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5.察さない男

疑わしいく思いつつも、アミエットは踵を返す。店を出て石畳の上を歩き始めーー


「 ねぇ、ついてこないでって言ったはずなんだけど?」


こっそりつけてくるわけでもなく、堂々と隣を歩いている男を見上げて、アミエットは眉を寄せる。


「 ついて行っているのではなく、私の家もこちらなんです。…反対から帰れば満足でしたか?」


「……ふうん? 」


「 それに、こうして二人で歩いていれば恋人に間違われーー」


「殴るわよ? 」


手のひらを拳にして、そのまま軽くクライドの肩口に当てた。


「そういう薄気味悪い冗談は大概にして 」


「そうですか?夜道ではそれなりに効率的だと思いますが 」


「 ーー何か利点でもあるの?」


平然とブルーグレーの瞳をしばたかせたクライドは、頬に手を当てて小首を傾げた。


「いろいろありますよ。例えば、女性の一人歩きは暴漢痴漢強盗…さまざまな危険がありますが、男である恋人がいればそれなりに手は出しづらいでしょう?」


「 あなた、私を舐めてる?暴漢痴漢程度、私が倒せないわけないでしょ」


「 貴女はやってくる敵を毎度毎度ご丁寧に倒す趣味でもあるわけですね。まず襲われないのが一番楽、というのが善良な一般市民の総意ですよ」


あまりに最もな意見に、思わず面食らう。


「……確かにその通りね 」


そう言えば、クライドは呆れたような顔をしながらアミエットを見下ろした。


「 そうでしょう?貴女は非効率的なうえに、直情的すぎるんです。…お陰で非言語行動がとても読みやすいですが」


「その最後のひと言が最高に余計ね !」


しばらく町並みを歩いて、アミエットは足を止める。4階建てのアパート。古い造りだが、中はそれなりに頑丈だ。


「 ーーまだこちらに住んでいたんですか?」


少しだけ、驚いた様子でクライドが目を瞬く。


「 そうよ。まさか、家を知ったからって押しかけてこないでよね」


「… そんなことはしませんよ」


いかにも悲しげな表情でクライドが首を振る。騙されてはいけない。これがクライドの常套手段だ。


「訓練生時代からこちらに住んでいたでしょう。貴女の給料であれば、もっと良いところにも住めるのでは? 」


クライドの顔は心底不思議そうで、心臓が激しく蠢いた。違う。この男は何も分かっていないだけだ。ブルーグレーの瞳を見ていられなくなって、視線をそらす。


「 いいでしょ、別に。ここが気に入ってるんだから」


こういう時に、この男はアミエットの感情を読もうとしないから嫌いだ。さっさと察して出ていってくれればいいのに。


「 ーー?悲しみ……」


「 …もう、観察しないでって言ってるでしょ」


「 …何かご不快なことがありましたか?それでしたらすぐに謝罪をーー」


「 結構よ、早く帰って」


強い口調で言えば、クライドは困惑したように眉を下げた。この男の脳内ではアミエットの非言語行動とやらを懸命に読み取っているのだろうが。


「 私の過去をほじくり返して楽しい?違うんならさっさと帰って。誰にでも知られたくない気持ちくらいあるでしょ?」


「 ……分かりました」


早く帰れ、という意味を込めて手を払う仕草をする。


「 …その、」


階段に足をかけたアミエットに、クライドの声がかかる。


「何? 」


「今日はゆっくり休んでください。貴女は疲労状態にあって、精神も疲労している。十分な休養と睡眠をお勧めします 」


それだけ言うと、彼は曖昧な笑みを浮かべ、アミエットと歩んできたはずの道を引き返していく。


(やっぱり、家こっちじゃなかったんじゃない… )



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