信頼と裏切りの戦場12−5
「……」
なにもなかったところに突然現れた紙は、リアの指先の指示に従ってスッと将軍前の机の上にすべりこんだ。その紙を見つめる将軍に、「私を呼び出す時はそれを使え」と言う。
「その紙は私の魔力で作り出したものだ。それに向かって息を吹き掛ければ、私の方に知らせが飛んでくる。私はそれを感じたら、お前からの呼び出しだと判断しよう。逆に私から用事がある時は、お前に対してこれと同じものを出そう。それを私からの先触れとしてくれ」
「わかりました」
将軍は目の前にある紙を四つ折りくらいに折りたたんだ。その行動に一瞬驚いたショウだが、息を吹きかけなければ折っても問題はないらしく、魔力の紙はなんの反応も示さなかった。
これがリアがたまに言う『魔法の発動条件』というものなのだろう。あらかじめ指定された発動条件に引っ掛からなければ、なにをしても魔法は発動しないらしい。
「軍医からの検死の報告を待っている間、私の方は部屋にこもっていよう。その間に、なにかしらの進展があることを祈る」
「はい。軍医からの報告がありましたら、リア様の方へお知らせいたします」
「呼び出しではなく報告の場合は、その紙に内容を書いて息を吹き掛ければ私の方へ転移する」
すごい便利な紙だな、とショウが思っていると、リアはおもむろに椅子から立ち上がり、会議室を出て行った。
天幕から出てきたリアの姿に、外で状況説明を求めて待機していた隊長たちがぎょっとしたような表情を見せた。数人は後退り、リアが視線を向けると慌てて目を逸らした。
十三歳の女の子に対して恐れ慄いているような様子に、ショウはなんとも言えないような気持ちになる。リアを恐れてしまう隊長たちの気持ちも理解できるからだ。そして、その気持ちを抱かせてしまうリアの立場も理解できてしまう。
しばらく歩いて会議室から離れると、リアが充分に離れたことを確認した隊長たちが将軍がいる部屋に傾れ込むように入って行くのがわかった。
リアとショウはそのまま、将軍との約束通りリアの部屋へと向かう。中に入ると、ショウが部屋の中を確認し、誰も潜んでいないことがわかるとリアが結界魔法をかけた。
途端に外の喧騒が聞こえなくなり、空気の流れが止まる。結界魔法独特の少し張り詰めたような空気感は、何度も経験した結果、慣れつつあった。最初に覚えた強い違和感が少しずつ薄れているのを自分でも感じる。
リアがベッドに座り、ショウは背負っていた長剣を抱き込むようにして出入り口近くのラグに座る。
「結界魔法は発動時に使う魔力は少ないが、それを維持するとなると地味に魔力を削られてしまう。まぁ、維持する結界の大きさにもよるがな。この状況がなにかしら進展しなくては、私は自分の身を守るためにずっと結界魔法を発動させ続けなくてはらない。少しずつ魔力を削られた状態で敵軍が動き出したら、私が充分に魔法を使えない可能性が出てくる。私と将軍は、その点については避けるべきだと意見は一致している」
そして、その状況を作り出しているのが敵の目的なのだとしたら、今のところノース=カイマート軍の作戦通りということだ。
将軍としてもその状況は避けたいはずだから、早々に問題を片付けたいのだろう。もしかしたら、犯人が見つかるのは時間の問題かもしれない。
「考えなければならないのは、どうやって敵兵が私の探査の魔法をすり抜けているか、だ」
それはショウとしても疑問に思っているところである。ショウからしたらリアの使っている魔法は万能そうに見えるのだが、実際はショウが考えているよりも万能ではないということが、今回のことでよくわかった。
リアの言う『それを理解していない人々』と言うのが、魔法を万能であると思い込み、リアに対して無理難題を強いてきたらしい。そんな人が将軍であったなら、リアの言う通り彼女はこの戦場には来なかっただろう。
そのままリアは口元に手を当てて、なにかしら考え始める。考え事をする時に口元に手を当てるのは、リアの癖であるようだ。その仕草をしている時は邪魔をしないようにしようと心に決め、ショウは少し離れた場所から黙ってその姿を見つめていた。
リアはショウのその視線が気にならないくらい、深く考え込んでいる様子だ。その赤い瞳は自分の足元を見つめているようで、その向こうを見ているような気がした。
魔法のことは、この軍内部でリアよりも詳しい者はいないだろう。なので、魔法に対してほとんど無知であるショウが口を出すことではない。リアはそれをよくわかっているのか、ショウに対して意見を求めてくるようなことはしてこなかった。逆に、面倒くさがることなく色々と教えてくれようとしている。
考え込んでいたリアは、ふっとショウに視線を向けた。




