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4.悪い男Ⅲ

「 ーーー!」


激しい銃声。銃口からはうっすらと煙が上がっている。


「あー…くっそ、美人に撃たれるなんてなかなかねぇ経験だったわ、なんか新たな扉が開きそうだ 」


アミエットが構えた銃口の先には、首筋を押さえたレオンが肩で息をしていた。


「 怖ぇーな、薄皮三枚程度剥くように撃つとか、可愛いお嬢さん、あんたバケモンかよ?」


レオンがこちらに向けて見せた笑みは先ほどの獰猛さは既になく、親しげにこちらを見ている。


「 ……薄皮三枚?貴女にしては消極的でしたね」


「 なに?手元が狂ったって馬鹿にしたいの?最初からそれくらいを狙ってたもの!」


クライドの言葉に苛立ちとともに返す。

こちらを見下ろしてクライドは首を傾げ、それから銃をこちらに差し出してくる。


「 〈ちょっと 〉だけ借りましたよ」


「 …今日だけは許してあげる」


その銃を受け取ると、長身の彼を見上げるように睨みつけておく。


「いいじゃない、素敵な腕ね。二人とも 」


テスがゆっくりと歩み寄ってくる。


浮かべた笑みは楽しげだ。アミエットは慌てて彼女から借りていた銃を返す。受け取ったテスは、未だ肩で息をするレオンの前へとゆっくりと歩み寄った。


「 この子はレオン。レオン=バーンズ。26だからーー君と同い年ね、クライド」


「ーーそれは光栄です。ぜひ仲良くしてください」


「 ふざけんな、野郎と同い年でもなんも楽しくねぇ…」


そこでテスが何かを思いついたように笑う。


「 ああそうだ、すごくいいことを思いついたわ。このお二人さんは新人だし、バディならすごく優秀。でも現場をまだ知らないからーー君が先輩として引っ張ってあげたら、レオン?」


「 はぁ?ふざけんなーー」


「 つまり、レオンとクライドと…それからアミエットで三人セットで行動してもらいましょう」


「 はぁあああ!?」


素っ頓狂な声を上げたのはレオンだ。お陰でアミエットが上げた驚愕の声が掻き消されたので、内心感謝する。


「 いや、ざけんな。俺は女の子となら組むが、男は御免だ」


「 女の子、いるじゃない」


テスが誂うようにアミエットを指差す。


「 アミちゃんと二人っきりならもちろん喜んでだけど、野郎が混ざるなんて聞いてねぇ。それにこんな顔だけ野郎はもっとごめんだ」


「 顔だけ野郎?心外ですね。まだ酒の夢の中にいるのでしょうか。私のことをちゃんと把握なさっていないようだ」


「 はぁ?お前、自分が天才だって言いたいのか、エリート野郎」


「 まさかそんな…事実ですから」


突っかかっていくレオンに、クライドは穏やかに笑みを返す。ぐしゃりと髪をかき混ぜたレオンは疲れた様子でソファに腰を落とす。


「 あー!かったりぃ…俺に男と語ってる時間はねぇんだよ、可愛い子をよこせ」


と、側に立っていたアミエットは、レオンに腕を引かれてそのままソファに倒れ込む。腰を抱いている力は意外にも優しく、近づいた拍子に酒の香りが強く香った。


「 …ちょっと、」


「 俺はレオン。レオン=バーンズだ。よろしくな、アミちゃん」


今までの態度が嘘みたいに甘い。バーガンディの瞳にはアミエットしか映っていない。


「ちょっと、離してください 」


「 やだなぁ、そんな他人行儀に…もっと気楽にいいのに」


迫ってくるほんのりと赤い顔。

アミエットの中で、何かがぷっつんと切れる音がした。


「 ーーそれではお言葉に甘えてっ!」


アミエットは思いっきり頬を叩いた。


「 ーーいっっー〜〜〜てぇ!!!」


レオンが大きく仰け反る。何をしようとしていたのか、アミエットとレオンを遮るように伸ばされたクライドの腕が、行き場を失ったように落ちる。


「 …なるほど、私の助けは要らなかったようですね。流石、貴女です」


「 褒めてもなにも出ないわよ?」


「 まさか、そんなものを期待しているつもりはありません。」


クライドは頬を押さえるレオンを覗き込むと、痛ましげに眉を寄せて、それから穏やかに微笑んだ。


「あぁ、可哀想に。結構腫れていますが、すぐに治るといいですね 」


「 …てめぇ…」


それからクライドはアミエットに向き直ると、どういうわけか手を差し出してくる。


「 ーーなんのつもり?」


「 …エスコートですよ。立てますか?」


その手を軽く払って、アミエットは立ち上がる。


「 エスコートなんていらないわ」


「 申し訳ありません、チェイスさん」


ブルーグレーの瞳はやはり笑みを浮かべている。


「 君たちも、もう帰っていいわよ。明日の朝にまた指示を出すから。気をつけて帰りなさい。」


テスが軽く手を振る。

レオンはまだその場に座っていて、立ち上がる気配はない。


「 ーーついてこないでよ?」


「 はい、勿論」


にこやかな笑み。


疑わしいく思いつつも、アミエットは踵を返す。店を出て石畳の上を歩き始めーー


「 ねぇ、ついてこないでって言ったはずなんだけど?」

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