大仕掛けの舞台設営
婚約破棄の騒動から一ヶ月。
世間では「悪女ロザリーが公爵家を追い出される」「可哀想な義妹アイリスが新たな王子妃になる」という噂でもちきりだった。
屋敷の中でも、アイリスはすっかり「未来の王子妃」気取りだ。
私とすれ違うたびに、哀れむような、それでいて勝ち誇ったような視線を送ってくる。
だが、私はそんな嫌がらせなど気にも留めず、淡々と「その日」のための準備を進めていた。
「ロザリー様、ご指示の通り、建国記念パーティーの会場設営を担当する業者への寄付金と、演出器具の搬入手配が完了いたしました」
私室で報告に訪れたのは、私に昔から忠誠を誓ってくれている公爵家の老執事だ。
「ありがとう。会場の魔導具——特に『集音の魔石』と『投影の鏡』の位置調整は、私が渡した図面通りに設置するよう念を押してくれたかしら?」
「ええ、完璧でございます。ですが……本当に宜しいのですか? あの器具は本来、広大な会場全体にオーケストラの音色を行き渡らせ、遠くの客席にも壇上の様子を鮮明に見せるためのもの。かなり高価な代物ですが……」
「いいのよ。大舞台には、最高の音響と照明が不可欠でしょう?」
私はフッと微笑んだ。
今回、私がパーティー会場の演出を「自腹で引き受けた」のは、単なる悪足掻きではない。
アイリスが「私に壊された」と主張していた『亡き母の遺品のペンダント』の破片。
私は裏でこっそりその破片を回収し、信頼できる鑑定士に持ち込んで解析を進めていたのだ。
さらに、私がお茶に毒を入れようとしたところを目撃したという平メイド・マーサの身辺調査も、すでに完了している。
(八年間も健気な義妹を演じてきたんだもの。自分の声がどれだけ響くかも知らずに、さぞ浮かれているでしょうね)
私は机の上に置いた「ある手帳」に視線の落とした。
アイリスが部屋の鍵付きの引き出しに大切に隠していた日記の複写だ。
『カイル王子は本当にチョロい。可哀想なフリをして泣いてみせれば、簡単に私を信じる』
『お姉様を追い出して、私が公爵家の本当の娘になってやる』
……実に分かりやすく、そして浅はかな欲望だ。
「ロザリー様、この手帳の写しはどうなさいますか?」
「当日の給仕たちに、少しばかりチップを渡して配らせるわ。『主賓の方々が退屈なさらないよう、本日の式次第の補足資料です』と言って、各テーブルに何気なく置いておいてちょうだい」
「承知いたしました」
執事が深々と頭を下げる。
舞台装置の準備は整った。
音響も、照明も、そして観客の手元に配る「プログラム(真実の台本)」も。
残るは、主役であるアイリスに、思い通りに踊ってもらうだけだ。
(さあ、アイリス。あなたが大好きな『悲劇のヒロイン』の幕が上がるわよ。最高のスポットライトの下で、思う存分演じなさい)




