33 風神
「…そう、です…けど」
自然と身を構えてしまう。
体が強ばる。反射的に魔法を使いそうになるのを必死に留めて、私は”彼女”を見上げる。
”彼女”はふふんと鼻で笑った。
「秩序の神も、めんどくさいことをしてくれたものだ」
「…?」
意味が分からなくて”彼女”を見つめたが、答えてくれそうにもなかった。
…ああ、もしかして。
「…風神…?」
「いかにも。儂が風神だ」
銀髪がなびいた。
風が、小さく舞い踊る。
風神は私を見て、溜息を付く。
「秩序の神はお前に儂の力を貸せといいよった。だから儂はお前に力を貸す。だが、その力、誤って使えば命を落とす」
…あの女神様が、いろいろ手配してくれたらしい。
力を貸してくれるみたいだ、というのが分かり、少しホッとした。
風神は手を突き出した。そこに、風が集まる。
「心得てこの力を使え。お前が使うのか誰が使うのかは知らぬがな。神聖なる力は強大だが、その分リスクもある。多大な、リスクがな」
風は形を作り、それは珠になった。
くい、と指を折り曲げ風を動かし、私の目の前にそれを落とす。
「さらばだ。世界の異端児よ」
「…異端…?」
珠を広いながら、思わず聞き返してしまった。
風神は答えず、轟、と風が舞う。
風が消えた瞬間、髪は白く戻り、瞳も薄紫に変わった。
すぐにわかる。
神無だ。
「…我が神は、なんと」
「…力を、くれた」
「そうですか」
全て分かったらしい。神無は玉座から立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「会いたいのでしょう。二人に」
相変わらず感情のない声で言う。
「今から、あの人たちのところへ行くのです」
巫女の間は、巫女たちのいわゆる寮みたいなものだ。
沢山の部屋があり、何人かに分かれて暮らしているらしい。
そこに、アヴェル達はいた。
「アクア!」
「ままーっ!」
モアはぎゅう、と私に抱きつき、アヴェルはホッとしたように溜息を吐いた。
「まま、よかった。無事。うれしい」
モアの頭を撫でて、そういえば、と神無に尋ねる。
「私、どれくらい寝てたの?」
「一週間です」
「一週間!?」
そりゃあ、こんなに痩せるはずだ。というか、お腹が減った。
アヴェルにそのことを伝えると、「分かった、すぐ戻ってくる」と言ってどこかに言ってしまった。
「心配かけてごめんね、モア」
「ううん、まま、ぶじでよかった!」
モアはにっこりと笑う。
私はあの時のことを思い出してモアに尋ねてみた。
「どうして、私の過去を知っていたの?」
そう、あの忌まわしき過去を、モアは全て知っているようだったから。
モアは少し黙ってうつむき、それからがばっと満点の笑みで私に笑いかけた。
「もあ、うぃんでぃーねだから。ままの、うぃんでぃーねだから。ままのこと、なんでも知ってる!」
…よくわかんないけど、とりあえず、私のことはなんでも知ってるよー、ということらしい。
あの過去を、真実を、誰かが知っている。
いいのか悪いのか。
私が悩んでいると、アヴェルが戻ってきた。
「これ、作ってもらったから食べろ」
「うん、ありがと」
アヴェルが持ってきたおわんを私が受け取ろうと、手を伸ばす。
おわんに入っていたのは、病人食みたいだった。
多分久々に口に物を入れるのだろうし、こういう気遣いはありがたい。
そのとき、アヴェルと指がふれあい――
――珠が、鼓動した。
そして、熱を帯びる。
「え?」
どくん、と脈打つ。
これは、もしかして。
「…アヴェルが、守り手、なの…?」
私の呟きがアヴェルには聞こえたらしい。
驚いた顔をして、私を見つめた。
そこへ、神無が割り込む。
「はい、やはり、予言通りです」
相変わらず、感情のない声で。
「アヴェル様が、風神の守り手です」




