信頼と裏切りの戦場12−3
「リア様は一切魔力を持たない俺に、丁寧に魔法のことを教えてくださいました。剣の指南役や戦術の専門家をつけて教育してくださったおかげで、この地位にまで登り詰めることができたと思っています。ヴェアール家の方々には感謝してもしきれません」
「父がお前の才能を見抜いていたからな」
リアの父親ということは、ヴェアール家の現当主ということか。その人が将軍の才能を見抜いて、剣の指南役や戦術の専門家をつけたということなのだろう。
前に将軍が軍に所属する時の口利きもしたと言っていた気がするので、本当にリアの父親は将軍の才能を見抜いていたらしい。
「私たちはお前の才能に投資しただけ。私たちが用意したチャンスをお前が逃さなかった。私たちがしたのはきっかけ作りで、それをものにしたのはすべてはお前の努力の賜物だ」
「そう言われる貴族はリア様たちヴェアール家の方だけでしょうね。ほかの貴族の方であれば、自分の功績だと吹聴するでしょうから」
将軍の言葉に、リアは肩を竦めた。
「領民の中で才能がある者に投資すれば、その何倍もの結果が返ってくるのはよくあることだ。そうやって、ヴェアール家は人を育てて領地を発展させてきた。人材に投資するお金は惜しまない主義だからな。お前もそうやってヴェアール家が投資した人間の一人だ。ほかの貴族は労働力を増やすことに重きを置いているが、ヴェアール家は人材の質の方を重視する考え方だからな。そこがほかの貴族と意見が合わないところだ」
つまり、リアの実家であるヴェアール家はサウス=リアクター内で最も古く最も権力を持ちながら、ほかの貴族からすると変わり者だと思われているらしい。そうなのであれば、リアの考え方がほかの貴族と違っていても不思議ではない。
「ヴェアール家は環境を提供する。それを生かすも殺すも本人次第だ」
将軍もその環境を用意され、それをしっかりとものにして今の地位を手に入れたということらしい。
続けてリアが口を開こうとした時、はっとした様子で将軍の後ろに控えていた副官がリアの背後に視線を向けた。
それを見てリアは口をつぐみ、後ろを振り返る。ショウもなにかが近づいてくる気配には気づいていたのだが、殺気を感じなかったため、リアに注意を促すことをしなかった。
リアはチラリとショウを見て、警戒している様子がないことを確認してきた。実際、元暗部出身である副官も警戒する様子を見せない。
ショウはリアを見て、こくりと頷く。それを見たリアが、傍に置いていた杖を手に取って、小さく地面を叩いた。微かな金属音が響いて、結界魔法が解かれる。会議室の空気が流れるようになり、周りの喧騒が戻ってくる。
その直後、「失礼致します!」と声がした。
その声に将軍が応えると、もう一度、「失礼致します!」と言って入って来たのは、よく見かける伝令役の兵士だった。
兵士の姿が天幕内に入り切ったのを確認して、リアが結界魔法をかけ直す。途端に会議室内の空気が張り詰め、それに気づいた兵士が不安そうな顔をしたが、将軍が話を促したことによってその場で直立不動になった。
「たった今、報告が入りました!」
慌てた様子の兵士は、びしっと背筋を伸ばして敬礼をする。
兵士のただならぬ雰囲気に、その場にいた全員の間に緊張感が走る。
「申し上げます! 先ほど、剣士部隊の兵士一名が遺体で発見されました!」
その報告に、その場にいた全員が言葉を失った。リアは驚きの表情のまま将軍を見つめ、一番最初に我を取り戻した副官が「それは間違いないのですか?」と訊ねる。
兵士は「剣士部隊隊長よりの報告です!」と答えた。
「……」
リアは少し思案する表情を見せ、おもむろに持っていた杖についている魔鉱石で地面を軽く叩く。その瞬間、ショウの身体をリアの魔力が走り抜けるのを感じ、しばらくしてから背後から再び魔力が走り抜けた。
「……軍内部に不審な気配は感じられない」
信じられない、というような雰囲気でリアが呟く。どうして魔法に不審な気配が引っかからないのか、心底わからないといった様子だ。
「ノース=カイマート兵の気配はまったくない。殺害した後、すぐにこの軍から離れたということか?」
「とりあえず、遺体を軍医に詳しく見てもらいましょう。手配を頼む」
将軍から指示を受けた副官はこくりと頷き、リアが再び結界を解いたのを確認してから、伝令役の兵士と共に会議室から出て行く。
この軍に同行している軍医は腕前が確かな信頼できる人物なので、彼の検死結果を待つしかないだろう。
リアが三度、結界魔法を張り直すのを確認してから、将軍はリアへと視線を向け、「やはり、俺はノース=カイマートの間者がなにかしらの方法でリア様の魔法をすり抜けているとしか思えません」と告げる。




