【第2面】 (7)
王宮がある座標。
私はそこに立った。
王宮は潰れ、黒煙を上げていた。そういうコミカルなグラフィックが、マップに表示された。
「……お城に何かあったんでしょうか? 場所はここですよね?」
ユイがマップを見上げて言う。私に分かるはずもない。
私がログアウトしていた間、魔物の襲来を受けたのか? お城が潰されるイベントでもあるのか?
「そうゆうイベントは無いみたいですよ」
ユイは攻略本を見て答えた。私も本を覗き見る。
【王宮の地下室で『魔法の引き出し』を取って、パーティーの誰かに魔法を覚えさせよう。破邪の魔法が使えると、新しい冒険の世界に踏み出すことができるはずだ。】――解説が、空しく踊る。
王宮はカケラもなかった。
現実の都心と同じ、ビル街ばかりがあった。
正面のビルのスクリーンでは天気予報が流れた。上空は厚い雲に覆われ、天気は下り坂。夜は嵐になるでしょう。外を出歩かないようにしましょう。
不安が募った。一体どうなっている!?
天気予報が終了し、画面が変わった。
キャスター然と映り込む、異形の者の姿。ダーク・マスターの配下……。いや、仮装した人間だろうか。お面や肩飾りといった衣装は、雑な造形だった。
『どうした、似非勇者ども。なにをもたついておる。貴様らのステータスは何だ。もっともっとステータスを上げねば、ダーク・マスター様を倒すことはできんぞ。わはははははは』
ダミ声が喧伝する。ステータスのことを言われ、私はカウンターを見た。
順位は「98/99」――。
私は初回に99位から78位まで順位を上げたはずだ。それが殆ど戻っていた。HPも「8/25」と心許ない。歩くだけで疲れるのはこのためか。それとも歩いて体力が減ったのか。
「ログアウト中に順位が変わることがありますよ」
ユイが言った。
「ゲームのプレイヤーは、入れ替わり立ち替わりです。誰かがゲームオーバーになったり、参入したり、順位が上下すると、その影響で順位が変わります。ゲームのキャパは99人ですから、その中で動くんです」
そうなのか。ユイは私よりも経験が長い。知らないことを知っている。
ユイのステータスは、順位が「98/99」、HPが「41/42」。前回からほぼ変わっていない。私よりは安定している。
「ねえユイ、どうして私は順位の落ち幅が大きいの?」
「ゲームへの相性がランクの上下に関係してるんです。簡単に言うと、ゲームが思うように進まない人は、ランクが落ちやすいですねー」
たしかに思うようには進んでいない。
だが、王宮が無い今、ゲームを進めることもできない。途方に暮れる以外ない。――いや、つまり、途方に暮れていると、ますますランクが落ちるわけか。思考は錯綜する。私は何を切羽詰っている? すでに順位は殆ど最下位だ。心配なんて愚かだ。
だが、ログアウト中に順位が変動するなら、ログアウトするのは大きな不安要素だ。極端な場合、2位まで順位を上げても、ログアウト中に98人に抜かされたら、次のログインでは99位からになる。ログアウト時の変動の幅を見極め、クリア間近になったら一気に1位を奪取する戦略が、必要になってこないか。……くそ。めんどうくさい。考えるだけで疲れてしまう。
カウンターの数字がまた動く。HPが「5」に減った。私は鋭い痛みを心臓に覚えた。比喩ではない。この『ゲーム』には、ジブンを持ち込み、インターフェイスとする。カラダだけではなく、ココロの疲労も、インターフェイスのダメージに計上されるのだ。今の心臓の痛みは、それを示していた。私は脳天気なユイがステータスの減りが小さい理由が分かった。お子様は悩みが少なくて、つくづくうらやましい。ユイの言葉を借りれば、私は『ゲーム』との相性が悪いのだ。
……これって「現実病」に似ていないか?
存在しているだけで、世界からダメージを受ける。
どうして、『ゲーム』世界でも「現実病」を味わわねばならないのか?
「あの」
誰かの声が、考えの邪魔をした。
私は、ホッとした。今の思索は、あまり良くないものの予感がした。




