45 姫との対談/屋台
A,part
「妖精の里…?」
わけわからないし。
じゃあ、さっきの場所はなんなの?
「ここは主に3つの”間”に別れている。
ひとつは、姫の住む”宮殿”。
もう一つは、妖精が生み出される”蘭”と呼ばれる所。
最後は、あたしたちの守る秘宝が祀られた、”紀陽”というところだ。そして、それをまとめて”妖精の里”。つまり、本来の妖精の里とは、妖精にとって”大事な物があるところ”なんだ」
姫、子、宝。
大切なものが守られ、生み出される場所。
それが、妖精の里。
「じゃあ、さっきの木…この外側の所は、なんなの?」
「人間は、数が多くなったら領土を増やしたがるだろ?」
「うん、まあ…場所がなくなるし」
「そういうことだ。この中だけでは小さすぎるから、この外側も使っている。それだけのことさ」
そういうもんなのか…。
でも理解できなくはないので、頷いておく。
「まま、りぃ、ひめのとこ、いこう」
「ああ、そうだな」
「あ、うん。わかった」
私も立ち上がって、リィ達の後ろへ付いていく。
妖精の里は、一言でいうなら、幻想的。
仄かに緑色や赤色の光がふわふわと漂っている。リィによると、それこそ”妖精”らしい。
力の塊っていうのは、本当みたいで、リィたちのようになんらかのカタチを作って行動している子の方が少ないみたいだった。
それに、外からみたよりも中が大きい。
「ここは、いわゆる異界なんだよな。外の世界は違うんだけどさ。外から見たよりも中から見たほうが広いのは、そういうことさ」
よくわからないけど、異界――つまり空間がこの中にはあるらしく、その大きさこそが、この中の大きさらしい。
わけわからん。
「ここには、姫と新生の妖精、それから姫の護衛の妖精、そして宮殿で使えている妖精、それだけしか住んでいない」
「少ないんだね」
「まあ、あんまり人数が多いと、もし侵入者が入ってきたりしたらわかんねぇだろ?」
そんなことはありえねぇけどな、とリィは笑う。
そんなもんかねー…。
あの姫さんの場合、人が多いほうが嬉しい気もするけど、ま、それは他人の事情か。
「お、ついたぞ」
リィが指さしたのは宮殿、というよりはなんというか、その…草花の大きくしたような、そんな感じ。
ぐるぐると巻いた太い茎が天に向かって伸びている。
下の方に扉がついてる。あ、私がランルたちのところから来たときに通った扉と何かにてる。
扉をくぐると、そぐに玉座(若草の集合体みたいなもの)に乗っかった姫、”なまえのないこのさとのおひめさま”が見えた。
「・・・あら、きたのね」
嬉しそうに姫さんは声をあげた。
私もなんとなく会釈をしてみる。
「・・・姫、お話が」
今まで黙っていたモアが口を開いた。
…あれ?…なんだろう。
口調が、違うような。
「なーに?話して?」
姫さんは気軽そうに首をかしげた。
その様子に、モアも静かに微笑む。
まるで、慈しむように。
「フラムという人間が、向こう側で妖精を召喚し、妖精喰らいを行なっております」
「…ああ、同胞の大量消滅…ね」
「そうです。目的は分かっておりません。ですが、”秩序の鏡”を狙っていることは奴の言質を取り、分かっております」
秩序の鏡?
私が首をかしげると、こっそりリィが教えてくれた。
「紀陽に祀られてるあたし達の秘宝だ」
ということらしい。
「…わたしたちの、ひほうを」
「はい。警戒したほうがよろしいかと。…奴はまさしく悪魔。どのような行為に及ぶか…。それに、妖精喰らいを行い、”通路”を使おうとしているらしいです」
「そんな……まあ、扉のほうは、わたしがなんとかするわね。きちんと警戒しておくわ」
有難うございます、とモアは頭を下げた。どこか、不安気な顔を浮かべている。
私はそろりと手をあげた。
「どうしたのかしら、”あくあ”?」
私の名前を知っていることには驚きだが、それは今はいい。
「あの、どうしてフラムさ・・・フラムは私と同じやり方でこちらに来ないのですか?」
「あら、モア、あなた説明していなかったの?こちらへ来るには、”通路”以外には使役する妖精ときちんと信頼関係を築かなければならないの。同調、とでもいうのかしらね。フラムには無理だと思うわ。話を聞いた限りではね」
初耳だった。
そっかー、そっか…。
私、モアと信頼しあえてたのか。
なんとなく、嬉しい。
「では姫、今日はここまでにしましょう。やることが沢山ありますでしょうし」
「あら?暗にやれと言ってる?」
モアは微笑して、ええ、と小さく頷いた。
姫さんも頬をふくらませたが嬉しそうだ。多分、久方振りにあったからだろう。
「では、失礼します」
そうして、宮殿を出て、私達はとりあえずリィの家に戻ることにした。
B,part
「アヴェル様、あそこに、あ、ああ、トテモ美味しそうなものがみえますです」
「落ち着け。クールで無口なキャラはどこ行った」
街へ出た俺達は今日は月に1度の祭りということで、屋台を見て回ることにした。
ら、神無が壊れた。
いつもは何も映らない無表情の塊のくせに、今はキラキラと歳相応に輝いている。
まあ、でもいいことなのだろうが。
神無が指さした果実の砂糖漬けを買って神無に手渡した。
神無はほぉおお、と息を漏らす。
「…ふふ、美味しそうです」
白い頬が仄かに赤く染まった。
嬉しそうに、それにかぶりつく。
「アヴェル様、アクア様も連れて、また来ましょう」
アクア。
思い出して、心配になる。
いつ帰ってくるのだろうか。
「大丈夫です、アヴェル様」
神無は少し――本当に少しだけだが――得意げに笑った。
「お忘れですか?アクア様にはまだ、”この国に繁栄をもたらす”という予言を成就してもらっておりません。つまり、少なくともそれまでは大丈夫ですよ」
ハッと思い出して、それから安堵した。
そういえば、そうだった。
「ありがとう、神無」
「いえいえ、このお菓子のお礼です」
そう言って、またパクリと果実の砂糖漬けをかじる。
「そういえば神無。お前、戦いとかってどれくらい出来るんだ?」
「戦い、ですか…?そうですね…、竜巻程度なら楽々おこせます。武器は使いませんが。防御の方が得意ですが、戦いが出来ないというわけでは決してありません」
まぁ、宿で敵の襲来に一番最初に気づいてそれを蹴散らしたのは神無だったしな。
国を修めるものの一人として、当然なのかもしれないが。
「ところでアヴェル様」
「…?なんだ?」
「あそこに、とてもとても美味しそうなのが見えます」
「まだ食べるのかっ!?」
その後、4時間ほどぶっ通しで神無が屋台で食べ物を食べ続けた時間は、俺の人生の中でかなりのトラウマになるのだった。




