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【第4面】 (3)

 *

 

 私は三たび、暗い荒野に落ちた。

 ユイの手首を埋めた場所だった。いきなり魔王城に行けるかもと、淡く期待もしていたが、甘くもないらしい。自力で魔王城に行かなければならない。

 体感は現実と同じだ。ゲームオーバーになってからは、どこに居てもふわふわとした軽さだけを感じた。服も変わっておらず、カウンターが無ければ現実と間違えるだろう。

 腕輪はあったが、機能は死んでいた。

 カウンターのパネルにも何も表示されなかった。待機モードのドット一個さえ点いていなかった。ゲームオーバーになったのだから、当たり前といえば、当たり前だ。

 しかし、現に私は『ゲーム』に居るわけだが、これはどういう状態なのだろう?

 さて、どうするか。

 私は、すぐ側に落ちていた、ある物に目をつけた。

 ちぎれて後半部分だけになった攻略本であった。ユイが持っていたものだ。私はとりあえず、攻略本の最初のページを開けた。

 

 それから、地味で盛り上がりに欠ける期間が始まった。

 

 *

 

 結論から言えば、ユイは助けられていない。

 しかし、それでよかった。

 いや、もちろんよくないが、現在ユイが死んでいないならば、これからも死なないことが判ってきた。

【私が関わっているイベントは、私が再び関与するまで、大きく動くことはない】――これは『SCシステマティック・ケイオス』での一つの法則だった。『SC』は法則性をもつプログラムで動いている。お城に居たヒジリ王が何回も同じセリフを喋るのも、このプログラムのためだ。私はフィールドを歩き、イベントを何個もこなし、法則を一つずつ学んだ。

 ログアウトはしなかった。

 腕輪が使えなかったから、ログアウトできなかった。

 構わなかった。どうせログアウトしないつもりだった。私はフィールド上の町や平原で寝泊りした。このセカイの法則をカラダで覚えることが目的だった。さいわい『SC』には制限時間は無い。

 ユイを助けられていないのは心苦しかった。『ゲーム』だからと、割り切るしかなかった。魔王城に行くにはどうしても手順を踏まなければならない。「魔王城に行く呪文」がプログラムとして存在すれば、呪文を習得すれば、行けただろう。だが、そんな呪文は無かった。

 要は、私はゲームオーバーから還ったとはいえ、アスカのような制圧的な強さが身に付いたわけではなかった。

 ……むしろ、そういう強さは、あまり実りがないのではないか。

 ……ヤリコミ的な強さだけではだめだから、『ゲーム』は未だにクリアされていないのではないか。

 アスカのようにヤリコミさせてしまう罠が、この『ゲーム』にはある。

 私の心身、つまり、ジブンそのものを使って冒険するという機構である。どんな人間も、それなりには、ジブンの心身がかわいい。だから頑張ってステータスを上げようとしてしまう。

 だが、それでは現実世界と同じなのだ。

 着々とイベントを重ね、ステータスを上げ、クリアという予定された結末を目指す。それは、部活や、サークル活動や、あるいは将来の会社や、ようはニンゲン集団の活動と同じなのではないか。昇進し、地位と権力を手に入れ、ゴールとされる役職や売上などを目指す。そこには何の面白味もない。……いや、活動に「熱中している」人間以外には、面白味がない。

 この『ゲーム』もまた、ニンゲンを熱中させる一つの『ゲーム』なのだと、私は判りはじめた。

 ……すると、現実世界もまた、さまざまなゲームの集まりと言えるのかもしれない。

 私は現実世界には意味を認めない。

 私が『SC』に来たのは、現実を忌避したからだ。意味がないのに存在する、枷のような現実世界が、私は嫌いだった。あらゆる現実世界的なものを離れた場所を求めた。

 ……しかし、『SC』が現実世界的ゲームであったとしたら?

 成果を積み上げ、「魔王を倒す」という予定された結末を導く行程、それは、現実世界的ゲームだ。

 現実世界を逃げてきた先が、別の現実世界だったのだ。

 魔王を倒す事は、現実世界的な行為遂行アクトにほかならない。

『ゲーム』のトッププレイヤーであるアスカを見てみればいい。「ゲームクリアのためのスキル」にアスカほど秀でた者は居ない。きっと現実世界でも優秀に生きるはずだ。

 アスカは最も重い部類の「現実病」患者だ。

 だから、『ゲーム』に来れた。セカイに癒着されすぎて、自分の居るセカイへの冷静な認識が消失する。それこそが「現実病」の最悪の段階だから。

 私は、笑い出したくなった。まったく笑えた。

「現実病」のセラピー? 

 この『ゲーム』では、治るわけがない。

 その当たり前の真実に、どうしてなかなか気付かなかったか? それは、明らかだ。

 どうやら私は、恥ずかしいことに、『SC』に熱中していたからだ。全身で打ち込んでしまっていた。

 しかし、私はゲームオーバーによって、強制的に熱中から切り離された。

 だから熱が冷め、当たり前の姿が見えた。自分が居た『ゲーム』の全景を捕捉できるようになったのだ。

『ゲーム』の実質がやっと見えてきた気がした。

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