信頼と裏切りの戦場12-1
12.
次の日、朝食を終えたリアとショウは、将軍からの呼び出しを受けた。呼びに来た副官を見た瞬間に、リアが「呼び出しか……」と小さく呟いたのをショウは聞き逃さなかった。
今の状況が状況なだけに、将軍としてもリアのことが心配なのだろうと思う。ショウの腕前は信用しているかもしれないが、それでも万が一の不安を拭い去れないらしい。
会議室を訪れたリアに将軍は結界魔法を張るようにお願いし、リアがそれに応えるのも昨日見た光景と一緒だ。結界魔法が構築された瞬間に、周囲のざわめきが消え去り、空気が留まっているような感覚になる。まだ二回目なので、違和感を覚えずにはいられない。
将軍が勧めた椅子に座ったリアの後ろに立ったショウは、副官が将軍の背後に控えたのを見る。これも昨日見た光景と同じ。
リアは持っていた杖をテーブルに立てかけてから口を開いた。
「あれから一日に何度か探査の魔法を使っているが、ノース=カイマート兵士が潜り込んでいる気配はまったく感じられない。ここまで感じられないとなると、もう軍内部から出て行った可能性が高いと考えている」
リアがそう言うと、将軍は「そうですか……」と小さく呟いた。考え込む将軍に、リアはさらに言葉を重ねる。
「だが、もしかしたら近くの身を隠せる場所に潜んでいる可能性もある。そこを探した方がいいのではないか? その際、ほかの兵士たちにも今の状況を説明しなければならなくなるが……。兵士同士が疑心暗鬼になって連携が乱れるのは避けたいところだ」
「その目的もあると考えています。こちらを内部から突いて、崩壊させるのも目的の一つかと。ですが、俺は間者がなにかしらの方法で入り込んでいると考えています。問題は、どうやってリア様の探査の魔法を潜り抜けているかです」
「……お前がそう言うのであれば、その可能性も考えよう」
リアは将軍の言葉を素直に受け取った。自分の考えに固執するつもりはないらしい。自分が正しいと信じて疑っていないほかの隊長たちとはだいぶ違う。
椅子の背もたれに深く寄りかかったリアが、「探査の魔法の条件を変えてみるか……」と言ったのを聞いて、ショウは視線だけを赤髪の少女に向けた。
腕を組んで考え込んだ様子を見せているリアはショウの視線に気づいておらず、探査の魔法に条件とかってあるんだ、と思った。確かに、条件付きで使わないと不審な気配なんて探れないだろう。しかし、どうやって条件をつけているのかはわからなかった。説明されてもわからないかもしれない。
リアは真正面にいる将軍と言葉を交わし続けている。その後ろに控えている副官は、まったく表情を変えない。
ーー本当に人形みたいな人だ……
表情を一切変えることなく将軍の後ろに立っている姿を見ていると、精巧に造られた人形なのではないかと錯覚してしまいそうになる。
そう思いながら見つめていると、ふっと視線を上げた副官と目が合った。気まずくて慌てて視線を逸らす。向こうが少し怪訝そうな視線を向けてきているのがわかったが、ショウは視線を逸らし続けた。表情を変えずに耐え切っている自分を褒めて欲しい。
結界魔法が施されている会議室内は、周辺の騒がしさがまったく入ってこないため、リアと将軍の声がよく響いていた。その声が少しだけ反響しているように聞こえる。
逆に静かすぎて不気味さを感じるほどなのだが、その違和感をほかの三人は感じていない様子だ。慣れていないショウだけが、この違和感に落ち着かないだけらしい。まぁ、何回か繰り返しているとそのうち慣れるかもしれない。リアの護衛をしている間は何度でも、こういう状況を経験するだろう。
昨日兵士が不審死をしていたという報告を受けた日の夜は、ショウはリアのスペースの中で不寝番をしていた。途中で目を覚ましたリアがベッドから出てきて、「結界の魔法をしばらく展開しておくからお前も少しは寝ろ」と言ってくれたおかげで、二時間ほど仮眠を取ることができた。
ショウは亜人の里で、短い睡眠時間でも問題なく行動できるように訓練を受けている。そのため、二、三日はまったく寝なくても問題ないし、一日に二時間ほど寝ることができれば日常生活に影響はない。
リアも亜人は睡眠時間が短くても問題ないことを知っているらしく、夜中の間に二時間ほど結界魔法を使ってショウを眠らせてくれた。それはとてもありがたく、リアの気遣いに感謝した。おかげで、体調はすこぶるいい。
その後、結界魔法を解いてもう一度眠ったリアの番をしていたショウは、無事に夜明けを迎えることができた。
天幕の向こうが白々としてきたのを見ていると、周囲から人の声が聞こえ始める。ほかの隊長たちも起き出してきたようだ。その騒がしさでリアも目覚ます。




