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第2話

体育の時間。

男子はバスケ、女子は隣のコートでバレーだった。

バスケは、身長や毎日の筋トレのおかげもあって、人並み程度にはできるようになった。


「晴翔!パス!」


ボールを投げる。少し手が滑ってしまって、狙いの場所に投げられなかったが、投げた相手が涼太だったので上手く受け取ってくれた。


運動できるやつで助かった。


球技は苦手だ。

中学の頃、ボールが取れなくて指を骨折した。

あの日、クラスメイトに笑われたのを今でも覚えている。


──その時の俺は、今より痩せてガリガリだった。筋トレは縁もゆかりもなかった。教室の隅で本を読んでいるタイプだったから


そんな俺に、ある日話しかけてくれたのが三谷青葉だった。


「その本面白い?」


「……え?」


俺に話しかけてくるなんて誰だろうと思って本から顔を上げると、そこにはいつもクラスの中心にいる彼女がいた。三谷は俺が読んでいる本の表紙をみて「あ、この作者知ってる」と言った。


「ほ、本当?!この作者知ってる人あんまいないから……俺、結構好きで」


思わずイスから勢いよく立ち上がってしまった。しかも声がうわずっている。


「あ、いや……」


一瞬、三谷が驚いたような顔をしたが、すぐに微笑む。


「そうなんだ。今度読んでみるね」


「う、うん。是非」


おずおずと席に座り直す。


それから度々三谷と話すことが多くなった。彼女も本が好きなようで、よく図書室へ行って読み漁っていることを知った。


気さくに話しかけてくれて笑顔を見せるたびに、俺は惹かれて行った。単純とかちょろいとか言われるかもしれないが、俺が初めて「好きだ」と思える人であった。


気づけば、図書室を違った目的で通うようになった。彼女を探すために。


そんなある日、いつものように教室で本を読んでいると、三谷たちが「好きなタイプ」の話をしているのが聞こえてきた。


どうやら友達の一人に最近彼氏ができたらしい。


「青葉は好きな人いるの?」


その言葉に心臓がドキドキした。三谷にはそういう恋愛みたいな話は聞かない。告白をされたという噂はよく聞く。でも全部断っているらしい。少しの期待を込めつつ、本を読みながら会話に耳を傾ける。当然ページは進んでいない。


「いないよ〜」

いやわかっていたけれども。

(いないのか……)


「えー、青葉モテるのに?」

「モテると好きは違うでしょ?」

「まあそうだけど。じゃあ好きなタイプは?」

「優しい人、とか?」

「普通じゃん。もっと他にないの?」


友達が笑いながら、問いかけると三谷は困ったような顔をする。


「んーそうだなぁ……逞しい人、とか?」


(逞しい人……)

自分の体を見る。身長に合わせて制服のサイズを決めたので、丈は合っている。だが痩せているためシャツがヨレヨレである。それに猫背。とても『逞しい人』には見えない。


「意外と筋肉質な人がタイプなの?」

「タイプというか、素敵だなって思うかな」

「へぇ。マッチョねー……」


『マッチョ』。その言葉に俺は閃いた。

そうだ。筋トレをしよう。

実に単純な思考である。


その日から、俺は部屋で腕立て伏せや上体起こしなどをやり始めた。最初は腕立て伏せは全くと言っていいほど、体が持ち上がらなかったし、上体起こしは5回が限界だった。


(俺、めっちゃひ弱じゃん……)


それでも諦めずに毎日、少しずつ回数を増やし、ランニングも始めた。それを繰り返しているうちに少しずつ体に筋肉がついたように感じた。





「晴翔!」

ボールが渡される。なんとか受け取り、ボールをネットに向かって投げる。


入った。


「さすが晴翔!」

チームの人たちが俺のそばに寄って手を差し出してきたので、ハイタッチを交わした。



───試合終了

結果、俺は合計三本のゴールを入れた。自分でも驚きである。狙いやすいところに投げてくれた涼太たちのおかげでもある。直接言うのは照れくさいから、心の中で感謝をしておく。


汗を拭きながら、横のコートを見ていると、ちょうど三谷がサーブを打つところだった。


ボールを打つ音が体育館に響き渡る。

コートラインぎりぎりをかすめてボールが落ちた。


「ナイスサーブ!」

女子たちの間で声が上がる。

三谷は照れたように笑った。


(……可愛い)


そう思った瞬間、授業終了のチャイムが鳴った。


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