36 誘い
火に飛び込むと、じゅわっと水蒸気が私から中心に湧きだつ。
水の防御膜が火によって蒸発しているのだろう。
「…っ…」
正直、熱い。
一刻も早くここを出たい。
でも、もしここに生きている人がいたら。
それは、見殺しにしていると同じことだ。
「誰かーっ!いるーっ!?」
大声を出して叫んでみたけど、返事がない。
とりあえず、先へ進むとしよう。
数メートル歩いた時だった。
倒れている巫女の一人を見つけた。
「君、大丈夫!?」
ピクリとも動かず、巫女は伏している。
脈は打ってあるから、まだ生きているのだろう。
水の防御膜をかけ、この子をおんぶして外へ出ようとした時だった。
「…!?」
目の前に、フラムさんがいた。
「…アヴェル…は…?」
呆然と呟くと、フラムさんはふふ、と微笑した。
「そこらへんに倒れているんじゃないですかね?」
なんてことないように、フラムさんは言った。
私は確認するように訪ねた。
「アヴェル、生きてる…?」
「生きてますよ、一応ね」
ほっと溜息をつきそうになって、それを思いとどまった。
キッとフラムさんを睨みつける。
「どうして、こんなことを…」
「僕は地位にも力にも興味はありませんが…さる御方が必要としているのです。そして、それにはあなたが必要だ」
「…私…?」
火の手が後ろに回っているのに、フラムさんはものともしない。
一筋の汗が頬を伝う。
「そう。あなたは秩序の女神に四神から力を渡してもらうようにと言われたはずだ」
「!?どうしてそれを!?」
フラムさんはそれには答えず、私に向かってこの上なく優しく微笑む。
「それが、僕たちには必要だ。どうです?アクアさん。僕たちの味方になりませんか?」
「…フラムさんの味方、とはアヴェルの敵ですよね?」
「…ええ。勿論です。個人的にも、立場的にも、ね」
それなら、答えは決まっている。
私はフッと嘲笑うように笑った。
「お断りします。早くここから立ち去ってください」
フラムさんは溜息をついて、私を見つめた。
「僕はね、勿論あなたは必要な人物として認識していますが、何よりあなたに惚れているんですよ。さっきも言ったとおりね。だから僕はあなたの敵になりたくはない」
私は、きっぱりと言い放つ。
「それ以上に、アヴェルの敵になりたくありませんから」
フラムさんと私は数秒見つめ合い、そして視線をそらした。
「分かりました。今回は引きましょう。あなたのためにも。しかし、今度は容赦しません」
「望むところです」
フラムさんは火の中に消えていった。
私もここから出て、なだれ込むように倒れた。
「まま!無事、よかった!」
「うん、大丈夫。この子、どうしよう…?」
背負ってきた巫女は、未だに意識がない。
ところどころ裂傷や火傷を負っているし、治療したほうがよさそうだ。
と、そこへ。
「治療なら、私が出来ます」
「神無…」
神無は私の前で薬草を取り出し、ぺたぺたと巫女の傷口に貼っていった。
神無は終始黙ってそれをやり、やり終えるともう一度口を開いた。
「お話があります」
「何?」
神無は、初めて私をきちんと見つめた。
そこには、やはり感情がない。
「私も、あなたがたの旅に同行させていただきます」




