表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
結婚式編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/211

第44話 永遠の愛を誓う

 ヴァゼル大聖堂を象徴するステンドグラスからは明るい陽の光が降り注ぐ。

 女神ミュゼリアの像も照らされてキラキラと輝いている。

 祭壇の前に立つのは、純白のタキシードを着たアルフレッド。さらさらの金色の髪は一つに結び、海色の瞳には緊張が浮かんでいる。

 素顔を晒し、人々の注目の的になるのはまだ慣れていないのだ。

 アルフレッドは、ハンカチーフの代わりに胸ポケットに入れた包帯にそっと触れる。


(大丈夫だ。何も心配することはない)


 バクバクとうるさい心臓を落ち着けると、クルフェルト楽団による演奏が耳に届く。

 幸せに満ちた明るいメロディーは、結婚式の入場曲だ。

 ヴァゼル大聖堂の大きな扉が開き、淡い光の中から純白の天使が現れる。

 プリンセスラインのドレスには繊細なレースがあしらわれ、光を受けると細かなダイヤモンドがきらめく。

 胸元の花模様の装飾が、花嫁の可憐さを引き立たせる。

 華奢な鎖骨から腕はレースに包まれ、その手にはスズランと白薔薇のブーケ。

 ヴェールに覆われた花嫁の表情は見えないが、隣に立つ父クルフェルト伯爵の顔はすでに涙でぐちゃぐちゃだった。

 一歩一歩、花嫁と父親がバージンロードを進んでいく。

 だんだんと自分のもとへと近づいてくる花嫁に見惚れて、花婿であるアルフレッドは思考が停止していた。


(……なんて美しいんだ)


 王都一の「オリディア」が手掛けたウェディングドレスだけあって、シエラの魅力を最大限引き出してくれている。

 シエラのウェディングドレス姿は結婚式当日まで秘密だと言われ、今初めて目にした。

 とんでもない破壊力だ。


「アルフレッド様……?」


 固まっていると、もう目の前に花嫁が立っていた。

 ヴェール越しに上目遣いで見つめられ、ドキッとしてしまう。


「あ、あまりにシエラが綺麗すぎて……頭が真っ白になった」

「ふふ。アルフレッド様もとっても素敵です。でも、式はまだ始まったばかりですよ?」

「あぁ、そうだな」


 こんなにも美しい花嫁が傍にいて、心臓が持つだろうか。

 結婚式どころではなくなりそうだ。

 だが、今日という特別な日のためにこれまで心を込めて準備してきたのだ。

 集中しなければ。アルフレッドは気を引き締める。


「娘を頼むよ」


 そう言って、レガートは涙目で力強くアルフレッドの手を握った。


「はい……! お任せください」


 レガートの腕に添えられていたシエラの手が、アルフレッドへと移る。

 ここから祭壇までの道は、二人で歩む。

 一歩、足を踏み出す度にこれまでの思い出が頭をよぎる。

 初めて出会った時、【包帯公爵】を恐れて逃げ帰ると思っていた花嫁は、笑顔でアルフレッドに好意を伝えてくれた。

 そんな彼女からの真っすぐな愛に、幸せを遠ざけ、一人で不幸を背負っていたアルフレッドの心は動いたのだ。

 まさか呪いを受けた十年前、出会った少女だとは気づかずに、惹かれていった。

 〈呪われし森〉で視力を失ったシエラと、姿を失ったアルフレッド。

 それからずっと、魔女からもらった包帯で透明な体を隠していた。

 宿敵マーディアルとの最悪の再会を経て、愛を確かめ合った時、奇跡が起きた。

 アルフレッドとシエラの呪いが解けたのだ。

 互いの姿を知らないまま恋に落ちた二人は、その時初めて愛する人と見つめ合った。


(あの時よりも、今の方がシエラを想う気持ちは増している)


 ふと参列席に目を向けると、ロナティア王国から参列してくれたイザベラとエドワードがこちらに笑顔を向けているのが見えた。

 ロナティア王国への新婚旅行では、新しい出会いと様々な問題が起きた。

 イザベラの策略により、シエラが記憶喪失になったかと思えば、ヴァンゼール王国との友好関係に亀裂が入りそうになった。

 そして何よりイザベラの前世が魔女だという衝撃の事実も発覚。

 シエラは愛の力でアルフレッドの記憶を取り戻し、イザベラのことも許した。

 今ではシエラとイザベラは仲のいい友人同士だ。

 それに、イザベラの協力がなければ、魔女の呪いは解けなかっただろう。

 また一歩進むと、祭壇はもう目の前だ。

 最前列にはクリストフをはじめとした王族が座っている。

 すでにクリストフの目には涙が浮かんでいた。

 まさか少年だった頃の約束通り、第一王子であるクリストフの側近になれるとは思わなかった。

 顔を合わせづらくて避けていたアルフレッドに、クリストフは何事もなかったように会いに来てくれた。

 クリストフが〈呪われし森〉の呪いを解こうとしていたことには驚いたが、呪いの浸食から国を守ることができたのは彼の行動力があったからだ。

 最後の一歩を踏み出し、祭壇の前で立ち止まる。

 隣を見れば、アルフレッドの人生に希望の光をくれたシエラがいる。

 それだけで心が満たされる。


(あぁ、幸せだ)


 じっとシエラに見惚れていると、コホンと咳払いが前方から聞こえた。

 司祭の衣装を着て、祭壇に立っているのは国王ザイラックだ。

 ハッとして前を向くと、音楽が鳴りやむ。

 ニヤニヤとザイラックの口元が緩んでいた。

 絶対にシエラに見惚れていたのだとバレている。

 しかしすぐに真面目な顔をして口を開く。

 ザイラックの背後には女神ミュゼリアの彫像がある。

 さすがに女神像の前でいつものような冗談は口にできないのだろう。


「新郎アルフレッドは、ここにいるシエラを生涯の妻とし、病める時も、健やかなる時も、困難や災難にみまわれた時も、愛を忘れず、ともに支え合い、慈しみ、愛することを誓いますか」


 ザイラックの声は落ち着いた優しい声だった。

 ずっと、アルフレッドを見守り、支えてくれた。

 元々高位貴族の婚姻には国王が立ち会うことになっており、これも慣例のひとつだが、父の親友であるザイラックに司祭をしてもらえるのはやはり特別なものを感じる。


「はい、誓います」


 アルフレッドは隣にいるシエラを見つめて、噛み締めながら誓う。


「新婦シエラは、ここにいるアルフレッドを生涯の夫とし、病める時も、健やかなる時も、困難や災難にみまわれた時も、愛を忘れず、ともに支え合い、慈しみ、愛することを誓いますか」

「はい、誓います」


 涙でうるんだ虹色の瞳がまっすぐアルフレッドへと向けて、シエラはにっこりと微笑んだ。


「では、夫婦の証となる指輪をここへ」


 ザイラックの言葉を受けて結婚指輪を持ってきたのは、シエラの姉ベルリアだ。


「二人の未来に幸せが溢れますように」

「ありがとうございます」


 ベルリアによって運ばれた結婚指輪を手に取り、シエラの左手をそっと持ち上げる。

 ウィリーナ海岸のあの日よりももっと特別な気持ちで、ゆっくりとシエラの薬指に指輪をはめた。

 陶器のようになめらかで美しい手に、自分の瞳の色が輝いている。

 そして、シエラもまた同じようにアルフレッドの左手の薬指に指輪をはめる。

 まるでそこにあるのが当然のように、指輪の存在は指になじむ。


「では最後に、誓いのキスを」


 二人の指に指輪が輝いたのを確認して、ザイラックが言った。

 ヴェール越しにシエラと目が合い、心臓が跳ねる。


(か、可愛すぎる……!)


 妻の可愛さに内心悶えながらも、アルフレッドはそっとヴェールに触れた。

 一生に一度の結婚式。失敗は許されない。

 ゴードン相手に練習していたように、アルフレッドはゆっくりとヴェールを上げる。


「シエラ、本当に綺麗だ」


 ヴェールに隠されていたシエラの顔があらわになり、アルフレッドは多くの人に見られていることも忘れて思わずこぼしていた。

 化粧や装飾品ではなく、心の底から幸せそうに微笑むシエラが愛おしくて、とても美しい。


「シエラ、愛している」

「アルフレッド様、愛しています」


 華奢な両肩に手を添えて、可憐な唇に自分のそれを優しく重ねる。

 この愛は、永遠に変わらない。

 愛の誓いを込めて、キスを交わした。


「ここに二人を夫婦として認める。アルフレッド、シエラ、結婚おめでとう!」


 ザイラックの言葉を合図に、参列席からも祝福の言葉と拍手が送られる。


「女神ミュゼリアの祝福があらんことを!」

「おめでとうございます!」

「どうかお幸せに!」


 退場するアルフレッドとシエラのために、皆が色とりどりの花びらで祝福してくれる。

 それだけではなく、ヴァゼル大聖堂の空からは愛を象徴する花が降ってきた。

 女神像から、『おめでとう』という声が聞こえた気がした。

 ハッと振り返るが、女神像に変化はない。

 しかしシエラもまた女神像を見つめていた。

 二人で目を合わせ、微笑む。

 自分たちの愛という芸術を、女神ミュゼリアは見守ってくれている。

 再び前を向けば、そこには泣き笑いの表情を見せるザイラックに、号泣しているレガート。

 ベルリアとトマスはレガートの分も笑顔で花びらを投げてくれていた。

 意外にも大泣きしているクリストフをイザベラがなだめている様子に、くすりと笑みがこぼれる。

 モーリッツは晴れ晴れとした表情でフラワーシャワーに参加していた。

 メリーナとゴードン、ジェシーとオリバーは後方から拍手を送っている。

 ゴードンはハンカチで涙を拭いながら、「おめでとうございます」と何度も口にしていた。

 メリーナも、シエラの幸せそうな姿を見て感極まっている。

 そして、ハリスをはじめとしたベスキュレー家の職人たちに、リーベルトの領民たち。

 これまで関わってきた大切な人たちから祝われ、胸が熱くなる。


(父上、母上、グリエラ……見ていますか? 私はこれからもシエラと一緒に幸せに生きていきます)


 皆の祝福を浴びながら、アルフレッドはシエラとともに歩んでいく。

 十年前の自分が想像もしていなかった、明るくて、幸せな未来へと。


大変お待たせいたしました。

「結婚式編」と名付けておきながら、ここに至るまでが長くて本当に読者の皆様にはやきもきさせてしまいましたよね……。

ですがようやく、二人は結婚式を挙げることができました!!

次回、エピローグの予定です。どうか最後まで見守っていてください。


※※※

小説版「包帯公爵の結婚事情」2巻発売中です!!

二人の新婚旅行編が書籍でお楽しみいただけます。

加筆修正&書下ろし番外編もありますので、WEB版読者の方にもお楽しみいただけるかと思います。

何と言ってもイザベラやエドワード、モーリッツが挿絵で登場しますので、ぜひご覧いただきたいです。

そして表紙の二人がとっても素敵で……!

応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ