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そんな私の別人生。  作者: 久留間水樹
それぞれの出会い編
35/47

33 風神



「…そう、です…けど」


 自然と身を構えてしまう。

 体が強ばる。反射的に魔法を使いそうになるのを必死に留めて、私は”彼女”を見上げる。

 

 ”彼女”はふふんと鼻で笑った。


「秩序の神も、めんどくさいことをしてくれたものだ」


「…?」


 意味が分からなくて”彼女”を見つめたが、答えてくれそうにもなかった。


 …ああ、もしかして。


「…風神…?」


「いかにも。儂が風神だ」


 銀髪がなびいた。

 風が、小さく舞い踊る。


 風神は私を見て、溜息を付く。


「秩序の神はお前に儂の力を貸せといいよった。だから儂はお前に力を貸す。だが、その力、誤って使えば命を落とす」


 …あの女神様が、いろいろ手配してくれたらしい。

 力を貸してくれるみたいだ、というのが分かり、少しホッとした。

 

 風神は手を突き出した。そこに、風が集まる。


「心得てこの力を使え。お前が使うのか誰が使うのかは知らぬがな。神聖なる力は強大だが、その分リスクもある。多大な、リスクがな」


 風は形を作り、それは珠になった。

 くい、と指を折り曲げ風を動かし、私の目の前にそれを落とす。


「さらばだ。世界の異端児よ」


「…異端…?」


 珠を広いながら、思わず聞き返してしまった。

 風神は答えず、轟、と風が舞う。

 風が消えた瞬間、髪は白く戻り、瞳も薄紫に変わった。

 

 すぐにわかる。

 神無だ。


「…我が神は、なんと」


「…力を、くれた」


「そうですか」


 全て分かったらしい。神無は玉座から立ち上がった。


「どこへ行くの?」


「会いたいのでしょう。二人に」


 相変わらず感情のない声で言う。


「今から、あの人たちのところへ行くのです」




 巫女の間は、巫女たちのいわゆる寮みたいなものだ。

 沢山の部屋があり、何人かに分かれて暮らしているらしい。


 そこに、アヴェル達はいた。


「アクア!」


「ままーっ!」


 モアはぎゅう、と私に抱きつき、アヴェルはホッとしたように溜息を吐いた。


「まま、よかった。無事。うれしい」


 モアの頭を撫でて、そういえば、と神無に尋ねる。


「私、どれくらい寝てたの?」


「一週間です」


「一週間!?」


 そりゃあ、こんなに痩せるはずだ。というか、お腹が減った。

 アヴェルにそのことを伝えると、「分かった、すぐ戻ってくる」と言ってどこかに言ってしまった。


「心配かけてごめんね、モア」


「ううん、まま、ぶじでよかった!」


 モアはにっこりと笑う。

 私はあの時のことを思い出してモアに尋ねてみた。


「どうして、私の過去を知っていたの?」


 そう、あの忌まわしき過去を、モアは全て知っているようだったから。

 モアは少し黙ってうつむき、それからがばっと満点の笑みで私に笑いかけた。


「もあ、うぃんでぃーねだから。ままの、うぃんでぃーねだから。ままのこと、なんでも知ってる!」


 …よくわかんないけど、とりあえず、私のことはなんでも知ってるよー、ということらしい。

 あの過去を、真実を、誰かが知っている。

 いいのか悪いのか。


 私が悩んでいると、アヴェルが戻ってきた。


「これ、作ってもらったから食べろ」


「うん、ありがと」


 アヴェルが持ってきたおわんを私が受け取ろうと、手を伸ばす。

 おわんに入っていたのは、病人食みたいだった。

 多分久々に口に物を入れるのだろうし、こういう気遣いはありがたい。


 そのとき、アヴェルと指がふれあい――


 ――珠が、鼓動した。

 そして、熱を帯びる。


「え?」

 

 どくん、と脈打つ。


 これは、もしかして。


「…アヴェルが、守り手、なの…?」


 私の呟きがアヴェルには聞こえたらしい。

 驚いた顔をして、私を見つめた。


 そこへ、神無が割り込む。


「はい、やはり、予言通りです」


 相変わらず、感情のない声で。


「アヴェル様が、風神の守り手です」



 

 



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