信頼と裏切りの戦場11−1
11.
「兄が、そのサウス=リアクター軍の兵士の不審死に関わっていたということですか?」
信じられない、というような表情のローゼムに、リアはこくりと頷いた。
「本人がそう言っていたから、間違いないと私は考えている」
「そうですか……」
ローゼムは驚きはしているものの、リアやショウの言葉を疑っている様子はなかった。レンゼムの遺族であれば、信じたくないようなことを話しているつもりなのだが、ローゼムは二人の予想とは違う反応を見せ続ける。
「聞きにくいことですが、兄はその兵士を殺害したのでしょうか?」
「……」
訊ねてはいるものの、ローゼムの中で答えは決まっている声音だった。ただの確認のための問い。
そして、リアとショウが沈黙したことが、その問いを肯定しているも同然だった。二人が口を閉ざしたことによって、ローゼムは「……そうですか」と再び呟いた。
「兄は、なんのために敵軍にそんなことをしてまで潜入したのでしょうか?」
「ーーレンゼムの最終目的はリアだったと思う」
ショウの言葉に、ローゼムはリアへ視線を向けた。
「戦場では、魔法使いの強さが戦況を左右することもある。リアは今でも成人していない未成年で、当時はまだ十三歳だった。それでも、その身の内に秘める魔力は世界最高峰だと誰もが認めていた。ノース=カイマートはリアの存在に気づき、その力がサウス=リアクターを有利にさせると判断したらしい」
「ノース=カイマートは私を消せば、戦況は自軍が有利になると思ったようだ。そして、大胆に兵士を敵軍に潜入させる方法を取った。私はまさかそんなことを考えるとは思わず、まんまと騙されたというわけだ」
十三歳のリアは、レンゼムが敵軍の兵士だとはまったく疑っていなかった。レンゼムの風貌はサウス=リアクターの人間そのものだったし、話す言葉もノース=カイマート独特の訛りもなかった。どこからどう見ても、サウス=リアクターの人間に見えた。
敵軍もそれをわかっていて、レンゼムを送り込んできたのだろう。
「大嫌いな国の人間の中に混ざるのは、レンゼムとしては腑が煮えくりかえるほどの怒りがあったはずだ。それでも、あいつはその感情を悟られることなく、サウス=リアクター軍に馴染んでいた。今思えば、すべてが演技だったのだろう。私に向けたあの笑顔も全部嘘だったと思うと、なんとも言えない気持ちになるな」
レンゼムはすでに亡くなっている。今となっては、どんな気持ちでサウス=リアクター軍にいたのか知ることはできない。
「でも、ローゼムの話でよくわかった。自分の母親を追い詰めた祖父と同じサウス=リアクターの貴族である私を、レンゼムは心底憎んでいたはずだ。それに、私はまったく気づかなかった」
リアのその言葉に、ショウはすぐに、違う、と言いかけた。しかし、言葉は発さずに口を閉ざす。違うと思ったのはショウの主観であって、事実とは違うかもしれない。気休めのようなことを言ったところで、本人が死んでいるのだから確かめようがない。
でも、それでもリアと一緒にいる時にレンゼムの瞳に憎しみの炎は見えなかった。どんなに隠そうとしても、瞳には感情が宿る。ショウが見ていても、そんな感情はまったく感じなかった。ショウから見て、レンゼムは本当に自分に懐いてくれているリアを可愛がっていたように見えた。
「この国が嫌いだったのであれば、私のことは殺したいほど憎いはずだ。ゆえに、レンゼムは私の信頼を最終的には裏切った」
リアはそう言うが、あの時のレンゼムは心底楽しそうに笑っていた。あの笑顔が嘘だったとは思いたくない。リアの向ける優しさが滲む瞳も、全部嘘だったとはどうしても思えなかった。
正直、ショウは全部嘘だったとは思っていない。レンゼムのなにもかもが嘘だったとリアは思っているようだが、ショウの目にはサウス=リアクター軍の中で見たレンゼムのすべては嘘ではない気がしてならない。
だって、レンゼムは死の間際、ショウに言ったのだから。聞こえていなかったその内容をリアは知らない。ショウにだけ、レンゼムは告げた。だから、ショウはリアの言葉が間違いだとわかっている。
ーー『本当に申し訳ないことした……』
脳裏に、あの時のレンゼムの言葉が甦る。目を瞑れば、レンゼムの最期の姿が思い浮かんだ。力を失い少しずつ体温を失っていく身体の冷たさを、絶望と共に見つめたあの時のことを。
「でも、兄がサウス=リアクター軍の兵士を殺害したのはわかりましたが、動機がわかりません。確かに兄はサウス=リアクターのことを嫌っていましたが、それだけの理由で敵軍に潜入して兵士を殺害するとは思えないんです」
「レンゼムには、サウス=リアクター軍に潜入しなければならない理由がほかにあったと言うことか?」
リアは、少し驚いたような表情をする。てっきり、サウス=リアクターに対する憎しみだけで潜入して来たとばかり思っていたようで、ローゼムは違う動機があるのではないかと言う言葉に驚きを隠せないようだ。




