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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
結婚式編

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208/211

第43話 結婚式前夜


 結婚式前日、シエラはクルフェルト伯爵家にいた。

 すでに季節は花が咲き誇る春。

 今日まで結婚式の準備で忙しく過ごしていたら、あっという間だった。

 実家にいるのは、家族団らんの時間をというアルフレッドからの配慮だ。

 懐かしいクルフェルト家の食堂で、シエラは家族と食卓を囲む。


「なんだかシエラを二度嫁にやるような気分だよ」


 少し不貞腐れたようにこぼすのは、父レガートだ。

 赤ワインを片手に、ちょっぴり涙目で唇をとがらせている。


「ふふ。そんなことを言いながら、お父様はもう認めているじゃない」


 と、姉ベルリアが笑顔を浮かべる。

 その視線の先にいるのは、シエラの愛する夫アルフレッドだ。

 最初、アルフレッドは遠慮していたが、もう家族の一員だろうと父が引き留めたのだ。

 今の彼は、包帯を巻いていない。


(アルフレッド様がわたしの大切な家族に心を開いてくれているようで、嬉しいわ)


 緊張はしているだろうが、彼はシエラの家族を大切に思ってくれている。

 それが伝わっているからこそ、もう家族の誰もアルフレッドとの結婚に反対したりしない。


「お義父様、私を家族の一員と認めてくださり、本当にありがとうございます」


 アルフレッドが礼儀正しく頭を下げるものだから、父はますます焦る。


「そ、それは当然だろう。君はシエラの夫なのだから。さっきのは少し冗談を言ってみただけだよ」

「お父様が言うと、冗談かどうか分かりにくいですわ」


 娘を溺愛している父は、旦那様に少しだけ意地悪だ。

 愛情の裏返しだと分かっているけれど、今日は結婚式前夜である。

 アルフレッドが不安になったらどうしてくれるのだ。


「シエラまでそんなことを言わないでおくれよ。明日、シエラとバージンロードを歩くことを想像しただけで泣けてくるんだ」

「もう、お父様……そんなことを言われたら、わたしも」


 父と娘、二人して涙目になる。


「う、うぅ……本当に、結婚してしまうんだな」

「二人はとっくにもう結婚してるわよ。でもお父様、私の時はそんなこと言わなかったじゃない。ねぇ、トマス?」


 ベルリアの隣に座っているのは、夫のトマスだ。

 赤茶色の長髪を一つに結び、ベルリアを優しく見つめる瞳は青色。

 ひょろりとした見た目ではあるが、頼りなさは感じない。

 ベルリアはシエラの結婚式のために隣国のリーティアから夫とともに帰ってきてくれたのだ。


「僕たちの時だって、お父様は涙で前が見えなかったと言っていたよ?」


 トマスの言葉を聞いて、ベルリアは首をかしげる。


「あら、そうだったかしら? でも、今は涙を流すよりも娘が二人とも素敵な旦那様に出会えたことを喜ぶべきよ。私も、シエラが幸せそうで、とても嬉しいもの」

「お姉様……! ありがとう。わたしも、お姉様がトマスさんと幸せそうで嬉しいわ」


 ベルリアに優しく微笑みかけられ、シエラの涙腺はまた緩んでしまう。

 そんなシエラにそっとハンカチを差し出してくれるアルフレッドの優しさにも胸があたたかくなる。


(本当にわたしは優しい家族と愛する人に恵まれて、幸せ者だわ)


 ハンカチで涙をぬぐいながら、シエラは幸せを実感する。


「シエラ、あまり泣かないの。明日の結婚式で目が真っ赤に腫れていたら、みんな驚くわよ」

「えぇ、そうね」


 母親代わりの姉にたしなめられるのも、なんだか久しぶりで嬉しかった。


 ***


「本当に私も泊まってもいいのだろうか」

「もちろんですわ」


 アルフレッドを自分の部屋に招き入れて、シエラは満面の笑みで頷いた。


「アルフレッド様がわたしの部屋に入るのは、もしかしてあの時以来でしょうか?」

「あぁ、そうかもしれないな。シエラが突然屋敷を出て行った時は本当に血の気が引いたよ。もうどこにも行かないでくれ」


 アルフレッドに抱き寄せられ、シエラはぽんぽんとその背を撫でる。

 大好きな旦那様が無防備に甘えてくるのは自分にだけだ。

 そう思うと、愛おしくてたまらない。


「明日は待ちに待った結婚式ですもの。どこにも行きませんわ」

「それもそうだな。だが、結婚式当日に花嫁に逃げられては敵わないから、ちゃんと捕まえておこう」


 アルフレッドに腰をぎゅっと固定されて、シエラは身動きが取れない。

 捕まってしまったが、逃げる気もない。


「ずっと、わたしを捕まえていてください。わたしも、アルフレッド様を捕まえておきますから」


 シエラは顔を上げて、旦那様を見つめる。

 すっと通った鼻筋に形の良い唇、その整った顔立ちを見ているだけで胸がドキドキしてしまう。

 そして何より、海のように深く優しい瞳に引き込まれる。


「アルフレッド様、大好き」


 背伸びをして、シエラはアルフレッドの唇を奪う。


「明日の朝は早いというのに……もう知らないからな」

「きゃっ」


 アルフレッドに抱きあげられ、シエラの体はベッドに着地した。

 覆いかぶさってくるアルフレッドに心臓が脈打ち、降ってくる甘いキスに全身が熱くなった。


(あぁ、大変……このままじゃドキドキしすぎて眠れないわ)


 結婚式前夜に夫を煽ってはいけないことをシエラは身に染みて学んだのだった。

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