第3章―5
「こりゃあ、ひどい」
責められているような気がした。身を守るため、危害を被る可能性をただひたすらに排除していったにすぎないのに。
――そりゃあ念には念を入れすぎたかもしれないけどさ……。
命には代えられないだろう。
盗賊たちには盗賊の、彼らなりの美学があるのだろうが――。
「探索の魔法で、仕掛けがありそうな場所を壊して進んでいったんだ……」
なんて不細工なやり方だろうとマリルは思った。ギルドの連中を認めるつもりはないが――もはや奴らは敵以外の何者でもない――それでも自分の身につけた盗賊のスキルが馬鹿にされているような気持ちになったのだ。
「だけど、取りこぼしている罠もあってね……」
「そうだね……あんたの右足、あと半歩、横にずらしてごらん。きっと愉快なことが起こるだろうよ」
「え……?」
ソラは思わず後ずさる。考えるよりも早く体が動いてしまっていた。先ほどまで踏んでいた場所をじっと見つめる。通路は不揃いの石材が敷きつめられた石畳になっていた。自分が踏みつけていた石とその隣に配置されている石とはいったい何が違うというのだろうか。
「魔法では何も分からないんだけどな……」
「薄い板状の部品か……それともワイヤーが張ってあるのかもしれない。それで離れたところにある罠を作動させるのさ」
ちょいちょいとマリルが手招きする。ソラは彼女の側まで退避した。
「ほら、剣を飛ばして、あの石を叩いてみなよ」
ソラは言われるままにミスリルの短剣を飛翔させた。目標の床石に真上からスイッチを押すように垂直落下させる。剣の先端が石にふれる。次の瞬間、
――ぶしゅっ!
すぐ側の壁から、液体が噴き出した。人が立っていれば、ちょうど顔の高さを狙っていたに違いない。液体は床に散らばり、しゅうしゅうと白い煙と鼻をつく刺激臭をふき上げた。
「酸だね。皮膚を焼かれるよ……」
ぞっとした。
――ここって何度も通っていた場所だぞ……。
運が良かっただけなんだと、そのとき心底ソラは理解させられた。
――力を過信しちゃダメだ……。
ある程度のことなら一人でも大丈夫だと、自分に自信が持てるようにはなっていた。それでも慎重に、謙虚に、との姿勢は崩してはいなかったはずだ。自惚れていたとは思いたくはない。
「罠をどうしていったらいい? 今みたいに遠くから罠を作動させてみる? それとも一つ一つ解除していく?」
どうすべきか見当もつかず、畳みかけるようにソラは質問をくり出した。
「そんなことしてちゃ、いくら時間があっても足りやしないよ。あんたの魔法とあたいの目で罠を見つけて、起動させるポイントに印をつけていくんだ。それが一番手っ取り早くて確実さ」
すぐにソラは返事を返してこなかった。
「まさか、念のためにやっぱり壊そうよ、なんて思ってないよね――」
気持ちを見透かされているみたいだった。マリルから指摘された瞬間、ソラはもうすっかり観念したのだった。
「分かった……マリルに従うよ」
少し拍子抜けだった。
「いいのかい、それで? 不安なんじゃないの?」
「そりゃ、不安は不安だけど……。でも、罠に関してはマリルの方が専門家だろう。だから、信じるよ――」
信頼されて嬉しくないはずがない。だが一方で、なぜか腹も立つ。
――甘すぎるんだよ……。
罠を残すのには、実はもう一つ理由があったのだ。
――万が一のときは……。
つまり、この遺跡からも、ソラからもおさらばすることになったときには――そうならざるをえない事態が起こったならば――。
――使わしてもらう……。
たやすく他人を信じたことを、そのとき、この青年は後悔することになるだろう。




