*☆~ ゜ ̄(゜∀゜) ̄゜ ~☆* ビビビビ
知らない。
こんな茶髪のボブヘアーで可愛らしい容姿をした小柄な新入生の女の子なんて知らない。
誰だよこいつ。
ていうか何で抱き付いてきてんの。
ていうか相変わらずって何だ。
何であたかも知り合い風に言ったんだこいつは。
真っ赤な他人なんですけど僕達。
疑問符を次々と生産させながら目の前の少女を見ていると、あるセリフが耳に入ってきた。
「ねえ、あれすごくない?校門前で抱き合ってるよ。」
「うわーよくやるよねぇー。」
「え、あれ秋山君じゃない?」
「あ、本当だ。」
やばい。これは非常にやばい。
頭の中で非常時ランプが点滅した俺は、すぐさまひっついている少女を引き剥がし、その腕を掴んだままその場から逃走した。
引っ張られている少女はハトが豆鉄砲くらったような顔をしているが、そんなの知ったこっちゃない。俺なんかさっきハトが豆ライフルくらったくらいの顔したわ。
そんなくだらんことを無意識なうちに考えながらも全力で走った。まぁもう目撃者が出た時点で逃げても遅いと思ったけどとにかく走った。
ひと気のないところまで逃げ、建物の間に入って走るのを止めた。
「はぁ…はぁ…」
「先輩めちゃくちゃ速いですね。昔プレステでやったソニックのゲーム思い出しました。」
「うるせぇ…お前何で息一つ乱れてないんだよ……」
「私ほとんど引っ張られてたんであんまり体力使ってないんですよね。多分。」
「あっそ……はぁ…」
建物の壁に寄り掛かって座り込む。とりあえず話の前に息を整えないと。
それを見た目の前の小柄な少女が、俺の隣に腰を下ろした。
「……で、お前誰?」
息が整ったところで単刀直入に聞いてみた。
聞きたいことは山ほどあるけどとりあえずこいつが誰だか知りたい。
問われた少女は、隣から間近で俺と視線を合わせ、にこりと笑って口を開いた。
「あ、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私、小酉 満と申します。みつるでも、みっちゃんでも、みらくるちゃんでもいいですよ!」
「……何でお前俺のこと知ってるんだよ。俺の記憶が正しければ、お前とは今さっき初めてご対面した仲なんだが。」
「それは違います。私と先輩は今さっき初めてご対面した仲じゃないですよ。以前にちゃんとお会いしたことがあります。」
「は?いつ?どこで?」
「一年前、駅前のファーストフード店で。」
「駅前のファーストフード店……」
「先輩に注文と会計をしてもらったのをハッキリばっちり覚えています。」
「お前俺のバイト先の客だったのかよ⁉︎」
「いえす、あいあむ!」
客なんていちいち覚えてねーよっ!
しかも一年前の記憶なんてそんな深く残ってねーよっ!
しかもそんなとことっくの昔にやめたっつーのっ!
言いたい事を心の中で乱射させる。少女に向かって怒声を浴びせず心の奥に留めた紳士な俺を褒めてほしい。
「あのさ、悪いけど俺はお前のこと知らない。例え会ってたとしても定員と客のドライな関わりだったから全然全く記憶に残ってないんだよ。」
なるべく落ち着いた声で言葉を並べる。
すると、小酉満は眉を垂れ下げて小さく微笑んだ。
「そんなの知ってますよ。私は別に常連客でも何でもなかったし先輩の熱狂的ファンでもなかったので。」
……まぁ、それもそれで複雑な気分だが。
「じゃあ何でお前は俺のこと覚えてるんだよ。」
「いやー、私これでもIQ二万くらいの記憶力の持ち主なので。あの日の先輩の表情、頼んだ商品、来店した時間、店内の客の人数まで正確に覚えてますよ!」
「……じゃあ客の人数は?」
「あ、えーと……こ、これは極秘情報なのでそう簡単に口にしてはならないと言われてるんです。」
「……あっそ。ああ、あと何で一度しか面識のない赤の他人の俺に飛びついてきたんだよ。」
「入学式って周りが知らない人だらけでそわそわしちゃうじゃないですか。そんな中知り合いを発見してしまって居てもたってもいられなくなりダイブしたという訳です。」
「なんでそんなあるあるネタみたいに言ってんだよ。普通じゃそんな思考に至らねーわ。」
「いやいやこれ普通ですって。」
「はぁ……」
ダメだこいつ。話してるだけでHP削られる。
瀕死になる前に早く帰ろ。
「……よっと。」
「あ、また走ります?」
「ちげーよ、帰んの。お前も早く帰れ。」
「帰宅ですね、了解しました。先輩帰り道気を付けて下さいね。ワゴン車にむりやり引きずり込まれて変な薬の染み込んだハンカチの匂い嗅がされて気づいたら見知らぬ部屋で全裸で寝てたなんてことになっちゃダメですよ!」
「ねーよ‼︎!この作品R指定つけてないんだからそういう単語控えろよ!!お前こそ不審者には気を付けて帰れ‼︎‼︎」
「了解です。では先輩また明日ー!」
はぁ……
今の俺はきっとHPだけでなくsan値まで危機に瀕しているだろう。
なんてヤツだ本当……
先に出て行ったあいつに続いて俺も建物の隙間から身体を出す。
右を向くと、スキップをしているヤツの後ろ姿が視界に入った。
また明日?
それは勘弁だわ。
二度と再会しませんようにと心の中で呟き、帰宅路へと足を進めた。