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そんな私の別人生。  作者: 久留間水樹
妖精の里編
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40 少女/命令

A,partは従来通りアクア視点。B,partはアクアが里へ行っている間のアヴェル視点です。




A,part


 体が移動する感触がした。

 耳からは水流のような音がさらさらと聞こえ、心地いい。

 目を瞑ったままだから、今どこにいるのかは知らないけど、とてもいいところみたいなのは分かる。

 手が痛い、と感じた。

 私の手を握るモアの手が、強く、固くなる。


「まま」


 モアの声が、いつも聞いている声より、綺麗な澄んだ音色になっている。

 でも、それはどこか震えていた。


「ちから、ぬいて。それから、水を思い浮かべて。そして、もあのことを強く想って」


 わかった、と私は答えた。

 ごぼ、と水を吐くような音が耳に届いた。

 私は”ここ”に身を委ねるように全身の力を抜いた。 

 もしここが通常の世界だったら、私はそのまま崩れ落ちていたかもしれない。

 けれど、不思議と体を支える何かがあったから、私は崩れ落ちもせず、体勢は変わらない。


 

 水と、モア。


 

 ほんの、少し前なのだ。

 モアと出会ったのは。

 だけど、もうこんなにも心を通わせている。



 あの日造った水を、思い浮かべた。


 

 初めて造った水。それは同時に初めて使った魔法だった。

 綺麗で、透明な、どこまでも、純粋な、あの色は。

 どこか、モアの瞳に似ていた。



「そう、まま、その調子…っ」


 

 モアの声がどこか遠くに聞こえる。

 不思議と、それは怖くなかった。

 握る手の感触が、消えていく。



 モアは私を「まま」と呼ぶ。

 そして私は、モアを自分の子供のように思っている。

 子供を持つ年齢ではないけど、それでも、そう思ってしまう。

 それは、彼女が私に全幅の信頼を寄せてくれたからなのかもしれない。


 

 アヴェルが居なかったら死んでいたように、私にとって、モアはこの世界で居なくてはならない存在だった。


 

 あの温もりが、愛おしかった。



 モア、と小さく呟いた。

 まま、とは返ってこなかった。



 そのかわり、優しく微笑む少女がいた。

 少女は綺麗なソプラノで言う。




「あなたは、とっても、やさしいのね」


 

 目を瞑っていたはずなのに、目の前に少女の姿が見える。

 そして、隣にはモアがいない。



「あの子が、あなたをつれてきたりゆう、わかった気がするよ」



 少女は何かの上に小さくちょこんと座っていた。

 彼女の周りはほんのりと光が灯り、周りには草花が咲いている。



 

 そして、光が、世界を包む。

 私は何か声をかけようとして、それが、何かわからなくて。



「…君、は…?」


 

 出てきたのは、他愛もない台詞だった。

 少女は目を細めて、眩く笑う。



「なまえのない、このさとのおひめさま」



 少女は何かから降り、踵を返した。

 瞬間、その姿が消える。

 後を追いかけようとして、少女が座っていたところが扉だったことを知る。

 数秒躊躇い、私はその扉を開いた――。





B,part


 


 モアはブラックホールのような穴を開けると、その中にすっと入った。

 モアとアクアの姿は消えた。

 そのことに不安が湧き上がった。

 あいつらは大丈夫だろうか、としばし考える。



「まさか、本当に…」



 横を見ると、王が口を小さく開き、驚愕に目を見開いていた。

 


「何がですか?」


「考えてみるのじゃ。もし妖精次第で妖精の里に行けるのならば、フラムなら妖精を操り妖精の里に行っていただろう?つまり、そう簡単には妖精の里へはいけぬということじゃ。妖精でなけれなば」


「何か、試験のようなものがあるのだろう、というお考えですか?」


 俺の問いに、王がああ、と重々しく頷いた。

 この小さな王は、幼いが、それゆえに聡明だ。

 彼女が言うのだから、きっと正しいのだろう。


「まあ、大丈夫じゃろ。何しろアクアとモアじゃからな」


 王はそうじゃ、と付け足す。


「アヴェルよ、お主、わっちの命令を聞いてくれるか?」


 俺は苦笑した。

 この人は、今更何を。


「何言ってるんですか。当たり前ですよ」


「そうかそうか」


 王は心底嬉しそうに笑った。

 数年前とは比べ物にならないな、と俺は思う。

 あの時の王は、あれほどまでに頑なだったというのに。


「じゃあ、頼み事があるのじゃ。お主ら、きのう襲われたのじゃろ?」


 そんな情報をどこで、と言いかけてやめた。

 王は風を操り情報を得るのが得意なことを思い出したからだ。

 彼女の前では隠し事など到底できない。



「それで、わっちも色々調べておったのじゃがな、フラムとは別の勢力がアクアを狙っているらしい」


 また彼女か、と俺は呆れた。

 フラムといい、どいつもこいつも。


「やっぱりそうですか。理由は、わかりますか?」


「いや、分からぬ。分かっているのは、フラムと同じ規模のレベルの勢力というくらいか。――そこでじゃ」


「調べてこい、そして、あわよくば倒してこい、ですね」


「その通りじゃ」


 王はさすが、という顔で頷いた。


「わかりました。では俺一人で――」


「いえ、私もやらせてきただきます」


 神無はきっぱりと言い放った。

 珍しい彼女の断言に、俺はぐっと言葉が詰まる。


「それに、私の同類が危険な目に合ってるかもしれません」


 その言葉が詰みチェックメイトだった。

 俺はわかった、と渋々頷き、王城を出ることにしたのだった。


 


 

 

  

 

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