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【第2面】 (6)

 空は異様に重く、黒かった。建物は、短冊型の餅のように揺れ曲がり、降って来るようだった。ネオンのきらめきや、たえまない電車の轟音、塗り固められた地面。フィールドが私に向かって縮んでくる気がした。今にも吐きそうなことは確かだ。このフィールドは精神を蝕む。人間が沢山居て歩きにくい。現実世界でも人間は多いが、ゲームでまで一緒なのか。人間というか、人間じみた魔物たちだ。尻尾や翼を隠そうとしているが、この世界では隠せていなかった。この生物たちは、私が今まで人間と呼んでいたモノの正体であるように見えた。地図で確認するが、都心はまだ遠い。

 私はひどく疲れ、道端のベンチに座った。

 

「だいじょうぶだよ、ショーブちゃん」

 ユイは私の肩をポンと叩き、励ました。にっこりと、子供ならではの脳天気な顔。同じ顔を同い年の女子にやられたらムカツクだろうな。どうしたの、具合悪いの、を通り越して直接私の心に触る。たまに子供は超能力じみた洞察を見せる。

「ショーブちゃんは勇者です。ユイはそう思いますよ。合宿所では勇者さまの力になるように教わりました。あせらなくてもだいじょうぶですよ。どこまでも一緒ですよ!」

 経文のような励ましだが、疲れている時には沁みる。ユイごときに励まされる自分が哀れだ。そういえば以前もユイのボウガンに危機を救われた。

「たしかに、ここはユイたちのゲームフィールドじゃないですが、これはこれで楽しいじゃないですか。トーキョーに修学旅行にでも来たみたいですよ。そだ、お土産でも買って行きましょうか。お店がたくさんありますよー」

 近くの古着屋に走って行き、イギリス国旗の柄の派手なジャケットを試着してみるユイ。男物だからブカブカである。ユイは、攻略本どおりに進まない展開にも、エンジョイしているようだ。

 なんだか歯痒かった。『ゲーム』なのに、うまくいかない。私は本当に勇者なんだろうか。勇者だとしても、勇者を続けていいんだろうか。もっと勇者向きなプレイヤーがたくさん居る気がする……。

「あの、すこし休みます?」

 店頭に居るユイが、心配そうに訪ねた。

「だいじょうぶよ。歩きすぎて疲れただけよ。……それが欲しいの?」

 ユイは、展示されている赤いポーチを、物欲しげに握っていた。「いえ、そんなことないです」と慌てて戻したが、私は買ってあげることにした。

 私だって、何かできるところを見せたい。今回の私には、現実世界のバッグがあったので、財布から一万円を出した。手の四本ある白髭の店主は、一本の手で金を受け取り、一本でユイにポーチを渡し、残り二本でレジを打って釣銭をよこした。

「ショーブちゃんからのプレゼントだ! ありがと! 大事に使うね! ありがとう!」

 ユイは肩からポーチを掛けた。

 私は少し照れくさかった。喜ばれたことが嬉しかったらしい。

「攻略本の通りに進んでると思いますよ。王宮まではもう少しです!」

 ユイに言われ、マップを確認する。王宮は以前より近くに迫っていた。

 そのグラフィックは、原形をとどめないガレキと化していた。

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