42 里/気持ち
B,part書きました。それから、A,partも少し追加です
A,part
リィが言うには、私が尻餅をついた噴水は、妖精の里へ入る入口、逆にいえば”通路”の出口なのだそうだ。私がくぐり抜けたあの扉はその出口を具現化したものらしい。
ついでに、”今はモアか”というのはどういう意味か、と聞いたところ、
「妖精にも名前はあんだぜ?生まれ落ちたときに授かる名前がな。けど、一応人間と共に入ってきた妖精を呼ぶときには、その妖精につけられた名前を呼ぶんだ。なんつーか、掟かな」
そっか。モアにも名前はあるのか。
今更ながらの事実に、私は少し驚いた。
「モア…って、名前、なんなの?」
「えー?おしえなーい。っていうかおしえちゃだめなの」
「これも掟だ。”いつでも逃げられるように”妖精は、自分の真の名を人間に教えてはならない。別に信じる信じないの問題じゃねぇ。そういうもんなんだ」
どうやら妖精には掟がいろいろあるらしい。
大変そうだねー。
「っていうかさ、リィは多分、雷神のホーリーの妖精、なんだよね?」
「いいや」
と、リィは頭をふった。
「妖精にホーリーはないさ。妖精は魔力の塊だ。魔力の具現化。自分が持つ中で一番濃い力の色が繁栄される」
力の色。
ギルドへ行ったあと、アヴェルにいろいろ説明してもらったことを思い出す。
私は水。だから”青”
アヴェルは風。だから”銀”。
フラムさんは炎。だから”赤”。
イーリスは緑。だから”碧”。
イーリスがモアの力を直していたときに碧の光を放っていたように、魔力には色がある。
それが、妖精には髪にも反映されるということだ。
私達、”加護を受けたもの”と同じように。
…この世界、髪に関係するものが多いなぁ。
そこで、ふと思い出した。
ずっと抱いていた、疑問。
「そういえば、ここはどこなの?」
「どこって、妖精の里…ってまあそういうことじゃねぇよな。ここはいわゆる”異界”とかそんなものじゃねぇぜ?ここの入るために”特別な手続き”が必要なのは、この里には特殊な結界が厳重に張り巡らされているからだ。ま、場所自体はただの秘境で、普通のとこだ。綺麗なのは認めるけどな」
「へー、でもなんでそんな結界を?」
「争いを持ち運ばないため、と聞いている。人間共がここに入ってきたら、里が乱れる。なかには随分と人間を恐怖しているものもいるからな」
「わるーい人はね、モアみたいな妖精たちをひどくこき使うの」
「ま、だからそのへんは運だよなー。その点お前は恵まれたよなー。こいつの従事とか超楽そうじゃん」
「うん、もあすっごく運いいー」
褒められてるのか軽く見られてるのか。
私が割と真剣に考えていると、
「それに、守らなくちゃいけねぇもんもある」
ボソリ、とリィが呟いた。
え?と聞き返すが、リィはそれには答えなかった。
「……」
「……」
「……」
なんとなく、続く無言。
ちょっと耐えられなくなって、ギブアップしたのは私。
こういうのは、ちょっと、ね。
「そーいや、どこに向かってるの?」
「ああ、おめーさんの服を交換するために、あたしんちに向かってる。それから、姫のとこだな」
「もあ、ほーこく。ばばーん」
どうやら服を貸してくれるらしかった。ありがたい。
水が肌にはりついているのは気持ち悪いから。あんまり好きじゃない。
っていうか、報告?
「えと、妖精喰らいって奴、とか……フラムさんのこと?」
モアがこく、と頷いたとき、リィが素っ頓狂な声を挙げた。
「妖精喰らい!?」
「え?うん、なんか、フラムさんって人が…」
「そういうことか、最近噂になってた気配の消滅は…。おい、モア、説明しろよ」
「わかってる。めんどくさいから、姫のとき、一緒にいればいい」
「あたりまえだ」
そんなに妖精喰らいって大変なことだったのか。
まあ、人殺しと同じだもんね。
と、そんなことを話していたら。
「ついたぞ。あたしんちだ」
そういってリィが指さしたのは。
「………………え?」
なんか、大木の枝に作られた小屋だった。
…随分と、妖精はバイオレンスな生活をしているらしかった。
B,part
「そういえば、アヴェル様」
「?なんだ?」
俺が支度を終え、立ち上がった時だった。
神無はふと思い出したように声をあげた。
「ヴェンテの王が、近々この国にお呼ばれされると内密に決まっていました」
「!?そうなのか!?」
「はい。たしか、国同士の総会で、決まっていたかと」
「…なんで教えてくれなかったんだ?」
「すっかり忘れていました。どうにも総会では私は寝てしまうので」
…この少女は国の大事な会議で睡眠をとっているらしい。
と、そういうことか。
「もしかして、あれは、挨拶…か?」
「…ああ、そうかもしれません。近々襲うぞ、みたいなものでしょうか」
敵は俺達の誰かを狙っていた。
俺の可能性は低い。
だが、この世界の住人ではないというアクア。
風神の器である大巫女の神無。
二人の大物がここにはいるのだ。
だとしたら、どちらに?
「…私は、アヴェル様の可能性が高いと思っております」
「…何?」
「というより、アヴェル様の持つもの、でしょうか」
あ、と思い出した。
そして、ごそごそと腰につけた小さな袋から”それ”と取り出す。
「…珠…っ!」
いろいろあってすっかり忘れていたが、そうだ、俺はこれの守り手なのだ。
この力は強大だ。なにしろ、神の力なのだから。
「アクア様には申し訳ないですが、これは決まったこと。避けられない運命。どうか、それの守り手になるご覚悟と、契約を」
「…契約…」
まるでアクアとモアみたいだな、と俺は思ったが口には出さないことにした。
これは、この珠は、神と同じ、またはそれと同等の権威を持つものだ。
妖精とは、違う。
「分かっている。アクアを守るためなら、な」
「…ずっと気になっていたのですが」
神無は少し伏し目がちに俺に尋ねた。
…なんとなく、嫌な予感がする。
そして、そういのは大概当たるのだ。
「アクア様のことを、アヴェル様は愛しているのですか?」
「…っ!?!?」
ブッと吹き出した。今飲み物を飲んでいなくてよかったと思う。
神無は純粋な目で俺を見る。
「アクア様にも、そのような傾向が見られますが、アヴェル様ほどではないかと。アクア様が抱くアヴェル様への気持ちは恩義と純粋な好意です。けれどアヴェル様は、まるで過保護で、そしていつしむような――」
「待った!!ちょっと待て!!」
俺は慌てて訂正した。
たしかに、アクアは妹のようには思っている。思っているのだが!
恋愛感情は、抱いてない、つもりだ。多分。
「お前は、盛大な勘違いをしている!」
「そうでしょうか?」
というよりそんな恥ずかしいことを口にするな!
「私としては、そうとしか見えないのですが。悪いことではありませんし」
「とにかく、違うんだ。アクアは、なんというか、妹みたいなものだ。イーリスみたいにな」
「イーリスという方は存じませんが、そうですか。残念です」
…何が残念なんだ。
俺は頭を抱えてうずくまりたくなる衝動を必死に抑えつつ、珠と契約を結ぶことにしたのだった。




