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大根役者の「悲劇のヒロイン」気取り? ——私の仕掛けた最高の舞台で、思う存分自爆しなさい。  作者: もも子


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3/4

スポットライトの罠

建国記念パーティー当日。

王宮の大広間は、色とりどりのドレスを纏った貴族たちで埋め尽くされていた。


会場の中央には、二階へと続く巨大な大理石の階段。

その階段の上——会場全体からもっとも視線が集まる「最高のスポットライト」の位置に、カイル王子とアイリスが立っていた。


「皆様! 本日は我が国の建国を祝う良き日であると同時に、ひとつの『悪』に決着をつける日でもある!」


カイル王子の朗々とした声がホールに響き渡る。

その隣で、アイリスはピンク色の可憐なドレスの裾を握りしめ、今にも泣き出しそうな瞳で可哀想なヒロインを演じていた。


「そこにいるロザリー・ヴァルハイトは! 義妹アイリスに対し、嫉妬から数々の嫌がらせを行ってきた! 彼女の亡き母親の唯一の遺品であるペンダントを壊し、毒を盛ろうとまでしたのだ!」


わっと会場が騒然となる。

階段の下、大勢の貴族に取り囲まれた私は、背筋を伸ばしたまま微動だにしない。


「ロザリー! 弁明はあるか!」


「いいえ、カイル様。私が何を申し上げても、皆様はお信じにならないでしょうから」


私が儚げに目を伏せると、アイリスが待ってましたとばかりに階段の前へと躍り出た。

涙をポロポロと零しながら、健気な声で叫ぶ。


「カイル様、もうやめてくださいっ……! お姉様を責めないで! 私がドジだから、お母様の遺品を壊されてしまったんです……っ! 私が我慢すればいいのですから……!」


「ああ、なんて健気なんだアイリス……! 聞いたかロザリー、お前はどれだけ心が腐っているんだ!」


カイル王子が目頭を熱くする。

周囲の貴族たちからも「亡くなったお母さんの遺品を壊すなんて」「なんて恐ろしい悪女」と非難の声が上がり始めた。


(……はいはい、八年前から擦り続けている『可哀想な私』の持ちネタね。第一幕は終了。ここから幕間の伏線回収よ)


私はそっと、胸元の扇子を優雅に開いた。

それを合図に、私が仕込んでおいた第一の罠が動く。


罠その1:物理的証拠の崩壊(退路の遮断)

「アイリス。その壊されたというお母様のペンダント……見せてくださる?」


私が静かに問いかけると、アイリスはビクッと肩を揺らした。


「え……? で、でも、お姉様がバラバラに壊して……」


「ええ。ですが私、壊されたという破片を買い取って、腕利きの宝石商に復元を依頼しましたの。本日のパーティーに間に合うようにね」


合図とともに、公爵家の老執事が恭しく黒い箱を差し出した。

中に入っていたのは、美しく輝くペンダントだ。


「なっ……! なぜそれが……っ!?」


アイリスの顔色が変わる。


「不思議ですわね、アイリス。あなたのお母様が亡くなられたのは、八年前ですわね? ですが……そのペンダントの裏側の刻印を専門家に調べさせたら、半年前に王都の安物露店で購入されたものだと判明しましたの」


会場から「え……?」「亡くなったお母さんの遺品じゃないの?」とざわめきが起こる。


「ち、違います! 私は……露店で似たものを買い直しただけで……っ!」


焦るアイリス。だが、これはまだ序の口だ。


罠その2:共犯者の裏切り(心理的孤立)

「それに、あなたが『お姉様に毒を盛られた』とおっしゃった件ですけれど」


私はゆっくりと階段を一歩登った。


「私があなたのお茶に毒を入れるところを見た、と証言していた平メイドのマーサ。彼女、昨日公爵家を辞職しようとしていたので、引き留めてじっくりお話を聞きましたわ」


「な……マーサが……!?」


「彼女、泣いて白状しましたの。『アイリス様から金貨十枚を渡され、ロザリー様が毒を入れるのを見たと言えと脅された』と。金貨のシリアルナンバーを照合したら、あなたが父様から与えられたお小遣いの口座と一致しました」


大鏡に、マーサが署名した自白書が大きく映し出される。

同時に、会場に設置した集音の魔石が、アイリスの激しい呼吸音を爆音で拾い上げた。


「くっ……あの使えない負け犬が……っ!」


アイリスの口から、低く凶暴な呟きが漏れた。

本人は小声のつもりだったろうが、魔石を通して「あの使えない負け犬が」という声がホール全体に朗々と響き渡ってしまった。


貴族たちが「今、何て言った……?」「使えない負け犬……?」と息を呑む。


「あ……違う、今の違うの!! 私はそんなこと言っていな……っ!」


罠その3:演出家による心理的トラップ(完全自爆)

アイリスはパニックになり、助けを求めるようにカイル王子の腕にすがった。


「カイル様! 騙されないで! お姉様は悪魔です! 私を陥れるために嘘をついているんです! 私を信じて……私を愛していると言ってくれたじゃないですか!!」


「ア……アイリス……?」


カイル王子も、目の前の「可憐なヒロイン」の見たことのない恐ろしい表情に引いている。


ここで、私は最後の仕上げに入った。

あえて悲しそうに、けれど哀れむような視線で彼女を見つめ、静かに告げた。


「可哀想なアイリス。……本当は、あなたが一番『愛されていない』と知っていたのね」


「……は?」


「いくら可哀想なフリをして男たちを操っても、誰も『本当のあなた』なんて愛していない。あなたが愛されているのは、あなたが作った『可哀想な人形』だけ。本当のあなたは、誰からも見向きもされない空っぽの人間だから……だからそんな嘘を重ねるしかなかったのでしょう?」


演出家として、役者の「一番触れられたくない劣等感」を正確に射抜く言葉。


「可哀想なフリをしないと愛されないなんて、哀れな子」


その一言が、アイリスの精神の堤防を完全に決壊させた。


「うるさい……うるさいウルサイウルサイ!!!」


アイリスは髪を振り乱し、カイル王子の腕を振り払って叫んだ。


「あんたに何がわかるのよ!! 男なんてチョロいのよ! 涙を一滴こぼして『かわいそうな私』を演じれば、このバカ王子みたいに簡単に信じて、私の言う通りに動くのよ!!」


「ア、アイリス……!?」


「黙りなさいよこのドジカエル! あんたの顔を見るのも反吐が出るわ! 私はね、八年間も惨めな思いをして我慢してきたのよ! 公爵家の娘になって、あんたを足蹴にして、この国の頂点に立ちたかったのよ!! なのに……なのに何で全部バレてんのよぉぉぉ!!」


絶叫するアイリス。


完璧なスポットライトの下、大鏡には顔を般若のように歪ませて叫ぶ彼女の姿が映し出され、集音の魔石がその怒声を余すことなく会場中に届けていた。


静まり返る会場。

顔面蒼白になり、腰を抜かして階段を転がり落ちるカイル王子。


自らの手で化けの皮を剥ぎ取り、完全に自爆した「元・悲劇のヒロイン」。


私はゆっくりとドレスの裾を持ち上げ、静まり返る大観衆に向かって、完璧な一礼を捧げた。

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