11 フラム
イーリスは、まず私を酒場に連れていった。
…いやいやだから。
「私、まだ15歳なんだけど」
「なーにいってんの。そんなん気にする人いないわよ。10歳くらいから飲んでる子もいるのよ?」
それは注意したほうがいいんじゃないの?
イーリスは堂々と酒場のドアを開け、声を張り上げる。
「おじさーん、久しぶりー」
「おお、イーリスちゃんじゃねぇか!久しぶりだなぁ。…お?連れにいるのは水神様の…ああ、噂のアヴェルの彼女かい?」
…そういえば、アヴェル、変な噂がまわるって断言してたなぁ。
「いや、その、彼女じゃないけど…」
「ははっ照れちゃってかわいいなあ!」
一応訂正してもたけどスルーされた。酒場のおっさんテンション高すぎ。
イーリスはカウンターに私を連れて座り、酒とつまみを注文した。
…っていうか。
「昼間っから人おおいね」
今もざわざわとうるさく騒がしい。
「あー、旅人とかもいるし、商人とかもね、結構昼休みとかに飲みに来る連中多いから」
へー、そんなもんかー。
日本だったらすごい目で見られそうだけどなー。昼間っから酒のんでる人なんて。
「はい、酒とつまみだね!」
「おじさんありがとー」
イーリスと私は乾杯をして、それを一気に半分飲み干す。…初めて飲んだお酒はなかなかに美味しかった。
「ふぃー、これがないとやってられないわね」
「なんかイーリスおっさんっぽい」
「るさいわねー。いいからもっと飲みなさい」
イーリスは楽しそうにくっくっと笑う。
私はそれを眺めつつ、質問を投げつける。
「なんで私を連れてきたの?」
「気に入ったから」
「…嘘付け」
「ダウト」
ああ、埒があかない。
私がイライラしてイーリスを見ると、イーリスは私には顔を向けず、でも本音をぽろっとつぶやく。
「気に入ったのは本当よ。アンタ、裏表なさそうだしねー。でもま、鋭いってのは面倒かもね、いろいろと」
「…?」
「あの馬鹿じゃあ、いろいろ大変よー。もしあいつの顔を好きなだけなら、いくらでもいい男紹介してあげるから諦めなさい」
…ああ、なるほど。
「露払いの本領発揮ってトコ?」
「そーともいう」
イーリスはまたぐびぐびと酒を飲み干し、おかわり!とお店の人に注文する。
「別に、アヴェルのことはそんな風には見てないよ」
「なら、離れなさい。世話なら世話好きの知り合いがいるから、紹介してあげるわ。あいつには生半可な覚悟で近づかないほうがいい」
「…どうして?」
「いろいろと面倒なのよ、あいつの過去」
これ以上は言いたくないようだった。お店の人が持ってきたお酒をさんきゅーと言いつついっきに飲み干した。
なのにイーリスは微塵も頬を染めない。
「で、どうすんの?アンタは、わたしの忠告を聞いてでも、あいつと一緒にいることを望む?」
「…私は…」
私は、どうしたのだろう。
アヴェルのことは、嫌いじゃない。
むしろ好意的な相手だ。
沢山いろんなことを教えてもらったし、助けてくれた。
…私は。
「…を、返す」
「は?」
ごめん、イーリス。
私は心の中で謝った。
今だけでいい、少しだけ、逃げ道に走らせて。
「アヴェルには雷狼から助けてもらったし、いろんなこと教えてもらったし、まだ宿代とかご飯代とかいろんな恩を返してないから、まだ、一緒にいなきゃいけない」
すこし、手が震えた。
臆病者の自分を、呪いたくなった。
イーリスは冷たい視線を投げかける。
…見抜いているのかな。私が、逃げ道を選んだことを。
「あいつは、そんなこと望んでないわよ、お人好しバカだから」
「…知ってる。だからこれは私の自己満足」
イーリスは深い溜息を吐いた。
「ま、こんなことかしらね。分かったわ、今はそれで納得してあげる」
ほっと息を吐く。それから、もう一度心の中で謝る。イーリス、ごめんね。
イーリスは今度こそ、何も含みのない笑を私に向けた。
「じゃ、今から楽しみましょう。折角久しぶりの酒場なのよ、アンタも付き合いなさい。元々そういう名目で連れてきたんだし」
「酒場ってことは聞いてなかったけどね」
「うるさいわねー」
イーリスはおつまみ(何かの乾き物)を食べながら、昔の過去話を始めた。
アヴェルの失敗とか、自分が初めて服を仕立てたこととか。
聞いてて楽しかったし、これが友達なんだろうなー、とのんびり思う。
そんな時間を、4時間ほど過ごした。
「…おーい、イーリスー、イーリスってばー」
「うーん、もうちょっとぉ…」
イーリスは酒が回ったのかむにゃむにゃ寝言を言いながら寝てしまった。…どうしよう。
ここからじゃあの服屋までは遠すぎるし、泊まっている宿屋も結構な距離がある。
イーリスは決して重くはないけど(むしろ軽い)、さすがに私一人であそこまで行くのは無理だ。
おろおろしてとりあえずイーリスを起こすことに専念していると
「大丈夫ですか?」
なんだか騎士風な青年に話しかけられた。
私が困っているのを見かねたのだろう。
「えーっと、この人が潰れちゃって」
「僕が運びますよ。あなただけなら大変でしょう」
うわー、居るんだなー、この世界にも。優男みたいな感じのヤツ。
嫌な人ではないみたいだけど。
「えー、じゃあ、お願いします」
騎士風の男の人は、軽々とイーリスを持ち上げた。おー、かっくいー。
店から出ようとすると、あ、と思い出す。
「勘定…」
「ははっ、いいよいいよ、イーリスちゃんにまた払ってもらうからねぇ」
…そうですか。
イーリス、なんかごめん。
イーリスを背負って歩いてくれる騎士風の人の名前はフラムというのだそうだ。
「なんだか、騎士っぽいですね」
「お、鋭いですね、僕、これでも下っ端の騎士なんです」
「そうなんですか!?」
どうやら私の予想はあたってたらしい。
「アクアさんは、旅人ですか?」
「え、まー、はい。初心者ですけど」
「旅人ですか、僕もしてみたいですね。楽しそうです」
いやー、大変だと思うけどねー。多分、
フラムさんの話はなかなか面白かった。訓練時代の話とか、王宮の話とか。
そこで、ふと気づいた。
「そういえば、フラムさんの髪って赤髪ですけど、もしかして炎神のホーリーですか?」
「はい、そういうあなたは水神のホーリーでしょう?」
「え、はい」
…あれー?
「水神と炎神の仲は悪いと連れが言っていたので、ホーリー同士もそうかと思ったんですが、違うんですね」
「いえ、僕が特殊なだけだと思いますよ。僕は炎神のホーリーですけど水の国で育ったものですから」
ふーん、そうかー。
やっぱ育ちって関係あるんだなぁ…。
そこらへんで、イーリスのお店についた。
イーリスを店の奥にあるベットに寝かせ(服を決めるためイーリスに連れ回されているときに見つけた)、店の外に出てフラムさんにお礼を言う。
「ありがとうございました、助かりました」
「いえいえ、騎士として当然のことですよ」
フラムさんはにっこりと微笑む。うーむ、美形だ。
「もし何かあったら、王宮の方へどうぞ。フラムに会いに来たといえば、いつでも駆けつけますので」
「はい、わかりました」
ま、頼ることはないと思うけど。
フラムさんと別れ、夕焼けにそまる街中を眺めつつ、宿へと戻った。
騎士さん登場!優男ですねw
彼、意外とお気にいりです。書きやすいので←




