26 事情
宮殿のある首都デルラは、ここから馬車モドキで3日というところらしい。
荷物をまとめて、その馬車モドキのあるところまで行く。
その馬車モドキの馬の代わりは、ラントルという綺麗な銀色の鬣を持った馬よりも1回り大きく、とても可愛い獣だった。
「…可愛い…」
私が呟くと、アヴェルが苦笑しつつ、イーリスもそんなことを言っていたな、と答えた。
イーリスはこの国に残るようにアヴェルが苦労して言いつけた。行く行く私も行くーっ!と駄々っ子に最後なっていたが、アヴェルがお前の服はいろんな人が買うだろう?その人たちに迷惑をかけるつもりか?と諭し、ようやくぶすっとした顔で見送りをした。
もし今度この街に戻ってきたら、イーリスに死ぬほど謝って、それから、お酒を飲みに行こう。
ついでに、モアは今私の中で休養中だ。
馬車もどきの乗り込み、出発した。結構揺れる。
…そういえば。
「…ねぇ、どうしてアヴェルは私のことを何もきかないの?」
何も知らなかったし、お金もないし、あんな所にいたし。
アヴェルはんー、と考え、
「俺も何も俺のことを教えてないからな」
「…それは、そうだけど…」
「お前が『何も教えてくれないのはアヴェルでしょ!?』って言ったとき、結構堪えたぞ」
と苦笑した。
…ああ、あの時は、激情にまかせて言っちゃったからなあ…。
「でも、気にならない?世話してるのに」
「…お前は自分のことを知って欲しいのか?」
そういうわけではない、と思う。
知って欲しい訳ではない。
ただ。
「…隠し事をしているみたいで、嫌」
アヴェルは驚いたように目を見開いた。
私は、ちょっと赤くなって、アヴェルの方を見ないように前を向く。
…恥ずかしい。
「…それに、旅にまで付いてきてもらってる。言わなきゃ、駄目だと思う」
「…そうか」
私はぐっと腹に力を込めた。そうでもしないと泣いてしまいそうだったから。
何かに、は知らないけど。
「…私ね、この世界の人間じゃないの」
「…!?」
「私、本当はこの世界で生きてたわけじゃない。前の世界で死んじゃって、それで、金髪女神様に転生させられたの」
正確にいえば殺されて、だけど。
「金髪女神…まさか、秩序の神か…?」
「秩序の神?」
「世界の秩序を守る、四神のさらに上の地位にいる、神だ」
…あの人そんな凄い人だったのか。
まあ、人を殺したり転生させたり簡単に出来るから、そうなのかもしれないけど。
「でね、私の転生させられた理由。今、冥界で反乱がおきようとしているんだって。それで、反乱を止めなきゃいけないの。こちら側に死者とかあふれたら、世界が崩れるから」
だから秩序の女神か。
秩序を守るため、最低限の犠牲は厭わない。
「私が選ばれたのは、瘴気に耐性があったから。冥界に充満する毒みたいな空気。人を魔人とし、獣を魔獣とする、嫌な力。それに、耐性があったの。だから選ばれたの。反乱を止めるには、冥界にいかなきゃいけないからね」
「…そう、だったんだな」
「…あんまり、驚かないんだね」
アヴェルはまたんー、と考え、今度は優しく笑った。
「納得がいった」
「…そっか」
なんでか、体中が火照る。
嬉しい、のかもしれない。
アヴェルが、私を疑わなかったから?
アヴェルが、私のことを信じてくれたから?
分からない。
わからないけど――体中が歓喜に震えた。
「それでね、神殿に行って四神の力がいるのはね、四神の力を守る守り手には、瘴気に耐える力が与えられるからなの。冥界で戦う仲間は多いほうがいいって、金髪女神様が言ったから」
「…なるほどな。話してくれて、ありがとう、アクア」
その瞬間。
泣き出してしまった。
もう、一人で抱え込む必要はない。
そう、思えたから。
アヴェルは、私の頭を撫でて、ずっと付き合ってくれた。
やっとアヴェルにも事情が伝わりました!
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