カーテンコール
しーんと静まり返る王宮の大広間。
大鏡には、髪を乱し、般若のような顔でぜえぜえと息を吐くアイリスの姿。
そして階段の下には、腰を抜かしてガタガタと震えているカイル王子の姿があった。
「あ……あ、あ……」
カイル王子は、自分の手で引き倒した元婚約者——私を見上げ、青ざめた唇を震わせた。
「ろ、ロザリー……! 騙されていたんだ、俺は……! すまない、俺が悪かった! 婚約破棄撤回だ! やはりお前が俺の妃に——」
「お戯れを、カイル様」
私は静かに扇子を閉じ、冷ややかな一言で王子の言葉を遮った。
「一度口にされた婚約破棄を、そのような軽々しいお気持ちで撤回できるとお思いですか? ヴァルハイト公爵家の名を傷つけ、大観衆の前で私を悪女と罵った事実が消えるわけではございません」
「ひっ……!」
王子の身勝手な言い訳に、周囲の貴族たちからも冷ややかな視線と軽蔑の囁きが突き刺さる。
王家の威信は、今日この場所で完全に地に落ちた。
そこへ、重厚な靴音がホールに響き渡った。
「——見事な舞台(演出)でしたよ、ロザリー嬢」
人混みを割り、悠然と歩み出てきたのは、隣国の第一王子にして当代屈指の切れ者と名高い、ヴィンセント殿下だった。
彼は腰を抜かしたカイル王子には目もくれず、まっすぐに私の前まで歩み寄ると、優雅に片膝をついて私の手を取った。
「愚かな男に囚われるには、貴女のその知性と気品はあまりにも惜しい。……我が国へ来ていただけませんか? 貴女のような凛とした女性こそ、私の隣に立ってほしい」
会場全体から、今日一番のどよめきが巻き起こる。
「ヴィンセント殿下……。恐れ入りますわ」
私はふっと口元を緩め、彼の差し出された手の上に静かに自分の手を重ねた。
「喜んで、お供いたしますわ」
呆然と私たちを見上げるカイル王子。
そして、すべてを失ってその場に崩れ落ち、警備兵に引きずられていくアイリス。
私は一度も彼女たちを振り返ることなく、ヴィンセント殿下にエ宿ポートされながら、堂々とパーティー会場の扉へと歩き出した。
去り際、私は一度だけ立ち止まり、大広間全体へと向き直る。
そして、ドレスの裾をふわりと持ち上げ、完璧で優雅な一礼を捧げた。
「皆様、本日はご清聴ありがとうございました。……これにて、終演とさせていただきます」
スポットライトが落ちるように、私の後ろで大広間の重厚な扉がパタンと閉まった。
(終)




