は前とは違った。


『搬送対象 接近』


『登録者なし』


 私は周囲を見回した。


 通路には、何もない。


 すぐあとに、金属が床を引っかく音がした。


 から、から、からん。


 暗がりから、黒い回収箱が出てくる。


 子犬くらいの黒い箱。


 割れた青い案内板を背負い、四本の細い脚で床を歩く。


 今日は、何かを抱えていた。


 白い布に包まれた、小さな金属の筒。


 大人の手のひらくらいの大きさだ。


 布の端には、三本の階段の印が縫い付けられている。


 灰色のヘルメットと同じ印だった。


 黒い回収箱の案内板に、青い文字が浮かんだ。


『返却先不明』


『搬送先 不通』


「帰還支援班の物?」


 回収箱は答えない。


 けれど金属の筒を抱え直し、B1西通路の方角へ向こうとした。


 あの先には、調査中の階段がある。


 床が崩れて、通れなくなった道がある。


 搬送先が不通なら、回収箱はどこへ行くつもりなんだろう。


 私は一歩だけ近づいた。


 ヘルメットの内側に、新しい文字が浮かぶ。


『携行品仮登録 可能』


『対象:帰還支援用記録筒』


『登録可能数:一件』


 手を伸ばせばいい。


 登録すれば、私が地上まで持って帰れる。


 中に父さんの記録が入っているかもしれない。


 名前が書いてあるかもしれない。


 B2へ行く前に、答えを一つ手に入れられるかもしれない。


 黒い回収箱が、一歩進んだ。


 私は短槍を握り直す。


 登録すれば、これは私の携行品になる。


 途中で置けない。


 回収箱から奪うことにもなる。


 それに。


 中身も、危険かどうかもわからない物を、父さんに関係があるかもしれないというだけで持つのは。


 欲しい物より、帰る時間。


 その言葉と、少し違う。


「それは、私の物じゃない」


 私はヘルメットを下ろした。


 登録はしない。


 代わりに、黒い回収箱の進む方向へ立った。


「でも、崩れたところには行かせない」


 回収箱の板に文字が浮かぶ。


『搬送先 不通』


『搬送継続』


 黒い箱が、私の足元を回り込もうとした。


 私は横へ動いて、進路を塞ぐ。


 襲ってくるなら、逃げる。


 でも回収箱は、私の短槍を見て止まった。


 青い文字が何度か切り替わる。


『搬送先』


『不通』


『――』


 そのとき、灰色のヘルメットが熱くなった。


『地上窓口 代替返却先』


『案内を推奨』


「地上?」


 私は白い扉のある方向を見る。


 回収箱が、その方向を向いた。


 案内板の文字が変わる。


『返却先候補』


『確認中』


「ついて来るの?」


 黒い箱は答えず、白い布の筒を抱えたまま、私の後ろを歩き始めた。


 私はすぐにタイマーを見た。


 残り十七分。


 採取は終わり。


 ここから扉までなら、十分で戻れる。


 でも、回収箱が途中で変な道へ行こうとしたら。


 私は立ち止まり、灰色のヘルメットを見る。


「この子を、扉のところまで連れていけばいい?」


『地上窓口 代替返却先』


 同じ文字が、もう一度浮かんだ。


 私は頷いた。


「じゃあ、一緒に帰ろう」


     ◇


 黒い回収箱は、意外なほど素直だった。


 私が歩けば後ろをついてくる。


 角で止まれば、同じように止まる。


 途中、壁際に空のペットボトルが落ちているのを見つけると、回収箱はそちらへ寄りかけた。


 けれど抱えている金属筒を見て、青い文字を出す。


『搬送優先』


 そのまま、私の後ろへ戻ってきた。


 自分で決めたわけではないんだろう。


 決められた順番を、ずっと守っているだけだ。


 それなのに、搬送先だけがなくなっている。


 少しだけ、かわいそうだと思った。


 白い扉の前へ着く。


 取っ手に触れる。


『帰還可能』


『残り時間:四十一分』


 回収箱は、扉の前で止まった。


 青い案内板に文字が出る。


『通行権限なし』


「一緒には、通れないんだ」


 扉は私を帰すための物だ。


 回収箱まで連れていくことはできない。


 それでも、ここまで来れば管理センターは近い。


 私は扉を開かなかった。


 代わりに、スマホの緊急報告を開く。


『B1東通路・回収系魔物の搬送対象を確認』


『旧・帰還支援班の印あり』


『西通路ではなく、入口方向へ誘導中』


 送信する。


 少しして、管理センターから返事が来た。


『現在地を維持してください。職員が向かいます』


 私は扉の前に立ったまま、回収箱と一緒に待った。


 待つ間にも、タイマーは動く。


 残り九分。


 まだ帰れる。


 でも、職員が来なければ、私は扉を開ける。


 そのときは、回収箱を置いて帰る。


 助けたいからといって、自分が帰れなくなるまで待たない。


 それも、もう決めている。


 残り六分になったところで、通路の向こうからライトが見えた。


「真壁さん!」


 朝倉さんと、管理局の職員二人が走ってくる。


 職員の一人が、白い布の金属筒を見て息をのんだ。


「これは……旧支援班の記録筒です」


「返却先がなくて、回収箱が西通路へ運ぼうとしていました」


「こちらで引き取ります。よく、西へ行かせませんでしたね」


 職員が回収箱へ小さな端末をかざす。


 案内板の文字が変わった。


『代替返却先 確認』


『搬送完了』


 黒い回収箱は、金属筒を床へそっと置いた。


 それから私を見上げるように、案内板を傾ける。


 青い文字が一度だけ点く。


『回収保留 解除』


 次の瞬間、黒い箱は細い脚で壁を登り、天井近くの暗がりへ消えていった。


 朝倉さんが、私のタイマーを見る。


「残り五分ですね」


「帰ります」


「はい。今度は、真壁さんだけで」


 私は白い扉を開けた。


 今日は、金属筒を持ち帰らなかった。


 父さんに関係するかもしれない物を、手放した。


 でも、置き去りにはしなかった。


 正しい人に渡る場所まで、帰すことができた。


     ◇


 地上に戻ってから、朝倉さんは記録筒の中身をすぐには見せなかった。


「安全確認と、記録の照合が先です」


「わかっています」


 見たい。


 けれど、今すぐ開けてほしいとは言わなかった。


 代わりに、朝倉さんが一枚の申請書を出してくれる。


『第二層単独許可 基礎実技確認 申込書』


「B1での記録があと六回。実技を受けられるのは、そのあとです」


「急がず、ですね」


「急がずです」


 私は申請書を受け取った。


 B2は、まだ遠い。


 父さんの記録筒の中身も、まだわからない。


 それでも、行くための道は見えた。


 拾ったからではない。


 持ち帰れるかを考えて、持ち帰らなかったから。


 私は、次に潜る日を決める。


 B2へ行くために。


 その前に、今日もちゃんと帰れる探索者になるために。

アニメ呪術廻戦って戦闘中の音楽がすごくいいよね

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